戸崎騎手の作戦が的中し、得意な展開になったことも勝因
文/出川塁、写真/稲葉訓也
今年の
七夕賞は戦前から
混戦ムードで、その気配はオッズにもよく反映されていた。単勝オッズでいえば、1番人気の
シャイニープリンスでも5.8倍で、以下、
ルミナスウォリアーと
アルバートドックがともに5.9倍と差がなく続いた。
また、上位人気の中に単勝人気順と複勝人気順が一致する馬が見当たらなかったのも珍しい(単勝、複勝とも同じ人気順だった馬の最上位は8番人気の
メイショウナルト)。それだけ各馬の能力差が小さく、馬のキャラクターに合わせて単勝と複勝を買い分けていた人が多かったのだろう。
そして、人気が示した通りの結果が出たのだから、最近の
競馬ファンは本当に馬券が上手い。勝ったのは単勝3番人気、複勝4番人気の
アルバートドック。要するに、手堅く③着以内を確保するというより、好走するならアタマまで突き抜けるタイプと見られており、実際に勝ち切った。
一方、②着に入った
ダコールは単勝5番人気に対して複勝3番人気だから、③着以内の確率は
アルバートドック以上だが、勝ち切るまではどうかという評価。この①②着馬は、まさしく
ファンが見立てた通りの結果となった。
勝った
アルバートドックは、鞍上・
戸崎圭太騎手の作戦も的中した。スタート直後の状況なら先行する競馬も十分に可能だったが、
戸崎騎手は控えて中団からの競馬を選択。
メイショウナルトが飛ばして1000m通過が57秒9というハイペースになったことを思えば、これは大正解だろう。前日に歴代5位のスピードで
JRA年間100勝を決めた絶好調の
戸崎騎手だけに、さすがに作戦も冴えている。
道中8番手で脚を溜めて、3コーナー過ぎから徐々に進出。早め先頭で押し切りを狙った
クリールカイザーを直線の半ばでかわすと、
ダコールの追撃もしっかりと抑えて、今年の
小倉大賞典に続く重賞2勝目を飾った。ちなみに、その
小倉大賞典の②着馬も
ダコールだった。
勝ち時計は1分58秒4。開催が2週目に移った13年以降、
4年連続となる1分58秒台の決着となった。最終週に行なわれていた頃の
七夕賞は2分を超える決着が普通で、2分を切れば時計が出たなというレースだったが、道悪にならない限りは
高速決着が標準仕様になったと考えて間違いない。
注目は上がり3Fのラップ。高速決着とはいってもレースの上がり3Fは37秒2とかかっており、その内訳も12.2-12.4-12.6とゴールに向かって減速していく
消耗戦だった。実は、
アルバートドックの重賞初勝利となった
小倉大賞典のレース上がり3Fも11.5-11.7-12.1という減速ラップだった。
戸崎騎手の作戦が当たったことに加えて、得意な展開になったことも勝因だったのだろうし、
ダコールとのワンツーが再現されたことにも納得がいく。
それにしても、先週の
ラジオNIKKEI賞を制した
ゼーヴィントに続いて
ディープインパクト産駒が福島重賞を連勝。一般に
ディープ産駒といえば直線の長いコースの高速上がりが得意で、反面、上がりが出ない小回りは向かないといわれている。しかし、小回りの
消耗戦と向かないはずの条件が揃った
七夕賞で、いとも簡単にワンツーを決めてしまった。
春競馬を振り返っても、
ディープには合わない配合とされる母の父
ロベルト系のディーマジェスティが
皐月賞を制している。ここにきて、苦手といわれた条件や配合で定説を覆すような結果を次々に出しており、もはや手がつけられない。下級条件ならともかく、
重賞クラスでは先入観を持たずに臨んだほうが得策だ。
ところで、
七夕賞は
サマー2000シリーズの第1戦でもある。このシリーズのツボといえるのが、対象5戦のうち
札幌記念を除く4戦がハンデ戦ということだ。そのため、シリーズ序盤で勝ってしまうと、終盤のレースで厳しいハンデを背負わされてしまう。だから、元々のハンデが軽かった馬の優勝か、シリーズ前半は②③着ぐらいに入ってポイントを加算しながらもハンデの上昇を抑えて、最終戦の
新潟記念を勝ってシリーズ優勝に結びつけるケースが多い。
その点、
七夕賞の時点ですでに57キロを課されていた
アルバートドックは、夏の王者を狙うにはそもそも
不利といわざるをえない。となると、定量戦の
札幌記念を選ぶか、秋に備えて休養に入るか。それとも重ハンデを承知でコース実績のある
小倉記念に出てくるようなら、本気度はかなり高いとみていいだろう。