障害への覚悟と達成感とは? 大庭騎手との対談第3回目です
2009.04.23
先週お話をさせていただいたエフテーストライク(牝5)は期待していたのですが、輸送の影響から大きく馬体を減らしてしまい、12着という結果に終わってしまいました。他にも期待していた馬たちが出走したのですが、ライトニングラン(牡4)の3着が最高という結果にとどまってしまいました。
さらに今週は、残念な報告をしなければなりません。実は、ノボワールドが疝痛のために、命を落としてしまったのです。
これまでに馬が死んで泣いたことはありませんでした。馬は経済動物であるという気持ちでしたし、西塚厩舎の時には、ブッチャけ、どの馬を連れてこようかなど先のことが頭に浮かんでいました。
それが今回は、涙が止まらなかったのです。担当厩務員とローテーションについてやりあったこと、ノボワールドと言えばエース田辺とのやり取り、また武豊騎手に乗ってもらった時のこと、そして転厩という形でお預かりして初めて調教で跨った時に、『一発やれるかもしれない』と思わせられたことなどが、本当に自然と思い浮かんできました。
また西塚厩舎と関わりがあった馬が1頭消えていく現実に、やはり寂しさを感じてしまいます。
前置きはこのくらいにして、今週も大庭との対談をお送りします。それではどうぞ。
[西塚信人調教助手(以下、西)]大庭の追い方については、ヨーロピアンスタイルと言われたりするわけだけど、本人としては意識していたり、あるいは何か理由というか、それこそポリシーがあったりするの?
[大庭和弥騎手(以下、大)]いやぁ、ないですね。
[西]でも、明らかに他の騎手と違うと、乗せる人たちも、そうじゃない人たちも思っているよ。
[大]本当の話をしちゃうと、僕は競馬学校時代、ものすごく下手だったんですよ。それで何とか皆と同じような感じで乗れるようになりたいと思って、こうなのかな、あるいはこうかとやっていたら、いまの乗り方になったということなんです。
[西]あっ、そうなんだ(笑)。
[大]だから、俺ってセンスないなぁと思いますよ。同期である平沢や石神は乗馬経験があって、綺麗なフォームで乗っていて、意識的にはその2人と同じように乗っているつもりでしたから。
[西]じゃあ、平沢と石神を目標にした結果、いまの追い方になったということだ。
[大]そうですよ。
[西]自分でパトロールとか、レースとか見ると、違うなぁと感じたりしているの?
[大]感じますよ。というか、本当に分かりやすいですよね。
[西・大](爆笑)
[大]何が違うと思いますか?
[西]というか、大庭って、アブミが長いよね。
[大]そうですね、他の人よりは。でも、短いと足が疲れちゃうんですよね。
[西](笑) 疲れるって、仕方がないだろう。でも、ケースバイケースというか、馬によっても長さを変えているだろ?
[大]はい、ベストな位置でという意識からです。
[西]だって、「この馬ヤバイ」という時は明らかに長いから(笑)。
[大]まあ、長いですね。でも、そりゃそうでしょう(笑)。
[西]普段から長めなのに、ひと際長い時というのがあって、その時は目立っているよ。個人的には、この馬相当ヤバイんだろうなぁ、と思って見ているんだけどね(笑)。
[大]確かに。田辺の鞍とかを借りる時があるじゃないですか。その時、アブミは田辺が乗った時のままの状態になっているんですけど、そこから6穴くらい伸ばしますから。
[西・大](爆笑)
[西]田辺は短い方というよりは、騎手の中では普通だよ。そこから6穴長くするんだから、すごく長いよな(笑)。短いということで言えば四位さんとかもの凄く短いじゃない?
[大]すごいですよね。僕には乗れませんよ。
[西]落ちる?
[大]落ちますね、確実に。
[西・大](爆笑)
[大]短い方が良いんですかね。
[西]どうなんだろうなぁ。
[大]科学者の人に研究してほしいと思いませんか?
[西]「アブミの長さが与える影響について」ということを?
[大]そうです。
[西]お前、面白いよなぁ(笑)。話は変わっちゃうけど、平地だけじゃなく、障害も乗っているよね。いま、両方乗っている人って少なくなっているから、貴重な存在だけど、いつまで続けるの?
[大]いつまでかは分からないけど、続けざるを得ないでしょう。
[西]頼まれるからなぁ(笑)。ブッチャけ、辞めたくないの?
[大]もちろんそれもありますが、何とも言えない達成感というものも間違いなくあるんですよ。
[西]障害だけで感じることができる独特の達成感があるんだ。
[大]平地だけの日とか、物足りなかったりしますから。「あれ、今週、恐い思いしていないなぁ」と思いますから。
[西]日曜日の夜に思うわけだ(笑)。
[大]今週も競馬に乗ったぞというか、生き延びたぁという感覚があるんですが、障害に乗らなかった日曜日はそれがない。
[西]やっぱり、生き延びたと思うんだ。
[大]毎回思いますよ。どんなに飛びが上手な馬でも緊張します。
[西]じゃあ、大障害は相当生き延びたっていう感覚を覚えるでしょう?
