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【対談・木藤助手④(終)】藤田菜七子騎手の教育係として感じる、今後の課題とは
2016.5.4
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木藤隆行調教助手…以下[木]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]いまは乗り替わりが当たり前の時代ですけど、マイナス面もありますよね。

[木]個人的な意見では、マイナスの方が大きいと思います。大前提として、馬と人間は信頼関係で成り立っています。技術面で言えば、ハミあたり。これは上手い、下手ではなくて、繊細なもので合う、合わないという感覚的な部分が絶対にあるんです。例えば、アンチャンが乗って勝ちました。じゃあ、トップジョッキーが乗ったら、もっとたくさん勝つかと言えば、決してそうじゃないこともあります。

[西]僕自身は、もしエルプスが木藤さんじゃなかったら勝つことはできていなかったと思います。すべてが線でつながっていたから勝てたんじゃないですかね。だって、半馬身遅れてしまったとき、周囲を蹴散らしても行くという選択肢は、それまで乗って知っていた木藤さんだからこそ選ぶことができたんですよ。

[木]合う、合わないということもありますよね。

[西]馬には個性があって、それを無視してしまっては良い結果が出なくなってしまうと思うんです。合う、合わないって、見ていてわかるものですか?

[木]それで藤田菜七子の話になるんですけど、あの子の模擬レースをみたときに、すぐに気がついたのが、ステッキを入れたときにそこを見てしまっていたんです。ステッキは叩くのではなく、促すものであって、付属的な扶助です。それを確かめてしまうと、それだけでバランスを崩しているということですし、ブレーキとアクセルを同時に踏んでいることになってしまうんです。

[西]なるほど。

[木]それ以外にも、初めて川崎でのレースが終わったときに、本人に反省点を聞くと、外に膨れてしまいましたという答えが返ってきたので、『あとは?』と聞くと『えっと』と答えに詰まってしまったんです。そこで、左回りの川崎で、左にステッキを持っていたぞ、と。すると、次のレースでは右に持って対応できていたんです。

[西]馬に乗る方はわかりますが、だいたい利き腕に持ってしまう癖がありますよね。

[木]菜七子は左なんですよね。しかも、初騎乗の日ですから、舞い上がってしまうのがある意味当然で、俺に言われたとしてもなかなか対応できなくて当たり前だと思うんですが、しっかりと対応できていたんです。その後のレースでは、右で持っていたので、馬をしっかりと抑え込めていました。それと、追った感じが攻め馬のときとはまるで別人で、しっかりとハマって追えていたんです。これは教えてできるものではありません。センスなんですよ。

[西]実は、僕自身は菜七子ちゃんと挨拶程度しかしたことがないんです。(丸山)元気とか、木藤さんからの情報しかないんですけど、初騎乗がコーナーがキツイ川崎だいうことを心配する声がありました。そう思うと、予想以上に上手に乗っていたと思いませんか?

[木]予想以上と言っていいくらい上出来でしたよ。実は、川崎でデビューしたのも、うちの先生と私が話をしていて、「3日はひな祭りか」「その日にデビューだったら面白かったのにね」という会話がきっかけになったんです。3日に川崎開催があって、交流レースがあり、その条件にレガリアシチーが合っていたので、『6歳で中央場所に出走できないので、それならば』ということになったんです。瓢箪ならぬ冗談から駒みたいな話でした。

[西]それが結果的にはあれだけ注目されることになったんですからね。初勝利の日のニュースは凄かったですよね。僕自身としては、初勝利もそうなんですけど、ネイチャーポイントのレースが興味深かったんです。恐らく、行くように指示が出ていたと思うんです。

[木]先生からはハナに行くように指示が出ていました。

[西]でも、行けなかった。そこからの対応は凄いと思いました。

[木]良いところを見ているね。普通の新人ならば、あそこからでも行ってしまいますよ。あの子、腹をくくって乗っているんだと私も思いました。信人が思うんだから、僕はもっと思いますよ。

[西]そうなんですよ(笑)。

[木]師匠から指示が出ていれば、それに従わなければという意識に、新人ならばなおさらなるのが当たり前ですけど、あの対応は凄いと思いました。もし、自分だったらと新人の頃を思い浮かべましたけど、間違いなく行っていましたよ。

[西]新人騎手にとっては、着順よりも指示通りに乗れたかどうかの方が評価の対象だったりますからね。そういう話を菜七子騎手本人としているんですよね?

[木]あのレースの後、『先生から行くように言われてたんだって?』というと『はい。でも行けなかったので諦めました』って言うんだから。

[西](笑)

[木]行かなかったとしても、少しずつ小出しに動いていくと脚を使ってしまうことになるんです。それが最後まで我慢していました。そういう機転というのは、簡単にみえてなかなかできないものなんです。

[西]一流騎手の人たちならば言われないですけど、実績のない騎手の人たちはそうじゃないですからね。

[木]それとね、あのレースは、評論家の方々などは良いスタートという評価をされていましたが、そうではありません。上に向かって出ていたんです。普通、上に向かって出ると、お尻を付いてしまうもので、そうなるとハミが当たる形になってしまう。でもあの子はお尻を付くことなく、出ることができていました。だから、良いスタートにみえたんです。スタートが上手いと言われた私でも、1年目からあの動きはできませんでした。馬の動きにピッタリと付いていくことは普通できませんし、それができるのはセンスでしかないんです。そういう意味でのセンスの凄さは想像以上ですよ。

[西]デビュー前は心配じゃありませんでしたか?

