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今週からは鍋掛牧場の沖崎場長との対談になります!
2009.09.10

今週からは、鍋掛牧場の社長である沖崎誠一郎さんとの対談をさせていただこうと思います。

まず最初に、沖崎さんと鍋掛牧場について説明をさせていただきますと、鍋掛牧場は栃木県那須塩原市にあり、トレセンにおいては、特に障害馬の馴致、育成において定評があるのです。

ただ、平地馬の馴致、育成についても素晴らしい実績を誇り、話を聞かせていただくことが本当にとても勉強になるのです。

オールドファンの方の中にはご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、ホリスキーなどの名馬の生産牧場でもあります。

普段、沖崎さんのことは『場長』と呼ばせていただいているので、今回も『場長』で話を進めさせていただこうと思います。

場長が持つ技術の中でも、特にダブルレーンでのロンジングは、競走馬にはなかなか用いられるのを目にしない技術と言えます。場長は馬術に精通しており、モスクワオリンピックにおける総合馬術の代表候補となった経歴の持ち主でもあるのです。

今回は、これまでに行なってきた対談の中でももっとも馬をやっている人っぽい話をしています。普段は駄目キャラが基本なので、そこは眼をつぶっていただきたいと思いますが…。

説明はこのくらいにさせていただいて、それでは対談を始めさせていただきます。


[西塚信人調教助手(以下、西)]いつもお世話になっております。

[沖崎誠一郎場長(以下、沖)]いえ、こちらこそお世話になっています。

[西]これまでの対談の中で、「ロンギで(馬が)変わった」とか、その効果について話をしたことがありまして、また、美浦トレセンでロンギ場にいちばん長くいる調教助手が自分なんですよね。

[沖]そう自負しているのね。

[西]そうですし、他の人たちからもそう言ってからかわれるのです。でも、そのきっかけを作っていただき、いろいろと教えていただいたのが場長ですから。ということで、今回はよろしくお願いいたします。

[沖]こちらこそ。で、いきなりで悪いんだけど、読んでいる人たちに誤解されるといけないから説明をすると、『ロンギ』というのは競馬用語で、日本語での正式名称は『調馬索(ちょうばさく)』なの。

[西]そうなんですよね、どうしても『ロンギ』って言ってしまうんですよ。

[沖]ロンジングと言うのを短縮させた形から、そう呼ばれているんだろうね。俺がやっていて、信人が取り組んでいるのは、ロンジングの中のダブルレーンというもの。

[西]そうですね。すみません、読者の方に説明させていただきますと、ダブルレーンというのは調馬索をする際に、両方のハミに手綱を付けるのと同じような感じで、2本の引き手で馬をコントロールすることを言います。話を戻しますと、そのダブルレーンで調馬索を回している人は、美浦トレセンの中で僕しかいません。うるさい馬とか、入厩して間もなくて手に負えない馬をバテさせるために調馬索を行う厩舎はありますが、ほとんど一本というスタイルですから。「下手だからビビッて、回してから乗っているのだろう」とか、よくからかわれたりもするんですが、決してうるさいから調馬索で回しているのではありません。そこにはこだわりがあって、それを教えてくれたのが場長なのです。

[沖]大いにやってください(笑)。

[西]読者の方からも質問があって、だから沖崎さんに出ていただこうと思ったのですが、ダブルレーンをすることの効果ということで言えば、歩様の補正という部分が大きいと僕は感じるのです。例えば、右トモが入らないなど、歩様が悪い時にダブルレーンで調馬索を行うことで、良くなるんですよね。ただ、効果が分かりやすい肉体面に対して、精神面における効果というのが、分かりづらいんですよ。

[沖]調馬索というのは狭い丸馬場の中で、しかも壁で周囲から遮断された環境の中で行うわけだよね。そこに入った馬は、自分だけで、閉じ込められて、これから何をされるのかと不安を覚える。扉が閉められ、人間と一対一となり、壁沿いを回るように要求されるのだが、最初は丸馬場の中心に立つ人間に対して恐怖心を抱くわけだよね。だから、外へ外へ、つまりは壁側に逃げようとするわけだ。

