最強の『セコ乗り』とは? 大庭騎手との対談第2回目です
2009.04.16
先週の対談の通り、桜花賞の4コーナーでインコースに大庭(カツヨトワイニング)がいた時には、「やっちゃうのか」と思いました。
結果的には14着と惨敗だったのですが、でも大庭らしさは十分に発揮されていたと思うのです。
僕が言うのは変かもしれませんが、あの大舞台で、死んだふりをしながらインコースを狙ってこそ大庭ですし、そこが持ち味でしょう。
話は変わりますが、先週、ノボパガーレ(牡3)が勝ち(中山5日目5R)、記念すべき尾関知人厩舎初勝利を挙げることができました。
ブッツチャけ、これで勝たなければ、いつ勝つかというくらい具合が良かったんですよね。土曜日の午後は、本当は作業があるのですが、先生にお願いをして競馬場へ行っていました。
僕的には特に焦っていたことはなかったのですが、それでも「まずはひとつ」という思いはありましたし、いやぁ、本当に嬉しかったぁ。
前置きはこれくらいにして、大庭との対談の続きをお送りしましょう。それではどうぞ。
[西塚信人調教助手(以下、西)]前から聞かなければと思っていたんだけど、内を突くことにはポリシーみたいなものはあるの?
[大庭和弥騎手(以下、大)]ポリシー……ないですね
[西]ないんだ(笑)。
[大]ポリシーということではなくて、最大限に距離ロスを防いで、なおかつ活かそうと追求していくとそうなるわけですよ。ひとつでも上に持っていくためにはどうしたら良いかを考えているんです。
[西]ブッチャけてしまえば、ちょっと足らない馬とかに乗ることも多いから、余計にどうやったら(着を)拾えるかということを考えるのだろうし、追求した結果が内々を狙うということになるんだろうね。
[大]そうですね。
[西]俺は競馬に乗ったことがないから分からないけど、いいところへ付いて行って弾けるとか、しっかりと追うとか、あるいはバランスだとか、騎手の人たちにしか理解できない細々とした技術論があるでしょう。それよりも距離ロスということが……。
[大]いや、バランス良く乗ることなど、様々なことをクリアした上で、インを回ったらもっと良いに決まってるじゃないですか。
[西]そうだよな(笑)。
[大]そうですよ(笑)。でも、これが難しい。
[西]セコ乗りでしょ?
[大]そうです。セコ乗りで、バランス良く、気分良くというのは難しいんですよね。
[西]そうだよね。セコ乗りでヘグる時もあるよな。掛かっちゃったらお終いになっちゃうわけだから。というか、セコ乗りということについて、読んでくれている読者の方々の中には、理解できていない人も少なくないだろうから、説明をしてください。個人的には、セコ乗りをさせたら、大庭は日本でトップクラスだと思っているんだけど。
[大]難しいなぁ……。そうですね、最強のセコ乗りというのは、スタートはまず好スタートです。まず一番にボンと出る。
[西]まずは好スタートね(笑)。
[大]そうしたらインに入っていくわけです。ただ、そこで一気に内に切れ込んで行ってはいけません。どうしても、前を行く馬との距離を詰めて通りたくはないんですよね。
[西]詰まってしまうと、手綱を引っ張って、ハミをいじくらなければならなくなるからでしょう?
[大]その通り。詰まらないようにするために、ハミをいじらなければならないんだけど、なるべくハミをいじくることなく、極力出したり下げたりせずに、馬なりのままインで黙って直線を向く、というのが、僕の考える最強のセコ乗りですね。そしてそこで、前が開いてくれたら、もう最高!
[西](爆笑) それが最強のセコ乗りなんだ。ただ、分かりにくいので、言い換えると、セコ乗りじゃない乗り方というのは、ある程度自分から動いて行くというか、勝ちに行くということでしょ?
[大]そうです。
[西]でも、俺が言っていたように、『普通にセコく』とか、『前々のセコめ』とかいう指示を、他の先生や助手さんにされたことある?
[大]もう、それ、いっちゃうんですか(笑)。
[西]いっちゃおうよ(笑)。言われたことある?
[大]ないですよ(笑)。何度も言うようですが、前に行った時点でセコ乗りじゃないですから。
[西](爆笑) 馬なりで前に行けるくらいじゃないとダメということだよね。
[大]そうですね。好スタートを決めつつ、黙っていても前々にという感じです。
[西]しかも、それがダート1800mとかだと良い?
[大]ダート1800m、良いですね。
[西]やはり、セコ乗りが成功しやすいケースとしては、ダート1800mとか1700mとか、ひと回りする競馬の方が良いのかね。見ていると、ダート1200mとかの短距離では、せこくなれないような印象を受ける。
[大]そうですね。短い距離は、中途半端にバラける傾向にありますし、タメるところがありませんからね。
[西]でも、1800mとかならそうじゃないと。
[大]1800mはタメるところがあるんですよ。また、そこでみんながタマっていると、外へ出して行くわけですよ。
[西]なるほどねぇ。もし、読者のみなさんが、レースを振り返って理解したいということであれば、フレンチムスメが6着となった、あのレース(09年1月17日中山9R初茜賞)でしょう。これこそ『セコ乗り』の集大成というか、ベストレースだと思わない?
