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“幻のハナ差”の名勝負は、消えてなくなるわけではない
文/鈴木正(スポーツニッポン)

これほどまでに長い審議は、15年の競馬記者生活でも記憶にない。審議の対象はブエナビスタと分かっていた。4コーナーでブロードストリートが態勢を崩したが、その前にブエナビスタがいたからだ。

「降着かもしれない」という冷静な判断と、「ここまでレースを盛り上げた二冠牝馬だ。助けてやれよ」という気持ちが交錯する。関係者にも少なからず、そんな感情がわき起こったのではないか。だからこそ、ここまで長時間の審議となったのかもしれない。

結果は……降着ブエナビスタの三冠最終戦の結末としては気の毒だが、仕方ない。JRAの裁決がしっかりと自分の仕事をした、ということだ。思わぬ結果になったからといって、今、目の前で繰り広げられた“幻のハナ差”の名勝負が、消えてなくなるわけではない。

まずは勝ったレッドディザイア陣営の仕上げ四位洋文騎手の手綱捌きとも見事と言うしかない。ローズSから14kg減。パドックではしっかり集中、最高の歩様を見せ、ここに向けて究極の仕上げを施したことが、よく分かった。

四位騎手のコントロールも完璧だった。先団各馬のペースに振り回されることなく、絶好位のインを進み、4コーナーでもスムーズに、前に馬のいない場所へと相棒を誘導した。

桜花賞、オークスと同じ、タイミングドンピシャの追い出し。過去のG1・2戦では最後の最後にブエナビスタの強襲を許したが、今回は凌ぎ切った。短い直線が味方となったと言う方もいるだろうが、それでは頑張った陣営に対して、少し優しさが足りない。四位騎手を含めたスタッフ一丸の努力が、最後に馬を後押ししたのだ、と称えようではないか。

それにしても松永幹夫調教師、お見事。ハンサムで優しげな表情のどこに、こんな鬼気迫る勝負強さが隠れているのだろうか。同厩舎のチームワークの良さには、以前から注目していた。旧山本正司厩舎のメンバーを中心に「ミキオをみんなで男にしよう」というムードにあふれている。これも山本氏や松永幹師の人徳によるものだろう。

冷たい世間同様、人付き合いがドライになった印象もあるトレセンにあって、松永幹夫厩舎には古き良き時代の競馬の匂いがしたものだ。最後の一冠は、人の和がもたらしたとも言えるかもしれない。

2着ブロードストリート。驚いた。この馬は本当に強くなった。ジャンプするようにスタート。致命的な出遅れと思われたが、道中でジリジリと巻き返した。4コーナー手前では前述の不利がありながら、ゴール前ではしっかりと追い上げた。レッドディザイアブエナビスタとはG1でこれからも覇を競っていくに違いない。大仕事のチャンスもきっとあるはずだ。

ブエナビスタ。今は、ご苦労さまと言ってあげたい。思えば札幌記念からの始動は、凱旋門賞挑戦を視野に入れてのものだったはずだ。一転して秋華賞に向かうこととなって、中7週と間隔が空き、調整は難しかったと思われる。中間は蟻洞も見つかった。すぐに処置して問題はなかったとのことだが、多少の不安が生じたことは否定できない。

そんな苦しい状況下で、陣営は泣き言ひとつ言わず、前を向いて仕上げてきた。ただ、わずかに運がなかった。4角手前で外に動いて後続の進路を妨害したが、ここが勝負とばかりに馬がスピードを上げた以上、安藤勝騎手があの位置に馬を誘導するのはやむを得ない。そこにブロードストリートがたまたまいたということであり、自分は安藤勝騎手を責める気にはならない。

直線、ブエナビスタが猛追したシーンは、これからも目に焼き付いて離れないことだろう。差し、追い込み馬には難しい3番枠を引いたが、安藤勝騎手は下げて外に持ち出すことなく、インで勝負を懸けた。結果として、それが仇となり、降着になったが、それは勝負にいった結果。安藤勝騎手もインで立ち回ったことについては後悔していないはずだ。

自分の本命はクーデグレイス。単複馬券を握りしめ、一瞬は3着と思ったが、そうは甘くなかった。だが、往年のテイエムオペラオー、メイショウドトウを思わせる、宿命のライバルによる、こん身の名勝負を見ることができて、馬券の外れはどうでもよくなった。

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