馬を本気でやるということを桑原さんから教わり、背筋が伸びる思いがしました
2009.09.03
早くも夏が終わろうとしています。実は、私事でありますが、この夏、痩せることを目標として、密かに頑張ってきました。
まずは禁酒。ただ、お付き合いもあるので、せめて家では絶対に呑まないこととしました。次に走ることです。夕方、南のポリトラックコースを1つ半か2つ(1周半か2周)走ったのですが、他の厩舎の人など走っている方も多く、なかでも石橋(脩)や田辺は特に速いです(苦笑)。
そして、調教の時にどんなに暑くてもジャンパーを脱がないということです。これに関しては、最近涼しいので、もっと着込もうかと思っています。
それで結果はどうなったかというと、残念ながら、4、5キロ痩せました(笑)。
残念ながらと言ったのは、周囲の人たちから『無理だからやめておけ』と言われたんですよ。ただ、まだまだ痩せようと思っていますので、これからも減量に励みたいと思います。
個人的な話はこれくらいにして、今週は、桑原さんとの対談の最終回になります。それではどうぞ。
[西塚信人調教助手(以下、西)]桑原さんの馬って故障しないですか?
[桑原裕之調教厩務員(以下、桑)]まず故障しないね。故障する馬は最初から分かるし、自分の出身牧場であるマイネルさんの馬を担当する時には、『故障してしまう』と伝えますから。ただ、そういう馬はどんなに対応しても故障してしまう確率は高いのが現実。もちろんやれることはやるんだけど、それだけではどうにも対応できない部分というのもあるよね。
[西]最初の段階でどこが危ないとかは、ある程度わかりますよね。
[桑]完璧じゃないけど、危ないのはわかる。
[西]読者の方々は当たり前って言うかもしれませんが、いまは集団調教が主流となっていて、みんな同じようなメニューという厩舎が多いんですけれど、馬もそれぞれ違いますからね。いま、僕はフィードマンと言って、飼い葉を計る役割を仰せつかっているんですけど、同じものを同じだけ食べていても、身の付き方さえ違いますから。
[桑]そりゃそうだよね。これくらい与えればおおよそこのような感じになるだろう、と思って食べさせても、馬によってはそうならなかったりするよ。
[西]ある厩舎では、高タンパク、高カロリーな飼い葉に加えて、5升近い燕麦をあげるらしいんですよね。
[桑]そりゃ、背割れしちゃうんじゃないの?
[西]ちょっと、待ってください。ちなみに、背割れとは、背中に肉が付いてしまい、凹凸ができてしまうことを言います。はい、すいません。一応説明されていただこうと思いまして。
[桑]あっ、すいませんね(笑)。
[西]いえ、いえ。そうなっちゃうみたいですよ。
[桑]それじゃ、走れないよ。
[西]走れなくなっちゃってるみたいですよ。でも、そのようにガッツリ食わせて、バンバン攻めるみたいにすると、どうしても牡馬の方が太りやすくないですか?
[桑]そりゃ、そうだよ。
[西]逆に、食いが細くて、なかなか肉が付いてこないという方が、良い効果が現れやすいですよね。
[桑]それはある。ただ、先ほどの5升の燕麦云々というのは、それだけやったら相当攻めないと、消化しない。そればかりでなく、それこそ当たり前だけど、それに伴い故障のリスクも高くなるからね。
[西]ブッチャけさせていただくと、いま多くの関東の厩舎は、関西を目指しているんですよね。何を食べさせているかとか、熱心じゃないですか。
[桑]多いよね。やれば走るみたいな雰囲気はある。
[西]この種類をこれくらいやらないとダメみたいなね。
[桑]食わせろ、食わせろっていう厩舎は多いみたい。でも、それに対してどれだけの運動量があるかということが大切でしょう。そのバランスだよ。
[西]飼い葉もそうですが、運動のやり過ぎというのも注意しなければダメだと思いませんか。
[桑]ウチの先生なんかは、『前運動はやらなくても良いから、上がり運動をしっかり』と言うし、もっと言うと、『運動をやり過ぎるなよ』と言うよ。やり過ぎて、疲労を蓄積したら元もこもない。
[西]いろいろな考え方がありますが、前運動を必要としないという論があります。でも、野生の馬は準備運動をしなくても全力疾走できるわけですから、一理あると思いますよね。
[桑]そういう考え方があっても良いよね。
[西]もっと言えば、一度競馬を経験した馬に対して、そのすべてに対して強い調教を必要とするのか、というのも疑問だったりしますよね。
[桑]以前、2着に来た馬がレース後にガタガタになってしまって、5週間、間隔を空けざるを得ないことがあった。その中間、坂路を80秒だけで、ほとんど乗っていなかった。それで1週前に54秒、レースの週に56秒だけだったから、心肺機能だけが問題だなって思っていたんだよ。そうしたら、獣医に心臓を診せたら『抜群だ』って、唸ったからね。馬って、衰えないんだなぁと改めて痛感させられたし、勉強になった。
[西]なるほどね。しかも1頭1頭違うんだから、飼い葉の食べている量と運動の量、そして馬の状態を見極めながらというのが、そこが原点ということですよね。
[桑]そうだよ。
[西]競馬の日の朝に乗ってから輸送するという経験をしたことってありますか?
