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隙のあるいい女ウオッカ、今年も毎日王冠2着から始動
文/編集部

ゴール前、残り50mでカンパニーウオッカを差した時、それまで「ウオッカ頑張れ」と応援していたはずの気持ちが、突然、安堵の気持ちへと切り替わった。

「これでまたG1が面白くなったな」

我ながらズルい思考である。イソップ寓話のコウモリか。ただ、競馬雑誌の編集を生業とする私個人の考え方としては、G1本番に向け、競馬ファンの間で有力馬の取捨を巡る議論がより白熱化するのは歓迎すべき事態。ここでウオッカが行きたがる素振りなどを見せず、完璧な内容で勝ってしまえば、穴党にとってのモチベーション低下は必至だったことだろう。

そういう意味では、今年もまた適度な「隙」を見せてくれたウオッカとは、やはりいい女である。昨年は安田記念優勝後に休養入りし、復帰戦の毎日王冠2着。そしてその後にダイワスカーレットとの激戦を制し、天皇賞・秋の勝ち馬となった。安田記念1着→夏休み→毎日王冠2着というここまでの行程は、昨年とまったく同じものだ。

一方でこの毎日王冠で見せたレースぶりには、不安点もいくつか見えた。まずひとつは、古馬になってからのウオッカはマイルを主軸に置いた使われ方をしているため、距離が延びると馬の気持ちが前に出すぎて、掛かる危険性が高いということ。実際に2400mの舞台、昨年のジャパンCでは折り合いを欠いたことを最大の敗因として、3着に終わっている。

今回の毎日王冠で、まずウオッカは絶好のスタートを切ることに成功。逃げ馬不在の中、その発馬に加えて序盤からスローなペース。そのため自動的にハナに立つ形となったが、幸いにも掛かる素振りは見せなかった。ただしそのかわり、直線では鞍上の手綱とは別に、ウオッカ自身が自分で三分三厘を判断してスパートをかけるようなシーンが見られた。

これはウオッカの賢さと、重ねてきた経験値の豊かさが現われたシーンだと言える。その反面として、それ事態が新たな懸念材料となってしまったのは皮肉なことだが、距離がさらに延びる天皇賞・秋、ジャパンCを目指す者として、この御しにくさは明らかな不安な材料と言えるはず。「少し力んで走っていた」という武豊騎手のコメントも、この件と関係しているのだろう。

もうひとつは、持ち味である末脚に、微妙な衰えが見られたこと。ウオッカは昨年も今年もハナを奪い、終い差されての2着だったわけだが、昨年はレコードとなった1分44秒6を、上がり3Fを33秒8でまとめて1着と同じタイムでゴールした。それに対し今年は、スローでよーいドンという展開ながら、自身タイム1分45秒5、そして上がりは昨年と同じ33秒8に留まった。

強敵だったダイワスカーレットディープスカイが去り、秋競馬全体の主役としてウオッカが担う役割は昨年よりも大きくなっている。しかし、レースにおいてはわずかな隙もあるという状態。スポーツとしての競馬ファンにとっても、馬券オンリーの競馬ファンにとっても、これほど魅力のある馬はいないだろう。

8歳にして重賞7勝目を挙げ、それまで連対のなかった東京でウオッカを破り勝利したカンパニーは素晴らしい。秋のG1戦線でも存在感を示すに違いない。だが、負けたことでさらに、みんなウオッカから目が離せなくなってしまった。

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