【対談・金子騎手③】人間関係こそが競馬、特に障害レースの醍醐味
2017.9.6
金子光希騎手…以下
[金]西塚信人調教助手…以下
[西][西]話は少し変わりますけど、癖があったり、歩様の悪い馬がいたとします。でも、普段は声も掛けず、挨拶さえしないのに、そういう馬を頼むときになると、何くわぬ顔をして「空けろよ」と言うような人もいるんですよね。もっと酷いときには、癖や歩様の話をしないで乗せる人さえいます。もちろん、それは良いことではありません。やはり、馬の状況を伝えるのは最低限のことですし、
「申し訳ありませんが、よろしくお願いします」というひと言がなければ駄目だと思うんです。
[金]ひと言あれば、こちらも思いが変わりますよね。そうやって信さんみたいに気遣いをしてもらえると、嫌な気分にはなりません。
[西]そうなってしまうのは、簡単に言えば、ご都合主義というか、自分のことしか考えていないからだと思うんです。でも、厩舎は1人だけの力ではやれません。だからこそ、人と人の繋がりが重要になってくるわけです。
[金]本当にそうです。
[西]昔から、競馬の世界は人と人との繋がりが大切だと言われてきたじゃないですか。癖や歩様がいまひとつの馬であっても、そういう部分を見込んで頼んでいることがわかっていただけますから、騎手の方も「大丈夫ですよ」と言ってくれます。それは普段からの関係があればこそで、そういう関係が大事だと思うんです。
[金]そういう馬がレースを経験していく過程で、徐々に良くなってくれることにも生き甲斐を感じたりしますからね。そこでチェンジとなると、本当にヘコみます。
[西]そこですよ、そこ。
[金]特に障害騎手はそう思うはずです。自分が作ってきたという思いがありますからね。先日、
シンキングダンサーという馬で重賞(今年の
東京ジャンプS)を勝たせていただいたんですけど、普段からお世話になっている武市先生から声をかけていただいて、バッティングした時だけ山本さんにお願いをしましたが、それ以外は僕しか障害を飛ばしていませんでした。だからこそ、勝った時は本当に嬉しかったです。僕自身のなかでは手塩にかけて、と言っては大げさに聞こえるかもしれませんが、そういう馬たちの関わり合いこそ、何とも言えない充実感を得ることができるんですよね。
[西]そういう人間関係が競馬の醍醐味というか、もっと言えばそういう部分がない競馬は本当につまらないと思うんですよね。語弊はあるかもしれませんけど、障害の面白さというのも、そういう部分にあると個人的には思っています。馬たちは、平地では頂点を極められなかったという背景があって、騎手の人たちも、平地で思うような活躍をすることができないという背景があって、それぞれがそれでも、と求めてくる舞台が障害だと思うんですよ。そういう人間関係というか、生き様があって、そういう部分に魅かれるんじゃないですかね。金子さんが体重に苦労しながらも重賞を勝つことにこそ魅力があると思うんです。
[金]ドラマ性の部分に、人が興味を持つというところはあるでしょうね。
[西]金子さんと言えば、
テレジェニック(06年中山グランドジャンプ③着など)ですよ。西塚厩舎の
ビジネスサイクルと一緒に走ったりして、当時は勝ちこそしないけれど、着に来て稼ぐなぁと。倒産寸前のうちからすると、“いやぁ、うらやましいな”と思えました。でも、管理する矢野進先生と金子さんの間では、いろいろな事情があるんだろうなぁと思って見ていたんです。関係者はもちろん、詳しいファンの方々だったら、そういう想像はしていると思うんですよね。
[金]あの馬については、僕自身のブログでも何度も書いていたこともあって、僕だけではなく、ファンのなかにも思い入れのある方々がいるようです。
[西]また、矢野先生はそういう方でしたよね。聞いた話ですけど、蛯名さんが若い頃、レースが終わると常にパトロールフィルムを見ながら、一緒に話をしていたみたいですからね。
[金]先生は人を育てる方だと思います。いまだに矢野会という形で、集まったりするんですよね。
[西]矢野先生の弟子って、蛯名さんの次が金子さんだよね?
[金]僕の後輩が水出(元騎手)ですか。
[西]あ、水出さんもそうですね。水出さんとはいくつ違うんですか?
[金]4つ下ですね。僕の減量がなくなって、水出がデビューした形ですね。
[西]水出も最後の方では障害に乗っていましたけど、兄弟子として
「障害はやめろ」とか、あるいは
「障害に挑戦しろ」とかいうやり取りはあったんですか?
[金]なかったですよ。
[西]水出さんから相談もなかったんですか?
[金]はい。障害に乗ってから、飛ばし方についてなど、細部の常套手段的な話はしましたけど、あくまで押し付けがましくならない程度ですよね。お互いプロですし、そこは聞かれないのに言うことはないですよ。
[西]そうなんですね。矢野進ライン的なものがあったりするのかと思ったんですよ。
[金]もちろん、馬がバッティングしたときなどに、依頼をすることはありましたよ。あくまでそういう感じで、それ以上は相手から求められない限りは、と思います。
[西]私事で恐縮なんですけど、金子さんもご存知のように、僕自身が今年怪我をしまして、初めて長いお休みをいただくことになってしまいました。何とか復帰できたんですけど、正直不安が大きかったですし、怖かったです。もう乗るときはドキドキでした。でも、初日の2歳とかに乗って無事に調教が終わったときの安堵感に、まだまだ頑張れると思ったんですよ。
[金]そういう感覚がやり甲斐であって、充実感なんじゃないですか。
[西]障害のレース前とか、レベルは違うけど、そういう感覚ってあるんじゃないかと思うんです。
[金]ありますよ。
[西]以前、(横山)義行さんに何度か出ていただきましたが、そのときも、
「何回レースに乗っても、ゲート裏では心臓がドキドキする」って言っていたんですよ。
[金]障害のレース前のパドックでは、やはりみんなが何となくハイテンションだったりするんですけど、そういう思いの表れなんでしょうね。
[西]義行さんの言っている意味がわかったりしますか?
[金]ゲートが開いてしまえば、全く消えてしまうんですけど、嫌なことが頭をよぎるものなんです。結局は無事に走り終えるんですけど。
[西]全然怖くない、余裕、余裕、という人っているのかなぁ。
[金]いないと思いますよ。そこはイーブンというか、自分の馬が大丈夫でも、前の馬が転倒してしまって、巻き込まれてしまう可能性はあるわけで、すべてを予見できる人はいないですからね。
※
次回へ続く
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