[木]ウチは乗り手が揃っていることもあって、ゲート試験は1、2回しか受けさせていないんですよ。

[西]それでできるんだから凄いですね。

[木]菜七子がうちに来ると決まった時に、先生から教育係を仰せつかったわけですけど、一番最初に『どこが足りないかわかるか』と聞いたところ、『体力です』と言葉が返ってきました。確かに男性と比べたときに劣るのはある意味自然な話で、それを補うことができるのは“スタートの上手さ”だという話をしたんです。どんな馬でもスタートを上手に出せる。それに対して、スタートから追いどおしだったとしたときに、4コーナーの地点ではどうですか。

[西]そりゃ、スタートを決めて楽に流れに乗っている騎手の方が体力は残っていますよね。

[木]そうです。スタートを決めて楽に行くことができたら、そこまで温存された体力があるわけですから、体力勝負になっても勝ち目が出てくるわけですよ。もっと簡単に言えば、いかに4コーナーまでに自分自身の体力を温存することができるかどうか、ということなんです。長距離だろうが、短距離だろうが、スタートが一番大事なんだという話をしました。

[西]4コーナーでフィフティフィフティ、あるいはそれ以上に、自分の体力が残っていたならば、勝負になるということですよね。

[木]だから、ゲート試験をもう少し受けさせても良かったという思いはありました。『よし、前出ろ』という声が出てから1、2、3というタイミングだということと、それまではどんな馬でも少し横を向けておくように、という話をしました。

[西]僕たち助手はゲート試験だけですし、そこまでのレベルは求められませんが、それでも難しいです。それ以上の繊細さというのは難しい。簡単に言えば、ゲート試験では前に向けても突進していく馬というのはほぼいません。でも、現役の馬たちは条件反射的に突進していきます。本当に繊細なんですよね。

[木]その通りです。ただ、初騎乗が川崎でしたので、中央と地方との違いも心配でした。

[西]違いますよね。

[木]最後の馬が入って、声がかかって、1、2、3のタイミングに対して、地方は最後の1頭を残して、係員を全部出して、そして最後の1頭が入るとすぐにゲートが開くスタイルなのです。

[西]そうですよね。何と言ったんですか。

[木]そこは自分のタイミングでしかないと言いました。最後の馬が入るのを確認したら出る準備をしておくように、と言ったんですが、すべてを意図も簡単に川崎の時点でクリアすることができていたんです。

[西]いやぁ、センスがあるんですよ。

[木]信人は良くわかるだろうけど、馬も人もスタートはセンスですからね。

[西]デビュー前、木藤さんから『怒れば泣いてしまうし、大丈夫なのかな』というお話もお聞きしていました。そういうなかで、日曜日の競馬で騎乗馬の外側をパドックで木藤さんが引いている姿をみて、万感の思いだったんじゃないかと思いながら、菜七子ちゃんではなく、木藤さんの姿に熱いものを感じました。

[木]自分の子供みたいな感覚ですよね。

[西]ここまで上手くきていると思うんですけど、どうですか。

[木]まだまだ序曲でしかありません。いまは注目されていますけど、勝負の世界ですから結果を出せないと駄目なんです。どんな騎手でも、その騎手人生のなかで、一度は挫折を味わうものですから、必ず挫折が待っています。これは必ず。それをどうやって乗り越えられるか。

[西]言葉は悪いですが、まだお客さんという部分はあるでしょうね。

[木]特に地方競馬は、来ている騎手ですし、厳しい競馬をして、もし落馬でもしてしまったらという考えにもなりますから、楽な競馬をさせてもらっています。でも、そんなことは続きません。

[西]それはそうですよね。

[木]スプリングSに乗せてもらった後に、聞いてみると『凄く難しかったです』と言っていましたけど、そうですよ。平場でさえそうなのに、重賞ですからね。みんなが何がなんでも勝ちたいという思いで乗っているわけですから、そりゃ簡単に競馬させてくれません。まだ菜七子自身、本当の意味での怖さをわかっていませんから、もし手応えがあったときには、突っ込んでいくでしょうし、そうなってからが実は危ないんです。スペースを開けてくれなくなってからが本当の勝負ですよ。

[西]いまはまだ周囲が怖がっていたりもするのかもしれませんよね。

[木]あと1ヶ月くらいかな(笑)。でも、そこで最初の壁が来るはず。それをどう乗り越えられるか。私自身も一緒になって頑張っていかないと、という思いでいます。

[西]木藤さんだけでなく、元気も、怒ると泣いてしまう、それが駄目だと言っていたんです。でも、そこで木藤さんが『お前、言われて泣く時点で、勝負師としては下に見られるんだぞ。泣きたいときにはトイレで1人で泣け』というようなことを言ったと元気が言っていて、僕は感激しました。そういう教育がされているのは、とても大切なことですよ。

[木]言いました(苦笑)。勝負師の世界は駄目。怒られたときには、『すみません』と言って、トイレにいって1人で泣かないと。男と戦う世界で生きていくことを決めた時点で泣いたら負けなんです。それを言ってからは、私の前で泣いていませんよ。でも、これから必ず泣くときがきます。

[西]いやぁ、頑張ってもらいたいですね。

[木]大変ですよ。菜七子自身が思っている以上に、いろいろな困難が待っています。あとは、菜七子が『何くそ』と思って歯を食いしばって頑張れるか。とにかく無事に頑張ってほしい。私はそれを微力ながら応援します。

[西]いやぁ、本当にお忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。

[木]ありがとうございました。

[西]またよろしくお願いします。



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