ゲートの中でも、口とトモが繋がっていることの大切を感じます
2009.09.24
先週は、尾関先生が臨場のために新潟へ行かれ、久しぶりに中山へ臨場に行きました。
臨場することとなったのはエフテーストライクでして、ブッチャけさせていただきますと、状態の良さから勝つつもりでいたんですよね。除外の可能性があったので、先週の時点では触れませんでしたが、お彼岸ということもあり、競馬場に向かう途中に墓参りをして願掛けもしました。
しかし結果は9着ということで、残念な結果となってしまいました。次の機会には良い結果となるように、また頑張ります。
それでは今週も、鍋掛牧場の沖崎場長との対談をお送りします。どうぞ。
[沖崎誠一郎場長(以下、沖)]軽い扶助で前に送っておいて、なおかつハミで制御すると、馬は後退する。口とトモが繋がっている馬はそれがスムーズに行うことができるのです。そのことを、どの馬にも求めることは、効果があると思います。
[西塚信人調教助手(以下、西)]そう思います。その最たる例を挙げるとゲート。ゲートを出ることについては、出ることを知っているかどうかという部分が大きいですし、時には隣の馬に付いて行った結果として出る馬もいるし、驚いて出てしまう馬もいます。でも、『ゲートに入る』ということはそうはいかなかったりしますよね。あくまで乗り手の指示に従って入っていくもので、入厩して間もない馬たちの中には、乗り手の「行こう」という指示を理解していないために入っていかない馬たちが意外と多かったりします。その時に後退の練習をすると、口とトモが繋がるきっかけになって、乗り手の指示を理解しやすくなりますよね。
[沖]馬は後退をさせられることを心地良いとは思っていないわけだよね。馬の習性、あるいは行動パターンにおいて、後ろに下がるということはあまりない。横に飛ぶか、前に出るかということが多いのです。物見をした馬が2、3歩後退することはあっても、馬の頭の中で「後退する」という意識はそれほど強くないはずで、人間の指示に従って後退するということに対しては少なからず抵抗を覚えるだろうね。
[西]ということは、後退させることで、前に進もうとする気持ちが生まれることになりますよね。
[沖]そうですよ。指示に従って後退はしたものの、心地良くないわけだから、次には前に進むという意識となるわけだよね。その習性を利用して、後退させて、前に出すということを繰り返すことは、四肢を踏ん張ってしまって、脚を使っても、叩いても動かなくなってしまった馬に対して有効な手段のひとつですよ。例えばゲートに向かわない馬を、無理矢理に引っ張ったり、あるいは後ろから押すというのではなく、軽い扶助で後退させる状況をつくることで、必ず前へ行こうとする習性を利用した方が楽でしょう。
[西]確かに、後退させることで、ポンと前へ出ていきます。
[沖]あと、ゲートの出るのが速い、遅いということで言うと、重心の置きどころだよね。
[西]中立の姿勢から駆け出すわけですからね。
[沖]そう。ちょっと難しい話をさせてもらうと、ゲートを出て、普通の駆け脚になるまでにローリングキャンターと言って旋回駆け脚をする。イメージとしては、四肢の動きがバラバラで動くのですが、その駆け脚を経て、手前で走りだすわけですよ。
[西]そのローリングキャンターが短い馬が速いということになるわけですよね。
[沖]そういうことだよ。それが上手な馬もいれば、得意じゃない馬もいる。
[西]実際、乗っているとゲートの出が良くない馬というのがいます。そういう馬に対しては、坂路で走り出す前に一旦停止して、そこからキャンターに移るようにするなどの工夫をしているんですよ。
[沖]競馬を経験することで、徐々にでもゲートをスムーズに出るようになるのは、ある意味、条件反射だよ。でも、中立姿勢からトップスピードに移るまでの動きを理解して乗っているのと、そうでないのとでは大きく違うと思うよ。ゲートの中で、重心の置きどころということでも、やはり後ろになければならないわけだからね。
[西]前に重心がある馬というのは、どうしても速く出ることはできません。それがいわゆる『体勢をつくる』ということなんですよね。
[沖]実際のゲートでは、あの僅かな時間の中で、騎手たちは効率の良い姿勢で飛び出せるように試みているわけだよ。
[西]でも、中には前に重心が行きがちで、前扉を潜ってしまいそうな姿勢の馬もいますからね。
[沖]いるね。個人的には、そういう姿勢ができない馬というのは、気持ちの面が影響していると思う。
[西]いまゲート試験を受けまくっているんですが、中でモタれたりした時、口の利かない馬というのはリカバリーできないんですよ。
[沖]それは利かないよね。
[西]でも、口とトモが繋がっている馬というのは、ハミを受け入れているということですから、リカバリーが利くわけですよ。そういう部分でも、口とトモが繋がっていることの大切を感じるのです。
[沖]ゲートに関して言えば、後退ということは避けて通れないだろうね。ただ、あまりやり過ぎると良くない。
[西]なぜですか?
