マイル路線に土木建築用のスコップを持った男が現れた!?
文/編集部
出走馬15頭中、
G1馬が
4頭、
重賞勝ち馬が
10頭。例年以上に好メンバーが揃った今年の
マイラーズC。
どの馬が勝っても不思議はない。その反面、どの馬も決定的な力を持っているとは言い切れなかった。
抜けた存在がいなかったことに加えて、このレースがあくまで
“前哨戦”であることが予想を難しくさせた。競馬新聞の厩舎コメント欄には
「大目標は次」というニュアンスが浮かぶ。
ヴィクトリアマイル、
安田記念という目標を控えて、ここを復帰戦に選んだ馬も少なくなかった。
ゲートが開いて、最初に手応えよく先頭を窺ったのは
マイネルスケルツィ、
サクラメガワンダー、
ローエングリンあたり。でも、どの馬もスタートが良かっただけ。ハナを奪いたかったわけではないのは、その後の鞍上の御法を見れば明らかだった。
阪神芝の外回りコースで、
連続開催8週目。馬場も荒れている上に、大目標が次にあれば、そんなに無理をしたくないのも当然だろう。
そんな中、鞍上がゴシゴシ手綱をしごいてハナを主張したのが、
コンゴウリキシオー&
藤田騎手だった。
ローカルの芝中距離を得意とするこの馬にとって、春の大目標は定めづらい。一説では、
ダートの
かしわ記念を目標とする話も出ていた。
芝マイル戦は今回が初出走。自分の競馬に徹してどこまで通用するか、試したい気持ちもあったのではないか。
ただ
「試したい気持ち」は、他の馬たちも同じだったろう。違っていたのは、それぞれの脚質。差し馬たちはどれくらいの脚が最後に使えるか、試したかったのだろうが、逃げ馬である
コンゴウリキシオーは、
どれくらい脚が最後まで持つか、それを計ってみたかったに違いない。
結果的には
「計る」どころの騒ぎじゃない
レコードでの圧勝となった。後方からレースを進めた馬たちは差し届かず。まことに
“前哨戦”らしい結末だった。
ただ、
前哨戦でのこの
キツーイ一発は、マイル路線を面白くする格好のカンフル剤になるような気がする。
前哨戦がスローで上がりだけの競馬になっていたら、本番での思惑が低減する。逃げ馬が強烈なパンチを浴びせたことで、
安田記念は引き締まった好レースになるのではないだろうか。
東京競馬場も
阪神競馬場も、
マイルコースは直線が長くなったことで興味が薄れたと言われる。みんなが最後の直線に向くまで脚を溜めて、
スローのよーいドンばかりだからだ。しかし、こんなハードパンチャーな逃げ馬がいれば、話は別だろう。直線が長いからこそ、むしろいろんな思惑が交錯する。
ちなみに、優勝した
コンゴウリキシオーの
父Stravinskyは、
ジュライC(芝6F)と
ナンソープS(芝5F)を制し、
99年の欧州最優秀スプリンターに輝いた馬。父の活躍距離を考えれば、
コンゴウリキシオーはむしろよく中距離で好成績を残してきたとも言える。もしかしたら、
マイルこそが適距離の可能性すらある。
スローの瞬発力比べになりやすい現代のマイル戦線に、突如現れた
コンゴウリキシオー。その姿は、さながら、公園の砂場でお砂遊びをしている中に、
土木建築用のスコップを持った子供が登場したぐらいの衝撃を感じる(笑)。
「全部、ひっくり返しちゃうよ」。
ピンク色のメンコの中から、そんな声が聞こえなくもない。