西田騎手にとって“計算された”差し切りだった!?
文/編集部(T)、写真/稲葉訓也
週末を迎える時点では雨の心配もあった新潟だが、結果的に雨は降らず、
アイビスサマーダッシュは
【晴れ・良馬場】というコンディションで行われることになった。
このレースが2回新潟開催の開幕週での施行となった13年以降はいずれも
良馬場で行われていて、
昨年まで1番人気が4連勝。昨年は逃げた
ネロの直後に付けた
ベルカントが制し、
ネロが②着に粘り込んで、③着も好位にいた
プリンセスムーンと、完全な先行決着。
前に行った3頭の速さ勝ち、といった印象だった。
新潟芝直1000mができたのが01年。その頃は一ファンだった自分は、
「直線競馬なんてガーッと行ってスタミナが切れた馬が脱落するだけでしょ?」くらいの認識だった。確かに、過去の
アイビスサマーダッシュの中にもそういうレースはあるのだが、そうではなく、
駆け引きや
騎手の意志、作戦がレースの結果を左右する年もある。
今年はそういう年だったんじゃないか?と思うわけです。
前述したように今年も例年通りの
良馬場で行われたこともあって、例年通りの時計勝負&先行有利では、という分析が多かったように思う。そんな中、まず
“意志”を見せたのが1番人気
フィドゥーシアに騎乗した
石橋騎手。5枠10番からスタートし、上体をグイッと外に傾けて馬を誘導し、
“何が何でも外へ”という強い意志を感じさせた。
周知の通りこのコースは外枠有利のため、過去のこのレースでも外ラチ沿いを通った馬が包まれて進路をなくす場面もあった。しかし、
前に行けばそうそう包まれることもない。前&外有利を踏まえた上でのこの動きは、
フィドゥーシアのダッシュ力を考えると最適だったはずだ。
一方、出走馬中唯一の
3歳牝馬で、ここは
斤量51kgの軽量となったのが
レジーナフォルテだ。スタート直後に外の
ラインミーティアとぶつかるような場面もあったが、怯むことなく前を行く
フィドゥーシア、
アクティブミノルの間に頭だけを出す形で進路を確保。これも各馬が外に殺到する傾向を踏まえ、
“前を邪魔されることだけは避けたい”という
杉原騎手の作戦だったのではないだろうか。
大外枠から注文通りに先行した
アクティブミノルも含め、
ここまではそれぞれ作戦通りだったはず。それを打ち砕くような形で、後方から襲いかかってきたのが
ラインミーティアだった。
ラインミーティアの鞍上は
“千直巧者”として知られる
西田騎手。いつもテンの行き脚はつかない馬で、今回も外ラチ沿いを後方待機となったが、残り400m手前の時点でムチを入れて追撃を開始すると、ポッカリと空いた外ラチ沿いを伸び、ゴール寸前で逃げ込みを図る
フィドゥーシアを測ったように差し切った。
レース後、
西田騎手は
「作戦は?」と聞かれて
「作戦というよりも、この馬の切れ味を存分に出し切るということだけ考えて乗りました」という趣旨のコメントを残した。謙遜っぽく聞こえるが、
それも立派な作戦だろう。
それを裏付けられそうな数字もある。今回の
西田騎手は
ラインミーティアに4戦連続での騎乗で、そのうち良馬場だったのは3戦だが、繰り出した
上がり3ハロンタイムはすべて31秒6なのだ。
今回は前走の
韋駄天S(④着)から斤量が4kg増えたことも踏まえつつ、どこで追い出せばどれだけの脚を使えるか、
“千直巧者”にとっては
ある程度計算された差し切りだったように思えて仕方ないのだが……どうだろうか。
一方、敗れた
フィドゥーシアも重賞初挑戦で正攻法の競馬をして②着に入ったのは立派だし、③着
レジーナフォルテも3歳にして古馬相手に好勝負したことは評価できるだろう。
特に、このレースを3歳で好走した馬は
カルストンライトオ(01年③着)をはじめ、
クーヴェルチュール(07年③着)が後に重賞を制している。特殊な条件で
リピーターが多いレースでもあるだけに、今回の上位馬は今後も要注意となりそうだ。