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馬の「硬い・柔らかい」と「走る・走らない」は、結びつかないケースも多いのです
2009.08.13

先週の『筋注(筋肉注射)』について、たくさんの方から様々な内容のメールをいただきました。毎度のことながら、ありがとうございます。

みなさんのメールを読ませていただき、説明不足であったことをお詫びするとともに、少し補わせていただきたいと思います。

『筋注』は、簡単に言うと、筋肉痛を起こしてる部分に消炎剤を注射で投与するということで、サリチル酸など、いくつか種類があるのですが、ほとんどは非ステロイド系のモノを使用しており、ドーピング違反にはなりません。

そして、桑原さんはあまり使用しないと言っていましたが、極端な言い方をすると、使っていない厩舎はほとんどないというのが現状のようです。

『筋注』の効果、あるいは使用法なども含め、僕自身も獣医さんとの対談を行って、具体的に聞いてみたいと以前から思ってはいるのですよね。ただ、なかなかスケジュールが合わなかったりして、実現はしていないんですけどね。

みなさんのメールを読ませていただき、獣医さんとの対談をやりたいと改めて思いましたので、どうぞお待ちください。

今週も桑原さんとの対談をお送りしますが、先週の関屋記念では、桑原さんの担当馬であるマイネルスケルツィが見せ場十分の内容で3着になりました。今週、運動場で会った桑原さんも満足そうでしたし、この後も活躍しそうですね。

それでは桑原さんとの対談の続きをお送りします。どうぞ。

[桑原裕之調教厩務員(以下、桑)]慢性的に歩様の良くない馬というのもいるのは現実だよ。そういう馬にはマイクロなどを照射しながら、これで仕方がないとレースに向かうこともあるよ。最近もかなりハ行してしまう馬がいた。競馬をすると、もう見られないくらいのハ行になっちゃう。じゃあ、故障かというと、獣医に診せても『どこも悪いところがない』と言われてね。もう歩けないほどのハ行にもなったし、レントゲンも何度も撮ったけど、骨膜ひとつないんだから。そうなると、どこも悪くないんだから、(レースを)使ったよ。筋注は打っていないでね。

[西塚信人調教助手(以下、西)]でも、それで走れるんですか?

[桑]うんん、やはり走りだしちゃえば、という感じで、気が入って、アドレナリンが出るから何とか大丈夫ということだよ。並脚やダグでは、『これ、大丈夫か』と言われてしまう。

[西]そうなんだぁ。歩様について「大丈夫・ダメ」というラインというのは、人によって違うじゃないですか。誰が正しいとかではなくて、例えば僕が大丈夫と思っても、他の人がダメということもあれば、その逆もあって、難しい部分がありますよね。桑原さんの言うそのハ行の馬は、角馬場での歩様などからは完全にアウトなんですよね。

[桑]俺が競馬でいない時に助手の人が乗っていたら、他の厩舎の人たちに『おい、それ大丈夫か』って、次々に言われたらしいよ。

[西]いや、あれは危ないと思う。

[桑]乗った助手の人も、運動やダグの段階では危ないと思ったらしい。でも、走り出したら大丈夫だと思ったと言っていたよ。

[西]そうなんだ。ただ、もしその並脚やダグの段階でもハ行が治ったら、もっと良い動きをすることができる可能性があるわけですよね。まあ、あまり大きい馬場で、速いところと言っても15-15を少し切るくらいを乗っているからなのかもしれませんが、角馬場での、ダグ、そしてハッキングでの歩様というのは、重要だと思うんですよ。

[桑]確かに言っていることの意味は分かるし、間違ってはいないとも思う。でも、ハッキングとか、軽いところを乗っていると、硬い馬って本当に硬くて、それこそ歩様の悪い馬は悪く見せるよね。

[西]はい。トモの入らない馬は入らないですよね。

[桑]そうなんだよ。だから、硬い、あるいは歩様の悪い馬という、そういうタイプは、軽いところでは余計に悪く感じさせるんじゃないかと思う。

[西]確かに、そういう面があるのは分かります。

[桑]先ほど話をしたハ行の馬も、角馬場で乗っている時には、『いやぁ、ヤバイよなぁ』と首を傾げるよ。でも、坂路とか行って気が入ってしまうと、普通に乗れるから。

[西]競馬場に行ってしまうと、それまで歩様が悪かったのに見せなくなる馬っていますよね。

[桑](マイネル)スケルツィもそういうところがあるからね。

[西]あぁ、一緒に運動させてもらっていた時のイメージとしては、前の出に硬さを感じさせられるタイプというものでした。

[桑]その通り。でも、競馬場に行くと、ピリッとしてまったく感じさせないからね。

[西]初めて入厩してきた時からそうでしたよね?

