距離実績よりも順調さと格がモノを言った
文/編集部(M)、写真/稲葉訓也
アメリカJCCはとにかく
上位人気馬が強いレースで、1985年に芝2200mの重賞となってから、
6番人気以下で優勝した馬は2頭だけしかいない。そのうち1頭は東京で施行された02年の
フサイチランハート(8番人気)で、中山では93年の
ホワイトストーン(6番人気)だけになる。
別定G2戦だから上位人気馬が強いレースを見せても何ら不思議ではないのだが、近年の勝ち馬には
距離に関して不安を感じさせない実績があった。05年以降はほとんどの勝ち馬(11頭中10頭)に
芝2200m以上での連対歴があり、例外は07年の
マツリダゴッホだけ。実績の中でも
「距離実績」があった方が良いだろうと感じていた。
アメリカJCCでも「距離実績」が問われなかった時代はあり、00~04年は
5年連続で
芝2200m以上での③着以内がなかった馬が優勝している。しかし、それは10年以上も前の話で、今年も「距離実績」は重要だと思っていたが…………優勝したのは
2200m以上で[0.0.0.3]という
ディサイファだった。
今年、「距離実績」を頼りにすることに対して、
不安がなかったわけではない。今年のメンバーの中で、2200m以上で連対歴のある馬は11頭いたが、
重賞に限ると4頭だけ。そのうち
サトノラーゼンと
ルルーシュは
休み明けで、
スズカデヴィアスと
マイネルメダリストはともに
外枠に入ってしまった。
アメリカJCCは
上位人気馬がよく勝つというデータの他に、
休み明けの馬が勝てないというデータもあり(90年以降で休み明けの馬は未勝利)、
サトノラーゼンは好枠(3枠6番)で脚を溜められれば覆せるかとも思って期待したが、今年も休み明けの馬は敗れてしまった。
スズカデヴィアスと
マイネルメダリストは、外から一緒に先行して終始競り合ってしまい、最後まで脚が続かなかった。
ディサイファは2枠3番という内枠を利して内ラチ沿いを走り、
距離ロスを限りなくゼロにしたコース取りをできていた。あのコース取りは、鞍上の
武豊騎手が戦前に考えていた通りのものだったようだが、実績のない距離でもあのポジションを取りに行って折り合えることが
ディサイファの
強味でもあるのだろう。昨夏の
札幌記念では先行してそのまま押し切っていて、あの自在性の高さをもっと評価すべきだった。
最近の中距離以上の重賞は
「逃げ馬不在」というケースが珍しくないが、そんな時に
ポジションを取りに行っても掛からない性格は武器になる。
有馬記念での
ゴールドアクターもそうで、小回りの
中山では特に威力を発揮する面があるのかもしれない。
ディサイファは昨年の
アメリカJCCにも出走していて、0秒4差⑤着だった。その時は穴ぐさ💨に指名していて口惜しい思いをしたのだが、穴ぐさ💨コメントには、
「芝2200mは未経験だが、グラスワンダーの近親なのでこなすスタミナがあって不思議ない」と記していた。また、
ディープインパクト産駒でも
重い馬場を得意にしていて、上がりのかかりやすい
中山もダメではないはずと感じていた。結果的に1年後にそのことが証明されるとは……。
「距離実績」を重視しすぎて
ディサイファを軽く扱ってしまったが、今回のメンバーの中で
ハンデ戦ではないG2を勝利したことがあったのは3頭だけで、そのうち
サトノラーゼンと
ショウナンマイティは休み明けだった。中6週だった
ディサイファについては、
順調さと格で勝利したと表現するがいちばんしっくりくるのかもしれない。
②着に入った
スーパームーンは、父
ブライアンズタイム×母父
サドラーズウェルズという配合で、息の入りづらい流れでレース上がりが35秒4とかかったのもプラスに働いたのだろう。
ちなみに、勝った
ディサイファは父
ディープインパクト×母父
Dubai Millenniumという配合で、このワンツーは
他系統同士に見えるかもしれないが、
ディサイファの5代母
Soaringは
スーパームーンの5代母でもあり、この2頭は
同じ牝系同士だ。ここまで代を経ると適性に共通性があるのかどうか、よく分からないが、ワンツーをしたところを見ると、
引き付け合う何かがあったのかもしれませんね。
ディサイファで優勝した
武豊騎手は、デビュー初年度から続いている
JRA重賞勝利を
30年連続に伸ばした。もちろん素晴らしいもので、昨年に続いて
1月に記録を更新しているところに、今年も大きな期待をしたくなってくる。
武豊騎手のその年最初のJRA重賞勝利を列記してみよう。
【武豊騎手の年別の最初のJRA重賞勝利】
年 |
月日 |
レース |
勝ち馬 |
2016年 |
1月24日 |
AJCC |
ディサイファ |
2015年 |
1月11日 |
シンザン記念 |
グァンチャーレ |
2014年 |
2月9日 |
きさらぎ賞 |
トーセンスターダム |
2013年 |
2月10日 |
京都記念 |
トーセンラー |
2012年 |
2月12日 |
京都記念 |
トレイルブレイザー |
2011年 |
2月26日 |
アーリントンC |
ノーザンリバー |
2010年 |
2月14日 |
ダイヤモンドS |
フォゲッタブル |
2009年 |
2月1日 |
京都牝馬S |
チェレブリタ |
2008年 |
2月24日 |
フェブラリーS |
ヴァーミリアン |
2007年 |
1月27日 |
東京新聞杯 |
スズカフェニックス |
2006年 |
2月5日 |
共同通信杯 |
アドマイヤムーン |
2005年 |
1月5日 |
京都金杯 |
ハットトリック |
2004年 |
1月11日 |
ガーネットS |
マイネルセレクト |
2003年 |
1月12日 |
シンザン記念 |
サイレントディール |
2002年 |
1月5日 |
京都金杯 |
ダイタクリーヴァ |
2001年 |
2月24日 |
アーリントンC |
ダンツフレーム |
2000年 |
1月16日 |
日経新春杯 |
マーベラスタイマー |
1999年 |
1月17日 |
シンザン記念 |
フサイチエアデール |
1998年 |
1月6日 |
平安S |
エムアイブラン |
1997年 |
1月15日 |
シンザン記念 |
シーキングザパール |
1996年 |
1月28日 |
クイーンC |
イブキパーシヴ |
1995年 |
2月5日 |
きさらぎ賞 |
スキーキャプテン |
1994年 |
1月30日 |
京都牝馬S |
ノースフライト |
1993年 |
2月7日 |
東京新聞杯 |
キョウワホウセキ |
1992年 |
3月15日 |
阪神大賞典 |
メジロマックイーン |
1991年 |
1月27日 |
クイーンC |
スカーレットブーケ |
1990年 |
1月28日 |
京都牝馬S |
リキアイノーザン |
1989年 |
3月5日 |
ペガサスS |
シャダイカグラ |
1988年 |
2月14日 |
きさらぎ賞 |
マイネルフリッセ |
1987年 |
10月11日 |
京都大賞典 |
トウカイローマン |
08~14年は最初のJRA重賞勝利が
2月になっていたが、昨年と今年は
1月に早々と記録を更新している。というか、3月までズレ込んだのは
92年が最後で、デビュー年を除くと
初重賞勝利が4月になったことがないんですね。改めてその偉大さを感じずにはいられません。