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あのサプライズを自然と思い出すような鮮やかな逃げ切り勝ち
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/川井博


絶対王者モーリスの約半年ぶりとなる国内でのレース。しかし、今回ばかりは色々と不安要素が頭をかすめた。特に東京競馬場で着地検疫を受け、香港からの中4週というローテ。もともと、昨年の香港マイル以外、常に適度な間隔を取りながら連勝を築き上げてきた。

昨年の安田記念ダービー卿CT以来2ヵ月ぶり、マイルCSは約5ヵ月半ぶり。堀厩舎だけに中途半端な状態で出走させないだろうとは思っていながら、その点がどうしても引っかかっていた。

ただ、モーリスが負けるにしても、どんな形なのか。これが、なかなかイメージがわかない。マイルCSのように豪脚でねじ伏せる競馬もあれば、前走のチャンピオンズマイルは好位から余裕たっぷりの抜け出し。どんな競馬もできる自在性があるからこその「絶対王者」なのだ。もっとも、2番人気のリアルスティールも海外帰りで、初のマイル投入だったことなど、レースの全体像自体がなかなか見えづらい一戦ではあったが…。

そんな思いを巡らせながら見ていたが、レース後には「これがあったか」と肩を落とすしかなかった。前半3ハロン35秒0、4ハロン47秒0は過去10年の良馬場で行われた安田記念の中ではもっとも遅いペースだ。

その中でモーリスは鞍上との折り合いを欠き、掛かり気味に2番手へ取りついた。その直後には同じく折り合いを欠いていたリアルスティール。この2頭をはじめ、直線は有力馬が進路を取った馬場の真ん中から外の方へ視線を向けていたが、「異変」に気づいたのはラスト2ハロン手前。内ラチ沿いで逃げるロゴタイプが止まらない。外から飲み込まれそうで飲み込まれることなく、勢いがまったく鈍らない。結局は他馬に影を踏ませることなく、②着を何とか死守したモーリスに1馬身以上の差をつけた。

鞍上の田辺コパノリッキーで勝った14年のフェブラリーS以来となる中央G1・2勝目。当時も2番手を追走していたコパノリッキーのすぐ外に2番人気だったホッコータルマエがつけ、1番人気のベルシャザールが後方から脚を伸ばす。この2頭に神経を集中させ、視線を外へ向けていると、内からするするとコパノリッキーが再び脚を伸ばしてきた。結果的には半馬身差の完勝で、最低人気馬での大波乱を演出。あのサプライズを自然と思い出すような鮮やかな逃げ切り勝ちだった。

ロゴタイプは13年の皐月賞以来、実に3年2ヵ月ぶりの勝利が再びG1の大舞台。02年のこのレースではアドマイヤコジーンが約3年半ぶりのG1勝利を挙げたが、骨折によるブランク期間が長かった。しかし、ロゴタイプは長期の休養期間もなく、常に一戦級で大崩れせずに活躍。いままでの戦績から朝日杯FS、皐月賞を制した「中山巧者」のイメージが強かったが、東京マイルでも2歳時にベゴニア賞を当時の2歳コースレコードで制していた。鞍上の好騎乗があったとはいえ、見事な復活劇に頭が下がる思いがする。

そして、モーリスである。約2年ぶり、8戦ぶりの敗戦となる②着をどう見るのか。結論から書くと、負けて強しの走りだったと思う。発馬直後から前に壁を作れずに行きたがり、持って行かれるような感じで2番手まで押し上げた。

とはいえ、G1で単勝1.7倍の支持を集めていた大本命馬。逃げ馬のハナを叩くことまではできず、道中で相当に体力のロスを強いられた。その中で最後はほんのわずかな差が明暗を分ける、一団となっての瞬発力勝負。T.ベリーの右ステッキに最後まで加速を続け、同じく好位集団の追撃を封じ込むと、大外から強襲したフィエロの追撃もハナ差しのいだ。

府中の長い直線で同じく折り合いを欠いたリアルスティールが⑪着と馬群に沈んでいく中、ほぼ全馬が参加した熾烈な②着争いをきっちりと制したあたりは絶対王者の高い能力とプライドだろう。当然、秋の巻き返しは必至と見ているが、個人的にひとつだけ気になるのが「主戦」と言える騎手が不在なこと。

昨年の連勝が始まった若潮賞から今回で8戦目だが、その間に6人もの騎手が手綱を取っている。決して今回のT.ベリーがどうこうと言うわけではないが、今日のように折り合いを欠いた時、もし一度でも乗った「経験」のある鞍上ならば対処の仕方も違ったのでは、と感じたのはだけだろうか。

ちなみに、今回は12頭立てだったが、過去の安田記念で少頭数のレースを調べてみると、最近では14頭立てだった99年。単勝1.3倍と圧倒的な1番人気だったグラスワンダーがエアジハードの強襲に遭って、まさかの②着に敗れた。また、今回と同じ12頭立てだった88年はニッポーテイオーが鮮やかに逃げ切っていた。「歴史は繰り返す」という言葉、忘れた頃に重みを感じるものである。