父来場のその日に新たな孝行息子が誕生
文/浅田知広、写真/川井博
まずは昨年の反省(?)から。北海道の芝1800m
新馬・未勝利(良)で、1000m通過タイムが各年2、3番目に遅かったレースの勝ち馬は、翌年のクラシックで馬券に絡む、てな話を書いた。該当したのは、昨年の
札幌2歳S①②着、アドマイヤエイカンとプロフェットだったのだが、終わってみればアドマイヤエイカンは
不出走で、プロフェットが
皐月賞⑪着、
ダービー⑰着と、残念ながら(馬券も買った)勝負には絡めなかった。
なお今年は、遅いほうから2番目が1000m64秒5のソウルスターリング。そして3番目はここに出走している64秒4の
インヴィクタ(3番人気)。また、もっとも遅かったのは64秒7の
コリエドール(4番人気)で、こちらも出走を果たしている。
まあ、クラシック好走は今年で切れたと考えるなら気にする必要はない……、とはいえ。気づいた以上はもう1回くらいは挑戦したい気持ちもあり。そして
インヴィクタがクラシックで好走するなら、今回も馬券に絡むくらいには、という発想にもなる。ちなみに、函館1800mで
2歳レコードの逃げ切り勝ちを飾った1番人気の
タガノアシュラは、61秒9で2番目に「速い」ほうだった。
その
タガノアシュラは先行するのかと思えば、なんとゲートで出遅れ。また、
新馬戦を先行して勝った2番人気
ディープウォーリアも遅かった上に、3番人気
インヴィクタは
新馬に続く出遅れ。人気上位3頭が、すべて出遅れるという
波乱のスタートである。
そんな中、抜群の飛び出しから好ダッシュを決めたのは、
川崎所属の
トラストだった。前走の
クローバー賞では遅めの出脚も、川崎900mの
新馬戦を逃げ切ったのだから、態勢さえ整えばこのくらいのスピードはあるということか。勢い良く出ていった分、序盤は掛かり気味だったが、道中は落ち着きを取り戻して800m49秒0、1000m61秒6。これが
新馬だったら速いほう、しかし重賞となればマイペースと言っていいだろう。
こうなると、苦しいのは出遅れた人気どころ。向正面半ばでは
タガノアシュラ、
インヴィクタ、
ディープウォーリアと前後する位置取り。もし先行しているのが力不足の馬なら、「あの人気馬がここにいるなら」というレースではある。
しかし、逃げた
トラストはなにせ
英ダービーすら目指そうかという馬。そしてキャリア4戦、加えて前走では初芝、初の右回り、初遠征を克服してオープン②着の実績馬。対してこの3頭、人気とはいえ1戦1勝、
新馬を勝ったばかり。決して油断はできない展開だ。
そんな中、人気勢では3コーナーからじわじわと
タガノアシュラが動きはじめたが、ちょうどそんなタイミングを見計らったかのように、先頭の
トラスト・
柴田大知騎手もペースアップ。2番手につけていた
ジャコマルが後退すると、
トラスト(
岡田繁幸氏)と似た勝負服の
アンノートル(
ビッグレッドファーム)が追っていったが、
トラストの手応えはまったく楽だった。
そして後続、最初に動いた
タガノアシュラは伸びひと息で、その外からマクっていった
ディープウォーリアも失速気味。あるとすれば距離損なく馬群を突いた
インヴィクタかとも思ったが、これも脚色は鈍かった。
結局は
トラストが、4コーナーで作ったリードをさらに広げて逃げ切り。そして②着には、
クローバー賞で
トラストを下した
ブラックオニキスと、
クローバー賞の①②着が入れ替わった形のワンツー決着となった。
勝った
トラストは、先に触れたように川崎の900m戦で新馬勝ち。そして②着
ブラックオニキスは、函館芝1000m戦でデビューし、札幌芝1500mで初勝利を挙げた馬だった。一方、残る11頭の最短経験距離は1500m、10頭は1600mと、今回のメンバー中で群を抜いて短い距離を経験した2頭が上位を占めるという、
ちょっと珍しい結果でもあった。
そしてこの日は、最終レース終了後のパドックに、
トラストの
父スクリーンヒーローが登場。
スクリーンヒーロー自身は札幌での重賞出走こそないものの、08年に
支笏湖特別を制して同年の
ジャパンC優勝に繋げた。
また、産駒のゴールドアクターは、14年に
支笏湖特別を勝ち、続く
菊花賞で③着。翌年には
有馬記念を制している。今年はもう1頭の代表産駒モーリスが
札幌記念で②着に敗れてしまったが、
父が競馬場にやってくるこの日に、新たな孝行息子が誕生したことになる。
また、
トラスト自身は
母の父エイシンサンディで、
サンデーサイレンスの3×3。ゲームの世界ではもう10年以上も前に多々目にしたような気もするが、リアルでもこんな血統が出てくるとは早いものだ。
ともあれ、あれやこれや挙げればキリがない
トラスト。
重賞タイトルという実績も手にしたことで、現時点で話題性、スター性は文句なし。報道によれば
日本ダービーを目標という話もある模様。
クローバー賞②着で第一関門の突破を失敗したかと思いきや、まだまだこれから楽しみが広がりそうだ。