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北の地での一戦は、秋競馬に向けて様々な分岐点を作った
文/村本浩平

ゴールの瞬間、それまでの喧騒が嘘のように札幌競馬場が静まり返った。ブエナビスタが2着に敗れたという事実を、誰もが信じたくなかったかのように。

実際に現場では見ていないが、ディープインパクトが敗れた3歳時の有馬記念も、このような雰囲気だったのではと、ふと思った。

競馬場でブエナビスタの姿を見るのは、今回の札幌記念が初めてとなる。自分にとってのブエナビスタとは、「ビワハイジの06」、つまりノーザンファーム早来で、育成されていた頃の思い出が強いからだ。

この日、パドックで見たブエナビスタは、育成時よりも大人の馬へと変貌していた。オークスの頃よりも8キロ増(454キロ)での出走となったが、凱旋門賞に向けてのステップレースとしては、納得のいく仕上がりにも思えた。

その一方で、きっちりと仕上げられていたことが20キロ減(472キロ)という馬体重にも表れていたのが、ヤマニンキングリーである。休み明けと思えないほどにシェイプアップされた馬体からは、このレースが試金石ではなく、一戦必勝という厩舎サイドの強い意思が感じ取れた。

スタート後、先手を奪ったドリームサンデーが作り出した落ち着いた流れを、ブエナビスタはいつも通りに後方からレースを進めていく。ただ、これまでのレースと違っているのは、札幌競馬場の小回りで、かつ269メートルしかない最後の直線。果たしてブエナビスタはどこから動くのか? このレースにおける最大のポイントはそこにあった。

そのブエナビスタより早く動き出しを図ったのがマツリダゴッホだった。この馬ならではの三角まくりを仕掛けると、途端に落ち着いた流れは濁流へと変わっていった。

ブエナビスタもその流れに身を任せるようにしながら、外へと進路を取る。あとはゴール目掛けて突き抜けるだけだった。

しかし、阪神JF桜花賞、そしてオークスでも見せた爆発的な末脚が見られない。いや、直線に入ってからは、ギアが一段、また一段と入っていったようにも思える。だが、トップスピードに達する前にゴール板が迫り、その前には先行して内から抜け出したヤマニンキングリーの姿があった。

調整期間中も幾度となく新冠の錦岡牧場へと足を運んでいた河内調教師は、「休ませたことでリフレッシュできました。馬体重こそ減っていましたが、順調に来ていたことからも何も心配していなかったですし、むしろいい感じに仕上がっていました」と、この結果に満足そうな表情を浮かべていた。

調教師としては、このヤマニンキングリーで初めての重賞制覇(G3中日新聞杯)を果たし、そしてG2もこの馬で手にしたことを聞かれると、「次はG1といければいいんだけど…」と照れくさそうに笑っていた。

今後の目標は天皇賞・秋となりそうだが、07年にはアグネスアークで2着となったレース。あの時のリベンジをと期する気持ちは秘めているはずだ。

一方、2着に敗れたブエナビスタを管理する松田博調教師から、レース後に驚きの事実が伝えられる。それは秋の最大目標とされてきた凱旋門賞を回避するという報告だった。

「今日のレースは仕方ないと思うし、レース内容にも納得しているけど、『勝ったら』という条件だったし、馬体重も思ったほど増えていなかった。この後は秋華賞を目指します」

取材陣に囲まれた松田博師は、その事実だけを伝えるということに終始しているようにも見えた。

あまりにも衝撃的な報告に、取材陣からも質問をつなぐ言葉が出てこない。決して凱旋門賞に向けて悲観するような負け方ではなかったし、むしろ、このレースから得るものも大きかったはずである。レース後、静まり返っていた札幌競馬場のファンに、この事実を伝えたのならどよめきが起こっていたことは想像に難くない。

まくるも失速し、9着に敗れたマツリダゴッホの今後も気になってくる。秋競馬に向けて、様々な分岐点を作ったレース。今年の札幌記念はそのようにして後世に伝えられていくのだろうか。

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