桑原さんの話は、個人的にも勉強になります
2009.08.27
先週、シトラスナイトが勝ち、尾関厩舎の6勝目を挙げることができました。おめでとうメールをいただきまして、ありがとうございます。この勢いで、ひとつでも多く勝ち星を伸ばしていけるように頑張ります。
さて、先々週の内容について、「馬の筋肉痛はどのように判断するのですか?」という質問をいただきました。いわゆる「スクミ」と言われるように歩様に見せることもありますが、ある程度の経験を積むと、乗ってどこが痛いのかというところまでわかります。
もちろん獣医さんに触診してもらってもわかりますが、これまでの経験で言えば、乗って感じる部分と獣医さんが診察して判断を下す部分は、ほとんど一致するものです。
それでは今週も、桑原調教厩務員との対談をお送りします。どうぞ。
[西塚信人調教助手(以下、西)]ブッチャけ、(稲葉調教師くらい)スタッフに任せることができるというか、器が大きい調教師ってあまりいないですから。
[桑原裕之調教厩務員(以下、桑)]確かに調教師として本当は知りながらも、『あの馬のことは分からねえ』って言えちゃうところは凄いと思う。
[西]本当は、コメントするのが面倒くさいだけなのかもしれませんけどね(笑)。
[桑]それはあるかも(笑)。怖い面もあるけど、他の調教師の先生からも『隆ちゃん先生』って慕われているよね。
[西]松岡(騎手)も、『稲葉先生はすごい、半端じゃない』ってよく言っているんですけど、聞いていると稲葉先生の指示って、『バッと行って、バッとやっておけ』みたいな感じで、とにかくアバウトですよね(笑)。
[桑]あのアバウトさは、いまでも理解できないところはあるよ(笑)。それであがってきて、『速えぇ』、『遅せえぇ』って言われるんだ。
[西]ハハハ。そんな感じですよね。
[桑]『ポリを5ハ(5F)からバッと行け』って言われて、あがってくると『速えぇんだよ、馬鹿野郎』って言われてもさ(笑)。
[西]そうそう、そんな感じですよね。でも、その『速えぇんだよ、馬鹿野郎』って言いながらも、それほど怒っていない感じじゃないですか。
[桑]そうね。ただ、もし、怒ったとしても先生は一瞬だけ。あがってきて『速えぇんだよ』、『遅せえんだよ』というだけで、後は引かない。まあ、やってしまったものは仕方がないし、『バッと』いう感覚は簡単じゃないということだよ(笑)。
[西](爆笑) そりゃ、そうですよ。例えば、数字で具体的に65とか言われて狂ったら怒られても仕方がないですけど、あくまで『バッ』だけですからね。あと、稲葉先生と言えば、調教へ向かう途中で南スタンドの前で、助手さんたちが『稲葉先生』って大声で呼ぶ、あれですよ、あれ。いやぁ、メチャクチャ良いです。
[桑]そうかぁ(苦笑)。結構、大きな声を出さなきゃならないんだよ。
[西]あれはもう美浦の名物ですよ。あれを聞かなきゃ一日が始まらない的な存在ですから。でも、絶対にあれは稲葉先生じゃなきゃダメだし、あれは稲葉先生だからこそ許されるんですよ。
[桑]何時に乗るか分かっているのに、呼ばれてから出てくるからね(笑)。
[西]また、出てきたからと言って、細かく指示するわけじゃないところがいいわけですよ(笑)。
[桑]大雑把が基本だから。
[西]他の先生たちも分かっていて、なかなか呼んでも出てこない時には、声を掛けてくれるんですよね(笑)。いやぁ、いい味出してますよ、稲葉先生は。
[桑]それは間違いないね。
[西]この前、稲葉先生に『おい、西塚』って呼び止められて、『その車なんだ』って言われたんですよ。何かと思ったら僕の車のナンバーが178ということで、『俺の真似をするのは十年早えぇぞ、ガハハハハ』って、大声で笑うと、そのまま行っちゃいました。
[西・桑](爆笑)。
[西]言いそうでしょ?
