もう、日本競馬界を代表するエースと言っていい
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/川井博
今年のメンバーを見渡した瞬間、心にポッカリと穴が開いたような感覚に陥った。昨年まで3年連続で参戦し、あらゆる意味で注目を集め続けていたゴールドシップが昨年末で引退。近年の芝長距離路線を引っ張ってきた
芦毛の怪物の取捨には常に頭を悩ませてきたが、いざいなくなってみるとやはり寂しいもの。実際に最近はこの馬の参戦が
春の盾を大いに盛り上げていた。
しかし、ゴールドシップがターフを去っても、
予想が難解なレースというのは変わらなかった。今年はG1馬がわずかに3頭のみという混戦ムード。11頭立てだった前哨戦の
大阪杯がG1馬5頭だったことを考えれば、小粒なメンバー構成という感じは否めない。
さらに、1番人気が予想されていた
ゴールドアクターが開幕2週目の馬場で外枠に入り、上位人気必至の
サウンズオブアースが直前で
M.デムーロ騎手から乗り替わるなど、頭を悩ませる材料がどんどん増えていった。
レースは
キタサンブラックの逃げ。道中の隊列はすぐに決まり、淡々とした流れで進んだ。
ゴールドアクター、
サウンズオブアースは好位から追走し、まったく道中の隊列が変わらないままに迎えた直線。
キタサンブラックが直後から詰め寄る
ゴールドアクターを振り切った瞬間、インの好位で脚をためていた
カレンミロティックが強襲する。2頭による叩き合いの末、ゴール直前で差し返した
キタサンブラックが見事にふたつめのG1タイトルを手にした。
キタサンブラックが最内枠に入った瞬間、この形のレースは十分に想像がついた。しかし、私の記憶の中でこのレースでの逃げ切りと言えば04年に大逃げから圧勝したイングランディーレぐらい。
キタサンブラックの今までのレースからは想像できない競馬で、やはり
逃げ切りは至難の業という勝手に作った「常識」が最後まで離れなかった。
しかし、発馬直後に決まった隊列に大きな変化はないまま、道中のまくりを示唆していた
トゥインクルも中団に押し上げるまでが精いっぱい。2周目の向正面では
キタサンブラック、いや
武豊騎手がレースを「支配」していることを確信した。
実際にラップを見てみると、スタートしてから12ハロンまでに
12秒台のラップを10度刻み、ラスト4ハロンは
11秒台でしっかりとまとめた。ペースを落としすぎれば早めに動く馬が出てくる危険もある中、実に理想的な平均ラップを刻んだ。
「思い通りにいきましたね」(
武豊騎手)。これまで
春の天皇賞6勝、
菊花賞4勝。淀の長丁場を知り尽くす
武豊騎手による完璧な手綱さばきだった。ちなみに先述したイングランディーレの逃げ切りは76年のエリモジョージ以来で、当時の鞍上は
福永祐一騎手の父・
福永洋一騎手。やはり、
逃げ切り勝ちを演じているのは日本競馬史に残る名手たちだった。
キタサンブラックはこれでG1・2勝を含む重賞4勝目。④着以下は3歳時の
日本ダービーだけで、あとはすべて③着以内という
抜群の安定感を誇る。しかし、デビュー戦以来、何と1番人気は1度もなし。
セントライト記念勝ちから臨んだ
菊花賞も5番人気での勝利。芝の中長距離路線の王道を歩んでいく中、
「母父サクラバクシンオー」という血統が常に
ファンの
不安要素となっていた。
しかし、
清水久調教師や
北島三郎オーナーは
「距離はまったく問題ない」と信念を貫き、挑戦を続けてきた中での勝利。
もう、日本競馬界を代表するエースと言っていいだろう。
有馬記念を含む5連勝の実績を買われ、1番人気に推された
ゴールドアクターは⑫着とまさかの大敗。レース前のイレ込みが気になっていたが、道中でも折り合いを欠き、直線では力なく失速していった。
3歳時の
菊花賞以来となる長距離輸送をしての競馬で、しかも今週はゴールデンウィークの渋滞を考慮して、金曜日から京都競馬場で2泊するなど取り巻く状況が今までとあまりに違いすぎた。これで1番人気馬は06年のディープインパクト以来、10年連続で連対圏すら確保できず。
鬼門のレースになってきた。
最後に勝った
キタサンブラック、③着の
シュヴァルグラン、④着の
タンタアレグリアと4歳勢が上位を占めた。これに昨年の2冠馬ドゥラメンテや、
ドバイターフでG1初制覇を果たしたリアルスティール、さらには豪華メンバーの
大阪杯を制したアンビシャスが加わる非常に層の厚い世代で、
今後の日本競馬を引っ張る世代になりそうだ。ゴールドシップは抜けたが、
新たな可能性を秘めた逸材たちは続々と生まれてきている。