[西]そうですよね。

[沖]真横に目が付いているから、真横から向かってくるモノに対して横に逃げるというのは習性なんだけど、特に初めて調馬索を経験する馬は、頭を外に向けるからね。ところが、逃げだせないことに気が付くと、今度は中の人間に対して注意を向けるようになる。そこで、人間か落ち着いて、的確に合図を送りながら、一対一の関係を作り上げられると、今度は人間に対して集中するようになるんですよ。そこまでできて、人間と馬との関係における第一歩ということだね。

[西]説明していただき、ありがとうございます。調馬索の装具を付ける時、待てない馬がいるんですよね。それが付けたら付けたでいきなり走り出したりするのが、経験していくと、僕から合図がないと動かないようになりますからね。

[沖]馬がこちらの合図に従うようになるとか、待つ姿勢ができるようになることで、こちらが馬にしようとすること、あるいは作業がしやすくなるわけだよね。

[西]そうですね。

[沖]でも、調馬索の名人と言えども、馬がとめどなく行き交う、何も遮断されるものがない馬場で同じようにやったとしたら、壁で囲われた丸馬場と同じようにやるのは無理だからね。

[西]あのシチュエーションがあって初めて可能になるということですね。もっと言えば、そうすることでより簡単にできるということですよね。

[沖]そう。一対一になれるからね。視界はなくても、外から音は聞こえる。最初は気になるけれど、声をかけたり、なだめたりしているうちに仕方がないと、やがて集中してみようかとなる。そこまで関係ができると、こちらの合図に従い、さらにはそれを待つ。では、その関係作りを乗っても行うことができるかと言えば、相当な騎乗技術を持っていないとまず無理です。だから、信人に調馬索を勧めたし、誰でもできると言うんだよ。

[西]そうなんですよ。ブッチャければ、なぜここまで調馬索にこだわりを持つのかと言えば、乗ってできないからです。もちろん、乗ってできる人も稀にはいますよ。ただ、あれだけ馬乗りがいるトレセンでも、それをできる人は決して多くないと思うんですよ。もっと言えば、みんな簡単に『トモを入れる』とか言いますが、それもできる人は多くないように思えるのです。場長はどう思われますか。

[沖]上手い、下手というよりも、騎手と調教助手では馬に対する気持ちの入れ方が明らかに違うよね。ジョッキーは馬乗りが上手いというのは当たり前で、助手の人たちの中にも騎乗技術の達者な人はいる。それら上手い人たちだと仮定して、ではなぜそこまで取り組む人がいないのかと言えば、そういう環境にないことが大きいんじゃないかと思う。

[西]必ずしも乗り手のスキルの問題だけではないということですよね。

[沖]環境の方が大きいだろうね。現実の話として、トレセンは人工的で、しかも心肺機能を高めることを最優先に考えて造られた施設だからね。多くの馬たちが速いキャンターを踏んでいるところで、ゆっくり良いリズムで速歩をと言っても、難しいものがあるでしょう。

[西]まあ、そうですよね。

[沖]それが特にヨーロッパなどは、わりとそういう部分で選べる環境にあるよね。Aは直線コースを、Bは速いところ、Cは速歩だけと、それぞれに合った調教を行うことができる、その環境にあるかないかの違いは大きいでしょう。


[西]ただ、いまのトレセンのトレンドとして集団調教が主流となっているんですよね。

[沖]基本的に何もなければ、馬は集団で行動した方が安心するし、効率ということで言っても、集団で行える分が増えれば、1頭1頭に時間をより多く割けることになるよね。ただ、現実として、集団で調教して問題ない馬ばかりではないわけだよ。レースに向かう中で、テンションが上がってしまう馬もいれば、調整が進められない馬も出てくる。その時は、それぞれの馬と状態に合わせていかなければならないわけで、その中で調馬索は有効な手段のひとつであるという思いで、信人に教えたわけだよ。