[桑]言いそう。
[西]あのような豪快な先生って、どんどんいなくなってしまうんでしょうね。そこは寂しさを感じます。以前、装鞍所でウチの親父が『稲葉先生の鞍置いたら1万円くれるぞ』って冗談で言うから、鞍を置いたら『安夫、コノヤロー』とか言いながら、本当に1万円を出して『おい、受け取れ』ってやるんですから。
[桑](爆笑) わかる、わかる。
[西]なかなかいらっしゃいませんし、こういう言い方は失礼かもしれませんが、間違いなく愛すべきキャラですよ。
[桑]本当にそう思う。
[西]話は変わっちゃいますけど、この前、あるオープン馬を担当している先輩が、カイ食いが悪いからって、夕方の誰もいないような時間に、黙々と引き運動をしていたんですよ。いやぁ、さすがだなぁと思いましたし、背筋が伸びる思いがしました。いまの時代、ひょっとしたら、そういう事さえできない厩舎がありますからね。ブッチャけてしまえば、横並びで決められたこと以外はできないところさえありますから。サボることもできなければ、より良くしようと思って何かをしようとすることもできないわけですよね。できないつらさってやつですよ。
[桑]より良くしたいと思って頑張るのに「やってはいけない」と言われるのはおかしいと思う。そのやり方について、『この馬、こうだから、こうした方が良い』とか『じゃあ、こうしよう』という指示ならわかるけど、あくまで馬に関係なくルールだからというのでは間違いなくおかしい。
[西]誤解を恐れずに言えば、馬の仕事を真剣にやっていたら、労働時間云々なんて言っていられないと思うんですよ。でも、ルールだから仕方がないのかもしれないけど、それを経営者側が運動は何時間までとか言ってしまう。そこには矛盾があるというか、捻じれが存在するわけですよね。
[桑]でも、経営者側とすれば、ルールはルールだという部分もあるんだろうね。
[西]桑原さんは、「ルールだから何時間以上働いちゃいけない」って言われたら、どうしますか?
[桑]完全に無理。だって、馬をより良くするのが俺たちの仕事であって、良くしたいと思ってやっていることを否定されるってあり得ないでしょう。働きたくないのなら、働かなければ良い。でも、働きたいと思う奴には構わないでほしい。
[西]労働時間厳守ってよく言われますけど、一般社会でも残業というのがあるわけで、やりようがあると思うんですよね。綺麗ごとと聞こえるかもしれないけど、もちろんお金も大事だし、お金という形で報酬を得ているのは間違いない。でも、お金だけじゃない部分ってありますよね。
[桑]あるね。
[西]休日出勤手当を付けてやればいいとか、進上金を多く払ってやれば済むというレベルの話じゃないということですよ。
[桑]少しでも走らせたいからやらせてほしい、と言わせるくらいで当然だと思うし、生意気な言い方かもしれないけど、本来、厩舎としてそれくらいのモチベーションでなければダメだと思う。
[西]そうなんですけど、そういう厩舎だと個人差というか、バラツキが出ますよね。
[桑]ただ、逆のことを言うようだけど、馬に良いと思うことをいろいろやったからといって、必ず走るというものでもないのも間違いなく言えるわけだよね。これがまた難しい。
[西]そういう面があるのは、間違いないですよね。分かりやすく言えば、10時間働く厩務員さんと6時間しか働かない厩務員さんがいたとしたら、10時間の厩務員さんの馬が絶対に走るとは限らないわけですよ。
[桑]6時間の厩務員さんの方が賞金的に上というのはよくある現実だからね。
[西]間々ありますよね。
[桑]間々あります。
[西]でも、だからと言って(働く時間を)少なくとか思いませんよね。
[桑]全く思いません。自分が納得する仕事をしないで勝ったとしても嬉しくないんだよね。馬の能力に助けられているというか、自己満足なのかもしれないけど、嬉しく思えないんだよ。
[西]話が戻っちゃうようで申し訳ないんですけど、獣医にも最低限しか診察を依頼せず、ブッチャけ、馬に何をしているんですか?