[大]高くても、低くても関係ないですね。障害を飛ぶ時には緊張しますし、終われば達成感を感じます。
[西]飛んでいる最中って、「うわぉ、俺、飛んでるよ」という感覚はあるの?
[大]なります、なります。
[西](横山)義行さんが対談に出てくれた時に、障害のレース前はゲート裏でドキドキしていると言ってたんだけど、大庭はどうなの?
[大]義行さんは間違いなくビビッてない方ですよ。僕は、ビビッているというか、競馬に対して嫌だなと思って乗っている騎手のナンバーワンでしょうね。
[西]うわぁ、嫌だぁと思っているんだ?(笑)
[大]はい、本当に嫌ですから。
[西]ゲート裏でそう思いながら輪乗りをしているわけね。
[大]ゲート裏じゃなくて、木曜日に出走が確定した時点からですよ。
[西](爆笑) 平地は大丈夫だよな。
[大]もちろん平地は大丈夫です。
[西]障害に対して、嫌悪感を覚えたのは最初からだった?
[大]鎖骨を骨折してからかもしれませんね。1回目に足首を骨折した時には、そんな感覚を覚えませんでしたから。鎖骨をやってからは、どういう馬が危ないかというのが分かっちゃったわけですよ。それからは、どんなに上手に飛ぶ馬でも、ちょっと変な跳びをするなど、似たような素振りをしたりすると、全部そういうように感じてしまうんですよね。
[西]そして日曜日の夜に、今週も生き延びたと思うんだろ(笑)。
[大]本当に障害に乗った週は、何とも言えない達成感があるんですよね(笑)。
[西]変な質問をするけど、もし金輪際、障害の騎乗依頼がなかったら乗らない?
[大]自分からはあまり乗りたくないかなぁ。
[西]いや、大庭だと、先輩たちから馬が回ってくるんだけど、もし回って来なかったら乗らない?
[大]乗らないですね。でも、やっぱり乗る馬がいたら乗りますね。嫌だなぁと思いながらも。
[西・大](大爆笑)
[大]でも、ブッチャけちゃいますけど、本当に恐いですよ。毎週、今週ですべてが終わっても仕方がないと覚悟を決めなきゃ乗っていられませんって。
[西]義行さんも同じようなことは言ってた。
[大]義行さんはすごいですよ。あれだけ、しかも大怪我をしながら、それでも乗り続けているんですから。
[西]そう言えば、俺に4月には復帰したいとか言ってたからね。
[大]あの気持ちは尊敬しますよ。ドキドキしているって言ってますが、障害に向かっていく時の姿には、そんな雰囲気は微塵も感じさせられないですね。
[西]ただ、大庭も凄いと思うよ。大障害で逃げたことがあったんだよね。前に馬がいて、その後ろを進んだ方が楽じゃない。
[大]まあ、それは確かにそうですよ。
[西]手応えがなくなればなくなるほど、怖いはず。しかもあれだけカッ飛ばして行っていたら、なおさらだと思う。しかも、あの高い障害だから、ブッチャけ逃げ出したくならない?
[大]なぜかと言いますと、知らないからです。どれだけ危険かということを知らないから行けるんですよ。あれだけ大逃げを打つのが危険かということを知らないからできただけ。あの前に2回大逃げしたんですけど、1回目は何ともなくゴールができて、2回目もギリギリゴールすることはできましたが、最後は馬がフラフラになっちゃって死ぬかと思いました。
[西]でも、フラフラになりながら、よく飛んだね。
[大]僕が持つ最大限の技術を駆使しましたし、何とかしなければ死んじゃうと思いましたから。
[西・大](爆笑)
[西]でも、あれ見ているのも嫌だからね。本当にフラフラだもんな。
[大]さすがにそこは分かりますよ。
[西]何が?
[大]余裕がないことです。
[西・大](爆笑)
[大]もうあのようになったら、ステッキを連打しようが、何をしようが動かないですよ。
[西]2回目のバンケット上がった時はもう……。
[大]これ、あと2個かぁと思いますよ。
[西・大](爆笑)
[大]知らないから行けるというのもありますし、勝ちたいという気持ちがそうさせるんですよ。やはり1頭でポツンと逃げると楽ですから、じゃあ行こうと思うわけですよ。
[西]じゃあ、怖さを知ったら?
[大]我慢すると思います。
[西]いやぁ、大庭、面白いし、深い。本当に深い話をしているよ。
今週はここまでとさせていただきます。いかがだったでしょうか?
話は変わりますが、来週の水曜日(4月29日)に行うライヴに向けて、通しのリハーサルと称し、競馬で言えば追い切りを昨日行いました。
なかなかの好仕上がりだと思いますので、来ていただける皆さんは楽しみしていただければと思います。
最後に今週も、『このコーナーの存続を決めるのは、あなたのそのワンクリックです! どうか応援よろしくお願いいたします』と言わせていただきます。
↑練習後の松岡と南田のワンショットです