[西]僕もそうだと思っています。

[沖]それを信人なりに取り組んだ。その結果として、トモの入りが悪いということに気が付いて、それに調馬索が有効であると、また私の視点とは違って信人なりに気が付いたわけだよ。いま、私が話をしたのはあくまで調馬索の効果に対する一般論だから。

[西]はい。ひと言では言えませんよね。

[沖]そうだよ。例えば、なぜ丸馬場が良いのか、あるいは調馬索の他に考えられる効果など、いろいろあるということだよ。

[西]丸馬場ということで言えば、『丸馬場を回る以上、トモが入ってこないと回ることができない。キッチリと体を使うことができないと、あの中でダグもキャンターもできない』と以前に教えてもらったじゃないですか。やってみたら、本当によく分かりましたよ。いま、トレセンでは、『トモを入れて乗る』ということが重視されているんです。その流れがハッキングとなってきているのですが、せっかくの機会なので、丸馬場とトモの関係も含めて、教えていただけないでしょうか。


[沖]では、最初に戻ろう。みんなが『トモが入るように』ということだよね。

[西]四肢をキッチリと使うなかで、トモがしっかりと踏み込むことで背中を使えるようになるからだと思うんですよ。

[沖]簡単に言えば推進力だからでしょう。馬は後輪駆動ということで、トモを動かすことによって前に進める生き物であるということですよ。そしてネコ科の動物と違って、脊椎の動きに制限があるのです。簡単に言うと、四肢で立っていて、あの重い内臓を支えているんだけど、背骨が吊り橋と同じ構造になっていると言えるわけですよ。それでいながら、あれだけのスピードで走ることができるという構造なのです。その時、馬は鎖骨がないために、前脚を動かしても、前掻きをしているだけで、前に進むことはほぼ不可能とされ、トモを動かすことで前に進めるわけです。なおかつ、背中が反った状態で、トモを動かすということが構造上難しい。

[西]四つん這いになって、頭を上げた状態で前に進もうとするのと、頭を下げた状態では明らかに違いますからね。

[沖]首からキ甲、背中と、太い筋肉が通っていて、それがトモを引っ張り上げて、前に送るという動きをしているわけだよね。よく蹴っぱりが良いとかいう表現がされるけれど、正確にはトモは地面を蹴っているのではなく、掴んで押している。走っている間、それを繰り返しているわけで、その押す力が増せば推進力が増すということになるわけだよ。

[西]ということは引き付ける力が強ければ、強いほど、推進力も強いということですよね。

[沖]ディープインパクトをイメージしてもらえばわかりやすいでしょう。体が小さいのに、トモの振り幅にしても明らかに大きい。ということは、脚への負担も小さいし、それだけ速く走れるということですよ。

今回はここまでとさせていただきます。いかがでしたでしょうか。今回はあまりにマニアックになってるかもしれませんね。すみません。

みなさんに誤解がないように申し上げますと、競走馬に調馬索というのは決してポピュラーではないのです。ただ、僕自身は有効な手段のひとつであると思っているのです。もちろん、すべての馬に良いとは思っていませんし、絶対に良いとも思っていません。

ただ、ブッチャケさせていただくと、競馬と馬術というのは同じ馬を扱うのに、見えない壁があるのです。

お互いがお互いの良いところを取り入れていければ、もっと良いのにと個人的に思いますし、良いものはどんどん取り入れていきたいと思うのです。馬には絶対はないという人がいますが、その通りだと思います。

話は逸れますが、ノビーズのTシャツを販売する予定となりました。詳細については、決まり次第お伝えさせていただきますが、よろしくお願いいたします。

ということで、最後はいつも通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。

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