[西・桑](爆笑)
[桑]基本的なことですよ。厩務員の仕事って、毎日淡々と基本的なことを続けることがいちばん大切だと、ここまでやってきて実感します。ひたすら毎日、同じことの繰り返しですから、地味ですし、本当に根気が必要ですよ。でも、それで良いし、個人的にはとても面白い。
[西]馬を触って、疲労が蓄積している部分、あるいは悪い部分に、マイクロ、あるいはレーザーを照射する。
[桑]本当にそういうことだよ。それらを毎日コツコツと積み重ねていくだけ。
[西]それ以外、あまり道具もないですもんね。いやぁ、勉強になります。
[桑]いや、そんなことはないよ。ただ、獣医に診察してもらって、さらに注射を打ってもらうのも悪いことではないけど、その前にやることをやるべきだと、俺は思うだけ。
[西]それだけじゃ取り切れない疲労というのもありませんか? 僕は少ない経験ですけど、厩務員さんたちが一生懸命やっても取り切れないものがあると思うんですけど。
[桑]実際、触れたわけじゃないからハッキリは言えないけど、攻め馬にも問題があるんじゃないのかな。
[西]以前、常に右トモばかりに疲労が蓄積してしまって、そこばかりに違和感を覚える馬がいたんですよね。
[桑]乗り手の問題では?
[西]毎日、乗る人間は替えていたんですよ。いやぁ、頭を抱えたんですよね。桑原さんは、悪くなる前からマイクロを掛けたりするんですか?
[桑]もちろん。毎日、その日の疲れをその日のうちに取るという目的もあるし、悪くなるきざしを感じさせるところを予防する意味で、マイクロやレーザーを照射しているんだよ。
[西]このようなことを聞くのも何ですが、何時間くらいやっていらっしゃるんですか?
[桑]いまはそれほどでもないよ。
[西]では、ちなみに、絶頂期はどのくらいだったんですか?
[桑]最低1頭1時間という感じかな。
[西]最低ですか。長くてじゃなくて。
[桑]1時間以上ということもあったよね。まだ新米だったからわからないところも多かったんだけど、とにかく走らない厩舎でも何とかしたいという思いしかなかった。また、あの頃よりもマシーンが飛躍的に進歩していることも、時間短縮につながっているよね。
[西]照射しない馬とかいないんですか?
[桑]もちろんなんでもなければ照射しなくても良いんだけど、なかなかそういう馬っていないからね。何かしらあるものでしょう。本当に新しい機械は素晴らしい。時間の短縮にはなるし、効果もさらにあると思う。
[西]でも、高価だったりするじゃないですか。
[桑]メチャメチャ高いよね。俺は先生にお願いしたら購入してくれたんだよ。でも、本当にそういう作業って、地道にやるしか方法はないんだよね。また、マイクロって、熱過ぎてもダメじゃない。あれ効いているのかどうかというか、これスイッチオンになっているのか、というくらいの温度でなければならなかったりするからね。
[西]そうですよね。ひたすら馬房のなかで、ジッとしているわけですからね。でも、新しい機械は効くって聞きますよ。
[桑]前よりも深いところまで入っていくような感触を覚えるし、時間が短縮されたのは間違いないかなぁ。
今週はここまでとさせていただきます。いかがでしたでしょうか。
さて、今週の話題と言えば、やはり、バンドのメンバーであり、同じ『サラブレモバイル』に連載を持つ同士である上の方(松岡騎手)の結婚報道でしょう。
実は、バンドの練習に何回か訪れたこともあったので、僕をはじめメンバーは知っていたのですが、まさかこのタイミングとは思いませんでした。いやぁ、マジで驚かされたぁ。
あと、驚いたと言えば、某検索サイトエンジンのニュースアクセスランキングで、上位にランキングされていたことですよ。上の方が有名だからなのか、それとも『松岡って、誰?』というノリでアクセスしたのかが気になるところです(苦笑)。
最後になりましたが、ご結婚おめでとうございます。末永くお幸せに。
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