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【対談・金子騎手②】障害で生きていく、と決めたきっかけとは
2017.8.30
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金子光希騎手…以下[金]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]競馬学校時代の減量の話を続けましょう。1日牛乳とサラダだけで、翌朝の検量まで我慢なわけですよね。いやぁ、凄い。

[金]逆にそれで減ってしまう人もいたんですけど、いずれにしても増減が1日で500グラムを超えると乗れなくなっていたはずです。

[西]減るのも駄目だったの?

[金]減るのは一応大丈夫でしたけど、その分増えてしまう可能性が出てくるわけですよ。例えば、明日500グラム減ったとします。でも、その翌日には1キロ戻ってしまうことがあるんですよ。そうなると、アウトになってしまいます。時効だから言いますけど、軽すぎた時は鉛をパンツに隠し持ったりして調整していました。



[西]重くするのは簡単だよね。

[金]全然、簡単ですよ。重くするのは加えれば済みます。息を吐いて100グラムとか減ってくれればいいんですけどね(苦笑)。

[西]でも、脱走して走るというのは凄いわ。

[金]絞れなくて、脱走して走って、お風呂で倒れてしまったんです。その上で、下剤とかも飲みました。でも、それをやると実技の時間とかに本当に脂汗をかくことになるわけですよ。

[西]それが競馬学校1年生でしょう。そこからデビューして、今年で18年目ですよ。よく騎手という商売をやっていますよね。

[金]何でもできる人っていますよね。うらやましいなぁと思うこともありますけど、僕には他の選択肢がありませんでしたから。この道でやっていくしかない、という思いだったと思います。

[西]それにしても凄いよ。なかなか自分で血を抜くという経験をする人はいないよね。

[金]そうかもしれません。

[西]先生とかにはバレなかったの?

[金]大丈夫でしたね。でも、本当に出せるものは何でも出していましたよ。

[西]僕も、競馬学校時代には60キロという制限がありました。いまはそこまで厳しくはないみたいですけど、170センチで60キロになるのは決して簡単ではなかったりするわけです。それが、180センチとなるとなおさらですよ。でも、金子さんほどやった人は聞いたことがありません。

[金]ですから、いまでも体重で苦労されていた厩務員さんたちとは仲が良かったりします。サウナスーツを着て、バスケットゴールをやっていました。

[西]あ、やっていたね。

[金]でも、それでも落ちる量には限界があるんですよね。そこから風呂に入って、そして下剤ということもありました。でも、周期的に使用していると、効果が薄れてくるんですよね。厩務員さんとかのなかには、1回に何錠も飲んでいる人もいましたから。

[西]僕も緊急事態のときにはそれに近いことはあったなぁ(笑)。

[金]あまりにも汗を出し過ぎると、いきなり指がつって動けなくなってしまったり、倒れたりと、いろいろなことが起こるんですよね。

[西]でも、何だかんだと言っても、薬を使わないとしたら、走ることが一番痩せると思うんだけど、どう?

[金]そうなんですけど、間に合わない可能性がありましたから。水100ミリリットルで100グラム増えるという計算で動いていました。

[西]体には良くないのかもしれないけど、体重のことをその時だけ考えるならポテトチップスとかは良いんですよね。軽いから。

[金]そうですよ。

[西]質料保存の法則ですよね(笑)。

[金]1日900グラム。これが上限でした。それ以上食べたり、飲んだりしないようにしていました。

[西]その内訳は?

[金]朝、ラジオ体操して、寝わら上げをして200グラム。実技をして300グラム、排泄で100グラム、そして睡眠で300グラム減る計算です。それ以上飲んだり食べたりしてしまうと、もう次の日はアウト。常にギリギリのところでしたので、100グラム増えてしまうと、実技で乗ることができませんでした。寝る前の時点で300グラム以上増えていると駄目ですし、起きてすぐに体重を計測してもし減っていないと、検量までの間に血を抜くしかなくなってしまうわけですよ

[西]尋常ではないよ。でも、その当時にあった寝ることで300グラムという感覚は、いまでもあるの?

[金]それが出来ていたならば、もっと騎手として活躍していると思います(苦笑)。もちろん、そういう感覚はあります。ただ、全く同じようにとはできません。

[西]言葉は悪いけど、人間の生活ではないよね。

[金]語弊がある言い方かもしれませんけど、言ってしまえば、学校を卒業するためだけに生きていた感覚でした。騎手になった後ではなく、なることだけに意識が行っていたんだと思います。

[西]でも、それは本音だろうね。とにかく体重を維持すること。それだけのために、すべてがあったということでしょう。そうやって騎手になって、そこから障害で生きて行くぞと決めたわけだけど、何かきっかけはあったの?



[金]ありました。ひとつは、障害に乗り始めてからですけど、平地に逃げ道を作っているから大成できないんだぞ、とある先輩に言われたことです。それと、その当時行われていた“除外での権利取り”で名前を貸したときに、頭にきたことがあったんですよ。

[西]というと。

[金]当時は平地の免許があって、仲良くしている厩舎や騎手のマネージャーをしているトラックマンさんに、除外狙いの馬について名前を貸したんです。そのときに、冗談で“名前を使われるだけで、何か僕たちにもないとやっていられませんよね”と言うと、次の週にいつも悪いなと手を握られました。何かと思うと、3000円だったんですよ。いやぁ、腹が立ちました。そりゃ、底辺というか、乗り役の端くれですけど、自分の顔と名前を出して、命を賭けて騎手として生きています。そういう思いをもってやっているんですけど、それを汚されたと思いました。

[西]いやぁ、それはふざけている。騎手というか、1人の人間を馬鹿にしているよね。それは聞いている方も頭にくるわ。

[金]冗談ですよ、ともちろんお金は返しましたけど、あれほど頭にきたことはないかもしれません。赤字になってでもローカルに1頭でも乗りに行く。乗りたいという僕たちの思いというか、心なんて考えていない。だから、そういうことができるんですよ。

[西]タイムリーというか、そういう状態を野放しにしてきてしまったから、いまのエージェント問題が勃発してしまうわけですよ。金子さんの話はもちろん大きい出来事なんですけど、氷山の一角だったりもするわけですよね。もしかしたら、もっと酷い話はあると思います。

[金]いまでも、障害のオープンクラスに限り除外で権利を取るという制度はあります。そのときには、使えるならば使ってくださいと善意でお話はします。でも、それは普段からの関係があった上で、善意からなんですけどね。

[西]わかるよ、わかる。それならば今度食事でも、と誘われた方がいいのだろうし、それより何より、普段から金子さんに対しての態度がしっかりとしたものであったら、そういう言葉や態度は出ないですよ。お金を握らせるというのは本当に人を侮辱しているし、絶対に許せない行為です。

[金]読者の方々にはわかりづらい話かもしれませんよね。すみません。

[西]いや、読者の方々は理解してくださっていると思います。話をしてくださって、ありがとうございます。ただ、騎手の人たちが、看板を掲げて生きていく重みと大変さと、その思いという部分については、なかなか触れるというか、聞く機会がそれほど多くないので、いまひとつ感覚として掴めないかもしれません。極端な言い方をすれば、名前を貸して3000円もらえるならばそれはそれでいいんじゃないか、と思う人もいると思います。

[金]そう思う人はいると思いますよ。

[西]でも、そうじゃない、と僕も思うんですよ。

次回へ続く

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