[大]ベスト騎乗に近いですね。
[西]あれは感動した(笑)。
[大]ひょっとしたら行けるかなと、一瞬思いましたから(笑)。
[西]またさ、パトロールフィルムを見ていると、向こう正面とかで大庭が狙っている道が分かるから。
[西・大](爆笑)
[西]読者の方からいただいたメールに、『インの大庭』と書いてあったんだけど、『セコ乗りの大庭』でしょうと思う(笑)。
[大]でも、ブッチャけちゃいますけど、外を回って勝てるほどの馬って、なかなか乗っていませんからね。
[西]じゃあ、外を回って勝てる馬に乗った時はどうする?って言われるぞ(笑)。
[大]かつてありました。もうそのクラスにいる馬じゃなかったんです。でも、セコ乗りしてました。
[西・大](大爆笑)
[大]インを回ってましたからね。
[西]脚があってもインなんだ。
[大]いやぁ、たぶん癖というか、もう染みついている感じですね。前に馬がいて、内と外どちらかを選ばざるを得ない状況だったとしたら、迷わずインに行く自分がいるわけですよ。
[西](笑) でも、いいと思うよ。いま、逃げと言えば中館みたいに、枕言葉が付く騎手って少なくなってきているからね。
[大]でも、さっき話の出たフレンチムスメは、上手くは乗れたんですけれど、やはり完璧かと言われると、ちょっとハミをいじってしまっているんですよね。
[西]そこは反省点が残るんだね。でも、前目でのセコ乗りということで完璧だと思ったんだけどなぁ。
[大]いやぁ、極端な言い方をすれば、ハミをいじらない方がいいんですよね。
[西]じゃあ、もっと完璧に乗れたケースはあったの?
[大]名前とかを思い出せないんですけど、ありました。未勝利で、ずっとふた桁着順を繰り返していた馬だったんですが、3着になったんです。
[西]キアラじゃなくて?
[大]もっと前で、東京の1600m戦だったんですよね。
[西]東京と中山ではどちらが決まりやすいとか、セコ乗り理論では、そういうのはあるの?
[大]そうですねぇ、東京は直線が長いからヘグっても間に合うんですよね。
[西]でも、セコ乗りを求められる馬に乗っていると、“ワンヘグり”が命取りになっちゃったりするでしょう? ノーミスで行かないと8着とかに来られないよね。
[大]もちろん、ハマる時には中山の方がデカいですよ。内を回ればそれだけ距離ロスがないわけですし、逆に外を回ればロスが生まれるわけですから、より小回りとなる中山の方がセコ乗りが炸裂するということです。
[西]実は、もうひとつ聞きたいことがあって、内を突くということは開かないケースもあるよね?
[大]確かに(笑)。でも、ブッチャければ、4コーナーで全部が1着になれるという状況ばかりではないですし、8着という時には結構詰まらなかったりするんですよ。
[西]1着を狙うインは詰まるけど、8着を狙うという状況では詰まらないんだ(笑)。名言だよ、名言。深いねぇ、深い。
[大](笑) まあぁ、そういうことです。
[西]1000万円下の芝1200mとかだとゴチャゴチャして、大庭はよく詰まってたりするよね。「おい、また詰まっちゃったな、大庭」と声が出るんだけど。
[大]それでも、インを突くべきだと僕は思いますよ。
[西]確かにさ、追い切りでも馬場のどこを通るかで時計が全然違ってくるから。追い切りであれだけ違うんだから、競馬ならばもっとだろうね。インを突いて怒られたことってある?
[大]ないですね。
[西]そりゃ、そうだろう。大庭を乗せた時点で、インを突くのは分かっている話だからな。
[西・大](爆笑)
[大]でも、本当にそうなんですかねぇ。
[西]大庭を乗せる人たちは誰もが分かっていると思うよ(笑)。そう、そう、乗せる人たちと言えば……。
今週は、ここまでとさせていただきます。いかがだったでしょうか?
実は、『このコーナーの存続を決めるのはあなたのワンクリックです』というフレーズについて、「本当なのか?」など様々な反応をいただきました。
ズバリ、本当です!
ですから、以前の日記で必ず書かせていただいていた『長くなってしまいまして、どうもすみません』と同じように、毎週、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めます』と書かせていただきます。
そして、できる限りみなさんの質問にもお応えしていきたいと思いますので、メールもお待ちしております。
今週は、エフテーストライク(牝5)が出走を予定しております。相性抜群の中山ではなく、阪神での出走となりますが、状態は良いので、何とか厩舎の2勝目を飾れるように頑張りたいと思います。