このレースを挟んで、3歳牝馬路線の印象がガラリと変わった
文/編集部(T)、写真/森鷹史
1番人気に推された
ジュエラーの単勝オッズは2.0倍、2番人気
シンハライトのそれは5.6倍。第一印象は
「そこまで差がつくものかな」という感じだったが、これは
ジュエラーの鞍上・
M.デムーロ騎手が重賞騎乗機会5連勝中だったこともあるのだろう。
それはそうと、皆さんが
「今年の3歳クラシック戦線について語って下さい」と言われたとき、どんな言葉を返すだろうか。牡馬戦線については
「サトノダイヤモンドが強い」、
「マカヒキの方が上」、
「リオンディーズが巻き返す」、
「いやいやエアスピネルもまだ見限れない」などなど、語るべきことが多いだろう。
それに対して牝馬戦線は、少なくともこの
チューリップ賞を見るまでは、
「メジャーエンブレムの一強でしょ」で済まされることが多かったはず。
しかし、このレースを見てからはどうだろうか。
「それでもメジャーエンブレムを信じる!」という方もいるだろうが、そういう声ばかりでなくなったのではないか。
クイーンCを5馬身差で圧勝した
メジャーエンブレムも強烈だったが、今回上位を占めた2頭、勝った
シンハライト、②着の
ジュエラーは、それに匹敵するほどの強烈な印象を残した。
チューリップ賞にはある傾向がある。以下は、
チューリップ賞が外回りの阪神芝1600mで開催されるようになった07年以降の勝ち馬とそのタイムだ。
■チューリップ賞勝ち馬のタイム
年 |
馬名 |
勝ち時計 |
馬場 |
07年 |
ウオッカ |
1分33秒7 |
良 |
08年 |
エアパスカル |
1分35秒8 |
良 |
09年 |
ブエナビスタ |
1分36秒5 |
良 |
10年 |
ショウリュウムーン |
1分36秒1 |
重 |
11年 |
レーヴディソール |
1分34秒5 |
良 |
12年 |
ハナズゴール |
1分35秒5 |
良 |
13年 |
クロフネサプライズ |
1分34秒9 |
良 |
14年 |
ハープスター |
1分34秒3 |
良 |
15年 |
ココロノアイ |
1分37秒7 |
重 |
16年 |
シンハライト |
1分32秒8 |
良 |
勝ち時計の
黄色地は
1分34秒5以内のタイム、馬名の
桃色地は
国内G1勝ち馬を示す。09年の
ブエナビスタは前日に雨が降って湿った馬場だったが、少なくとも
好タイムでチューリップ賞を制した馬はすべてG1馬となっていることがわかる。
そういったところは事前に知ってこのレースを見たので、
「果たしてどんなタイムが出るのか」と楽しみにしていたら、掲示板に灯った数字は
「1分32秒8」と来た。
3歳牝馬としてはこのタイムは破格で、さすがにこれには驚いた。
前半600m通過が34秒6と例年より速かったこともあったが、あの
ウオッカより0秒9速いタイムは文句をつけようがないものだろう。
シンハライトと
ジュエラーのレースぶりを振り返ると、道中から最後までほぼ並走の形で、
ジュエラーが内で
シンハライトが外。追い出しのタイミングもほぼ同じで、並びながら脚を伸ばし、鼻面を並べたままゴールしてハナ差の決着となった。
道中の位置取りがともに
「11-11」、
上がりが33秒0、
走破タイムも1分32秒8でまったく同じ。
モンジューと
エルコンドルパサーの
凱旋門賞ではないが、
「今年のチューリップ賞に勝ち馬は2頭いた」と言いたくなる結果だ。
道中で内を通った
ジュエラーと外にいた
シンハライトの差をどう見るかだが、現時点でのこの2頭に実力の差はほとんどないと見ていいのではないだろうか。
シンハライトの鞍上を務めた
池添騎手は、レース後に
「それでも勝ち切ったのは勝負強い」と語った。その言葉通り、それでも勝った
シンハライトと、②着に敗れた
ジュエラーが今後どのような戦績を積むか、改めて楽しみにしたい。
そして、本番の
桜花賞で待つのは
メジャーエンブレム。同馬がこのコースで走った
阪神JFは、前半600m通過が34秒6で
チューリップ賞とほぼ変わらず、走破タイムが
1分34秒5だった。そして、
阪神JF②着馬
ウインファビラス、③着馬
ブランボヌールはともに
阪神JFから走破タイムを1秒2縮めながらふた桁着順(
ウインファビラス⑩着、
ブランボヌール⑭着)に敗れている。これをどう見るか。
しかし、
メジャーエンブレムは
クイーンCで
阪神JFからタイムを2秒0縮め、
1分32秒5で走破した。こちらも確実な成長を感じさせ、女王の座を譲る気配はまったくない。
冒頭でも触れたが、
「今年の3歳牝馬路線はそれほどレベルは高くない」と言う人は、このレースを経て確実に減ったはず。ひとつの重賞でここまで印象がガラリと変わるとは、自分でも少し驚きだ。
桜花賞が1分32秒台の決着となったことはまだないが、今年はそれほどハイレベルなレースが見られるかも?と期待している。