[桑]ある。あくまで馬によるけど、朝15-15というところを乗って、新潟に遠征したこともあるよ。ただ、もちろん大前提として、飼い葉をよく食べて、すぐに身になって太くなってしまうタイプということだよね。食いの細い牝馬なら、何もやらなくてもいいくらいじゃないの。
[西]当たり前ですけど、飼い葉の量って重要なんですよね。
[桑]でも、フィードマンの存在というのは、個人的には、俺の仕事を取らないでくれと思っちゃう。飼い葉は馬の状態を見極めながら、自分で与えたいと思う。
[西]なるほど、そこに技術があるわけですね(笑)。
[桑]そんなことはないよ(笑)。
[西]改まっちゃいますが、どんな馬を育てたいですか?
[桑]はぁ。それは難しい質問でしょう。
[西]じゃあ、ゲームじゃないですけど、過去の名馬を2歳から手掛けられるとしたら?
[桑]質問がますます難しくなっちゃったよ(苦笑)。
[西]じゃあ、どんな厩務員さんになりたいですか? いまは調教厩務員でいらっしゃいますが、やがては馬から降りざるを得ない時も来るわけですからね。
[桑]そうね。調教厩務員であるいまは、やはり乗りやすいようにという意識はあります。乗りやすいというのも競走馬が持つ才能のひとつだと思うんだよね。
[西]調教師にはならないんですか?
[桑]なるつもりはないね。
[西]やはり厩務員ですか。
[桑]調教助手でもないし、調教師でもないんですよね。
[西]やはり、自分で乗って、自分で寝わらを上げて、自分で飼い葉を作って。ということなんですね。
[桑]そうだね。前にも話したけど、元々は馬を見るのが好きだったから、調教師になって自分が気に入った馬を選んで、管理するということも思い描いたけど、実際にこの世界に入ってそんな簡単じゃないとわかったし、調教厩務員にやり甲斐を感じたんだよ。
[西]なるほど。いやぁ、ありがとうございます。今回は良い対談となりましたよ。
[桑]大丈夫? 「おい、面白くねぇぞ」というメールが来るかもよ。
[西]いえ、大丈夫だと確信しました。それにしても桑原さんは、最初に会った時からテンションとかが変わらないですよね。いつも淡々と仕事をしていらっしゃって。
[桑]そんなことないよ。俺だって、苦しみながら頑張っているんだよ(苦笑)。
[西]でも、桑原さんと話をさせてもらって、マイクロやレーザーの大切さや1頭1頭違うんだという認識を改めて勉強させてもらいました。それに、いちばんは、馬に携わる仕事の姿勢ですよ。馬を本気でやるということはどういうことか、背筋が伸びる思いがしました。
[桑]そんなことはないよ。ただ、本音を言えば、休みもいらないし、当然だけど手は抜けないよね。
[西]馬具とか、自分で買っていらっしゃると聞きました。
[桑]馬に関わるものは、だいたい自分で払っちゃう。飼い葉も何か良いと聞いて、試してみたいと思えば、買える範囲なら、自分で買っちゃう。
[西]なかなかできることじゃないですよ。
[桑]自分で試してみたいと思ってやるわけだから、厩舎の他の人に迷惑はかけられないでしょう。
[西]飼い葉の種類はどんなものですか。
[桑]A社の配合飼料。
[西](その配合飼料は)燕麦が入っていないものですよね。
[桑]燕麦が入っていて、それだけ与えておけばOKというのもあるけど、それだと燕麦で微調整が利かない。それに対して、燕麦が入っていないということは、その分で調整できるから。
[西]良い悪いじゃなくて、飼い葉もそれぞれの特徴があって、あくまでそれぞれの馬に合わせて使い分けるべきですよね。食べない馬が好む種類とかもありますからね。
[桑]そうだよ。
[西]いやぁ、今日は本当にありがとうございました。
[桑]こちらこそ、あまり参考になる話もなく、すいませんでした。
[西]いえ、桑原さんの引き出しの一部は見せていただけたと思います。今度は、その全部をお願いいたします。
[桑]そんなにないから(苦笑)。
いかがでしたでしょうか。
職人という呼び方を敢えてさせていただきますが、馬に携わる者として、どうあるべきかということを背中で教えてくれる桑原さん。
競馬場のパドックで見かけた時には、ぜひ応援してあげていただければと、お願いしたいと思います。
あと、実は、秋のG1戦線に合わせて、ノビーズのライヴを行う予定なのですが、上の方(松岡騎手)が結婚してしまったことに伴い、集客力ダウンの懸念があるじゃないですか。ブッチャけ、松岡頼みのバンドですので、非常に心配しておる次第なのであります。
ひとつの策として、これからは独身であるマユちゃん(黛騎手)を主役として頑張っていくことにしつつ、「俺にもゲスト参加させろ」と言う村田(一誠)さんにはご遠慮していただく方向で、頑張っていこうと思います。
ということで、最後はいつも通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。