[桑]そうだったね。

[西]あと、一瞬見た感じでは、背中と腰がしっかりとしているように思わせるんだけど、動きを見ると、実は背中と腰がパンとしてないという印象があるんですよ。

[桑]言う通りで、トモなんかバリッと見せて、いかにも力がありそうと見せるけど、トモに疲れが溜まりやすいんだよ。それを補おうとして、前を使うぶん硬くなりやすい。

[西]それで(柴田)善臣さんが乗っていて、『硬い』って言われないのかなぁと思って見ていた記憶があります。

[桑]よく『硬い、硬い』って言われたよ。もっと言うと、昔はもっと硬かったから。確かに背中は抜群に柔らかい。でも、硬さがあるからだろうね、地下道の下りで躓いたりしたよ。

[西]でも、速いところへ行くと大丈夫なんですよね。

[桑]全然、大丈夫。スピードのある馬って、そういうタイプが多いように感じる。それこそ重賞を勝っているのに、キャンターはまるで未勝利馬。でも、速いところへ行くとさすがと思わせるような感じの馬が多いように思う。


[西]確かに、緩いところではあまり良くないけど、速いところへ行くと大丈夫という馬はいますよね。ただ、いまの時代の流れとして、ハッキングが重要視されて、角馬場での歩様が尊重される傾向にあるじゃないですか。

[桑]角馬場を多用して成績を上げている厩舎にスポットライトが当たって、それを見習って、ということなんだろうね。

[西]確かに、ハッキングなど角馬場での歩様が必ずしも競馬に直結しないんですけど、歩様の確認をするのにはハッキングがいちばん分かりやすいのかなとは思うんですよ。体をしっかりと使うことができないとハッキングにならないですからね。どこが悪いとか、どこに難点があるというのがいちばん分かると思うんです。

[桑]それはある。さっき話したハ行の馬も、ハッキングをすると右前が気になるんだよ。もし、坂路ばかり乗っていれば、そういうことも分からないから。

[西]いやぁ、角馬場の歩様って難しいですね。

[桑]でも、獣医に診せて何でもないと言われると、進めざるを得ないよね。もちろん、それぞれの馬のケースにもよるけど、さっきのハ行の馬のことで言えば、まだ体が固まっていないから、事情が許せば放牧してあげたいところもあるよ。

[西]その馬は勝っていましたっけ?

[桑]勝っていない。しかも、違う人の手に渡すことになっちゃってさ。いやぁ、やりたかったんだよ。ずっとハ行を悩みながらやってきたし、他にもいろいろあって、思い入れもあるから。それに、なかなかの能力を持っていると感じるんだよ。よくね、硬い、柔らかいで、走る走らないを判断するようなところがあるけど、硬くても良いところがあれば良いんじゃないかと思う。

[西]確かに、「硬い・柔らかい」と「走る・走らない」は、直接結びつかないと思います。それよりは、トモの入り。前は痛くない限りそんなに気にはしないんですが、トモの入りがバラついているとものすごく気になっちゃう。

[桑]まあ、トモが入れば、特に速いところでは、前は勝手に出てくるからね。そういう意味では、全身を使えるように歩かせるとか、それこそハッキングで詰めて乗るとか、普段からの調教も大事なんじゃないの。

[西]具体的な例はちょっと思い浮かばないのですが、トモの入り方というところに、僕的には走れるという基準があったりするんですよね。

[桑]何か明確な基準というのはないんだよ。ただ、何となく『この馬、走るんじゃないか』という感覚を覚えるんだよね。

[西]背中の良さというのはどうですか? あると思うんですけどね。

[桑]それはあるね。スケルツィは入ってくる前から評判になっていたし、『これはすげえ』と思わせられた。ただ、さっきから話の出てるハ行の馬も、あまり良くないという噂を聞いてマイナスのイメージで跨ったということもあるけど、背中は抜群だった。あと、キャンターの出がけ。スケルツィは並脚ではそれほどでもなかったけど、キャンターに移った瞬間、明らかにいままでに味わったことがないような感覚を覚えた。

[西]ただ、歩様が悪くても走る馬もいますからね。いやぁ、本当に難しいと思いますよ。

[桑]感覚的な部分が大きいし、言葉にし難い部分がどうしてもあるよね。

[西]そうですよね。あと、変わる馬が良いとよく言われますけど、それについてはどう思います?

