年齢を重ね、成長を遂げてついに頂点へ
文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/濱田貴大
シンハライトもジュエラーもいない。ヴィブロスは見送り、ヌーヴォレコルトは米国遠征中。それでも面白い
エリザベス女王杯だった。勝った
クイーンズリングにはストーリーがあった。
競馬の魅力がしっかりと詰まった一戦だった。
まずはレースを振り返る。
クイーンズリングだけが出遅れた。ただ、そのこと自体は結果的に、決して悪くはなかった。スムーズならばおそらく
マリアライトの横に並んで1角に入っていたのではないか。その
マリアライトは1角で明らかな
不利を受けた。もし、その横にいたらどうだったか。想像の範ちゅうでしかないが、何かが起こっていた可能性は決してゼロではない。
そして、この点が重要だ。出遅れたことでインを進むことができた。1角の入りは
ミッキークイーンの直後で9番手付近のイン。勝負するポジションにしては、やや後ろかなと思ったのだが、1000mを通過して少しペースが緩んだあたり、
M・デムーロ騎手は手綱を少し緩めてあげて、インからポジションを少し上げた。このあたりの対応力が
ミルコの真骨頂だ。
直線を向く。一瞬、インを狙うかに見えたが
シングウィズジョイがインに向かったのを見て、素早く外へと切り替えた。
ミッキークイーンと
メイショウマンボの間、1頭分の狭いところをすり抜け、先に先頭に立った
シングウィズジョイを目指してスパート。この時の瞬時のスピードアップで
ミッキークイーンを置き去りに。粘る
シングウィズジョイを最後の最後に捉え、初G1を手にした。
終わってみれば、上位3頭はすべて道中、インを通った馬。出遅れたことで
ミルコがインを選択したことが最終的に正解だったことになる。勝つ時はスタートの
不利さえもプラスの方向に働くのだから、競馬は難しい。
冒頭で
クイーンズリングにはストーリーがあると書いた。
私が感じたのは
「体質の弱かった馬がじっくりと成長して頂点に立つ」という物語である。今でも鮮明なのは昨年春、
フィリーズレビュー出走時。馬体重を20キロ減らし、パドックではさすがに細く見せながら、レースでは鋭い脚を繰り出して差し切った。その後に多少、白星から遠ざかったのは、この時の激走の反動も少なからずあったのではと想像する。
そんなことを思っていたら、グリーンチャンネルの電話による生産者インタビューで
社台ファーム関係者がこんな内容のことを話していた。
「牧場での調教時、疲れて1頭だけ、調教の途中で休んでいた」。
やはりである。元々、そんなに体質の強い馬ではなかったのだ。それが年齢を重ね、じっくりと体に実が入って、ついに頂点に立つ。これは競馬が誇る、
典型的美しきストーリーのひとつである。ああ、良かったなあ。
関係者は喜んでいるだろうなあ、と素直に思える。
関係者といえば、①②着はともに
社台ファーム生産馬。これも良かったなあ、という感じだ。
ノーザンファームの時代が長く続いたが、どっこい、
社台ファームも
存在感を取り戻している。社台だって大牧場という声もあろうが、
当事者たちはこちらが思っている以上に危機感やライバル意識を持っているものなのだ。
②着
シングウィズジョイは
ルメールがインにこだわるベストの騎乗ぶりが奏功した。マカヒキ、ヴィブロス、シュヴァルグランと乗りに乗っている今の
友道厩舎の勢いに、この馬も乗ったような感じもあった。③着
ミッキークイーンは、やはり久々が響いている。抜け出す時に
クイーンズリングに遅れを取ったのが久々のためで、結局はそこが命運を分けた。
注目すべきは
パールコード。大外枠は厳しかったが、それで④着に踏ん張っているのだから大したもの。
不運だったのはスタート後、そばを走っていた
シャルールが興奮していたことだ。これによって、
シャルールを早めにパスしなければならなくなり、予定より微妙にスピードを上げる必要が生じてしまった。
そういえば、この馬も今春、14キロ体重を減らして
フローラS②着。昨年の
クイーンズリングと多少、重なる面がある。同じ
社台ファーム生産馬という点も面白い。来年の牝馬戦線では堂々たる
主役の座についているかもしれない。