[沖]先ほども話したように、基本的に後退するという行為が馬にとっては不快なわけだよね。前に出ることを嫌がって後退りする馬ではなく、後退することを受け入れている馬であっても、後退することを続けたとすると、平常心で後退していられるうちは良いが、いずれ嫌気が差し、恐怖さえ感じるようになるのです。
[西]どのくらいが良いと思いますか。
[沖]馬にもよるし、状況にもよるだろうけれど、5、6歩というところだろうね。それ以上はやっても意味がないと思う。
[西]実は、調馬索の中で、後退もひとつ重要なことだと思って、やるように心掛けているんですよ。声を掛けて一旦停止して、2歩くらい後退させる。そして、そこからゼッコ、あるいは手綱を合図に、前に発進するという調教をやっているのです。(注・ゼッコ(舌鳴)とは、舌を鳴らす馬への合図で、動かない馬を動くように促す時などに使う)
[沖]良いことだと思うよ。ゼッコや声も扶助なんですよ。乗っていないわけだから、脚を使うこともできなければ、体重移動での扶助もできないよね。そこで、手綱以外ということになると、音声による制御やゼッコが代わりとなる。もちろん馬は言葉を理解しているわけではないから、音の強弱であるとか、特殊な音に反応するわけだよね。
[西]そうですよね。「チッ、チュ」というゼッコも有効な扶助ですからね。
[沖]ゼッコということで言えば、なぜ馬が反応するかと言えば、心地良い音ではないからね。
[西]まあ、ゼッコだけで耳を絞る馬がいますから(笑)。
[沖]ゼッコを使われることは前に出なさいという指示なんだということを馬は、やがて理解するようになっていくわけだけど、人間にとっても簡単で教えやすいんだよね。
[西]『ホゥオ』と声をかけて手綱を少し持つことで停止させ、さらに手綱で合図することで後退させ、ゼッコで前に進ませる。そうすること、つまりは調馬索をかけることで馬の歩様が良くなっていくわけで、それを繰り返しているだけなんですよ。
[沖]でも、それだけの状況を、あの朝のトレセンの中で作り上げるのは決して簡単じゃないよ。現実の話をすれば、調馬索などやっていられないよ。
[西]ズバリ、そうですね。
[沖]それでもやっているのは、我慢できるような状況に持っていくようにすることを目指しているわけだよね。
[西]実際やっていると、程度の差はありますが、落ち着きのない馬が落ち着いていられるようになりますし、力が分散してしまう馬が上手く歩く、あるいは走ることができるようになります。
[沖]でも、全部の馬にやるというのは、なかなか難しいよね。
[西]そうなんですよ。でも、他にも効果があって、ハミを嫌がる馬に対しての効果も大きいと感じさせられるんですよね。そこで、今回ひとつお聞きしたかったのが、以前お願いしたジェイキングについてなんですよ。あの馬はハミが嫌いで仕方がなかったのですが、背中が使えない、さらに左右の動きが違うという肉体面に原因があると思っていたのです。だから、調馬索だと思ったのですが、あの時、場長は気持ちの面という話をされていて、あの馬がハミを嫌がる理由をどう見ていたのか、お聞きしたかったんですよね。
[沖]ハミを持たれること、引っ張られることに対して、極端に体を硬くするなどして、抵抗したんですよ。それらの行動から、相当苦しいと感じさせられたよね。それを取り除いてあげようと思ったのです。
[西]それは肉体的にですよね?
[沖]そうなんだけれど、どう説明したらわかりやすいかなぁ。例えば、内方つまり内側だけを引っ張られると、抵抗で外に膨れるのが自然だよね。それがジェイキングという馬は、内方だけを引っ張った時に体が硬く、気持ちの抵抗が大きいから外へ逃げることさえできなかった。外へ逃げた方が楽なのに、それができないから、頭を上げる、脚を突っ張る、下首も張るから肩の出も悪くなってしまうという悪循環に陥ってしまっていたわけですよ。だから、ストレッチ効果を求めることと、引っ張られても苦しくないんだと気付かせようと調馬索を試みた。時間はかかったけど、大丈夫だと馬が分かってからは変わったよね。
[西]そうなんですよ。例えば、場長クラスの技術を持った人が乗って、体を上手に使えるようになりました。いざトレセンに入ってきて、僕レベルが乗ったらできません。これはよくあるケースですが、あの馬に関しては、場長がやってくれた調馬索がトレセンの角馬場でできていたという手応えがあったのですよ。前に進まなかった馬が、交流とはいえ3着するまでになったのです。最後は、持ちこたえられなくなってしまいましたが、あの馬に調馬索をしたことで、その威力であったり、簡単さであったりを実感させられたんですよね。
[沖]あの時、治療も一緒にしていると言っていたよね。
[西]そうです。悪いところがあって、調馬索を掛けながら、筋注はもちろん、あまりにも悪い時には三日針などの治療もしました。針や注射をしてから回した方が効果があるような感覚があったのですよ。
[沖]調馬索をかけながら、根本的に治療していくというのはとても時間がかかる。効率ということで言えば、注射や針などの処方をしながら、というのは正解だし、時間がない競走馬なら、なおさらでしょう。たっぷり時間があるならば、動かしながら待ち、動かしながら待ちということもできるけど、いまの競走馬にはそのような余裕はないからね。
今週はここまでとさせていただきます。
先週、動画をアップさせていただいたところ、『わかりやすい』と大きな反響をいただきまして、沖崎場長に協力していただいて撮影して、本当に良かったと思います。
もちろん、ご指摘もあるように今回の内容がマニアックであることは承知していますが、これも競馬のひとつであり、何かが原因で能力を発揮できない馬たちがいるということ、そしてその全能力を引き出すために調馬索が有効な手段のひとつであると思わせられたからこそ、今回、沖崎場長に登場していただいたことをご理解いただければと思います。
あくまで主観なのですが、これからもそういうことも含めて頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
あと、ノビーズの次回のライヴが11月1日に府中の『フライト』というライヴハウスで行うことが決まりました。詳細については、また告知させていただきますので、どうかよろしくお願いいたします。
ということで、最後はいつも通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。