[桑]それはあると思う。硬くて、背中も腰もパンとしていなくて、それこそトモも入ってこなかった馬がいたんだよ。まあ、明らかに他の馬よりも成長が遅れていたんだけど、2歳の函館でデビューして、案の定、走らなくて。そこで一旦放牧に出されて、戻ってきた時に30kgくらい馬体重が増えていて、その後も放牧から戻ってくるたびに、30kgくらいずつ馬体重が増えて、本当に放牧の度に変わっていったんだよ。その馬も結局走ったし、そういう馬はその時は走らなくても、やがて走ってくる。もちろん、その見極めが難しかったりするんだろうけどね。

[西]馬自身が変わるということももちろんあるのでしょうが、環境という部分も影響は大きいと思うんですよ。そこで、毎日接している厩務員さんの存在がクローズアップされるわけですが、そのような立場である桑原さんは、調教師は目指さないんですか?

[桑]そう来たかぁ(笑)。

[西]はい(笑)。真剣な話、どうなんですか?


[桑]そういうつもりでこの世界に入っては来たんだけど、性格的に人に指示するということが向かないんだよね。それと、実際にやってみると調教厩務員に魅力を感じてしまったというところは大きいかなぁ。

[西]最初は調教師になりたかったんですか?

[桑]最初、生産牧場をやってみたかったんだよね。血統とか好きで、配合とか研究したりして。生まれた時点ですでに能力が決まっていて、だから生産がいちばん重要だって考えていたなぁ。もちろん、育成、あるいは調教も大事なんだとは思っていたけど、配合の持つ何か神秘的な部分に魅力を感じていた。

[西]へぇ、それは初耳ですね。いまでも、担当馬の配合とかを気にしてチェックしたりしているのですか。

[桑]これが実際にこの世界に入ると、まったく気にしなくなるものだよ(笑)。いまじゃ、馬体のみだね。

[西]例えばグラスワンダーだから、このくらいの距離みたいな意識を持ったりしないのですか。

[桑]気にしない。バクシンオーでも距離が持つ馬も現実にいるから、固定観念を持たないようにしている。

[西]でも、『体を見る』って難しかったりすると思うんですけど、勉強とかしたんですか?

[桑]勉強というわけじゃないけど、馬が好きで、学生の時からずっと1日中、競馬場のパドックで馬を見ていたんだよね。ある意味、オタク(苦笑)。

[西]へぇ、そうなんだ。馬券とか買わずにですか?

[桑]学生だからね(笑)。

[西]はい、学生でした(笑)。

[桑]でも、本当に馬券とか興味なかったね。とにかく馬だった。また、自画自賛するわけじゃないけど、当たったね。馬券を購入していたら、かなり儲かったよ。

[西]朝から晩までパドックですか。

[桑]晩までは競馬やっていませんけどね(笑)。

[西]夕方までですね(笑)。

[桑]最近、大井に行ったんだよ。競馬新聞を見ないで馬券を買ったんだけど、結構当たった。

[西]でも、経験測があってというか、それこそ最初から当たったわけじゃないですよね。

[桑]競馬場に行くようになった当初から、それなりに当たった。というのも、その前に週刊誌に掲載される馬たちの写真をスクラップして、見比べていたりしていたんだよ。

[西]いまでもやっているんですか。

[桑]さすがにやっていないよ。そもそも、いまは他人の馬に興味がないから(笑)。

[西]なるほどね(笑)。

[桑]でも、この仕事に入ると、他の人の馬に興味がなくなるよね。

[西]僕は桑原さんの馬には興味がありますけどね。

今週はここまでとさせていただきます。いかがでしたでしょうか。

桑原さんの話からも分かるように、桑原さんは、馬とはまったく関係のない環境から「馬が好き」という気持ちに動かされてこの世界に入ったということですので、この世界を目指している方々の参考にもなるでしょう。

さて、私事で恐縮ではありますが、実は今月の7日に子どもが生まれました。ブッチャけ、思っていたよりも嬉しかったんですよね。

生まれてくる前は、時間をはじめ、すべてを子供に捧げざるを得ないのだろうなぁと思ったりもしていたのですが、それをはるかに上回るというか、そんな思いが消えてしまう嬉しさを味わいました。これからは子どものためにも頑張っていきたいと思います。

ということで、最後はいつも通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。

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