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4本の矢と1本の矢に詰まった、それぞれの思い
取材・文/村本浩平

ノーザンファームがこの皐月賞に送り出した4本の矢。

その中で1番人気に支持されていたのがアドマイヤオーラだった。

育成を施していたのが、ノーザンファーム早来の林厩舎。ちなみに林厩舎ではヴィクトリーの育成調教も行っていた。

一方、無敗の皐月賞馬を狙うフサイチホウオーを育成していたのが、その2年前に無敗の皐月賞馬となったディープインパクトも育成していた横手厩舎ディープインパクトの弟であるニュービギニングもまた、横手厩舎の出身である。

実はこの皐月賞を、林厩舎長も横手厩舎長も見に行っていない。林さんは牧場で調整を行っていたアドマイヤメインを山元トレーニングセンターへと送り届けるために馬運車に乗り込み、そして横手さんは私用があったからだ。

林厩舎長と横手厩舎長はノーザンファームの先輩後輩でもある。年齢は林厩舎長の方がひとつだけ上だが、仕事の面では先輩後輩も関係なく、日々切磋琢磨し合っている。そういえば、昨年の2歳馬の取材で、「今年はこの馬で(横手)裕二の馬に勝つから」と話してくれたのが、アドマイヤオーラと、そしてヴィクトリーだった。

横手厩舎長と同期入社になるのが、ドリームジャーニーの育成を手がけたノーザンファーム空港牧場の藤田調教主任。同じノーザンファームの冠が付く育成牧場とはいえ、ドリームジャーニー白老ファームの生産馬。でも、目の前にいる馬に頑張ってほしいのはスタッフとして当たり前のことであり、皐月賞当日はTVの前で朝日杯FSで見せた末脚の再現を願っている。

横手厩舎のOBであり、現在は旧横手厩舎で2歳馬の育成を行ってきたのが佐藤厩舎長。本来はノーザンファーム早来における休養馬の調整を行う厩舎だったはずの佐藤厩舎は、昨年の春に外国馬が入厩してきたことを機に、再び育成調教の仕事も行うことになった。

その初年度からクラシック戦線を賑わす存在となったのがフライングアップルである。「ノーザンファームの生産馬ではありませんが、僕だけでもフライングアップルの応援をしてきます」と佐藤厩舎長は言い残して、前日に東京へと旅立った。

レースは逃げ宣言をしていたサンツェッペリンが集団から前に出たものの、すぐに外からやってきたヴィクトリーがハナを奪う。前走の若葉Sにおける暴走がちの逃げ、そして調教では助手を振り落として坂路調教のレコードなど、「暴れん坊」のイメージがあったヴィクトリーではあったが、1000m通過を59秒と、鞍上を務めた田中勝春騎手の指示通りにレースを進めていく。

一方、上位人気に支持されたアドマイヤオーラフサイチホウオーは、お互いを牽制し合うように後方でレースを進めていく。4コーナーの手前、直線での仕掛けを考えていた2頭は外に振られる。その時、逃げるヴィクトリーサンツェッペリンは、2頭の遥か前方を走っていた。

サンツェッペリンのオーナーは、日高町で育成牧場を営む加藤氏。加藤氏が代表を務める加藤ステーブルからは、ウインクリューガーヤマカツリリーなど数々の活躍馬が輩出されている。馬主資格も持つ加藤氏は、「自分で所有できる採算に見合った馬」ということで、取り引き額100万円のサンツェッペリンを購入。ホースマン人生約30年のノウハウを、サンツェッペリンの調教に施してきた。

「サンツェッペリンは逃げるのも抑えるのも、なんら苦にならないだけのことはしてきました。でも、この価格の馬が皐月賞を勝つだなんて、他のオーナーの方々に失礼です。ただ、牧場のスタッフをはじめとして、馬にきちんとした調教をしてきた成果が出るといいですね」

先日、お会いした時に加藤氏はそう話してくれた。加藤氏から、馬の知識や勉強をしたいと願う若手騎手たちは、毎週のように日高町を訪れているという。

逃げるヴィクトリー、追うサンツェッペリン。その後ろから猛烈な勢いでフサイチホウオーが襲いかかる。しかし、ゴール前でハナ差だけ先に出ていたのは、ヴィクトリーだった。田中勝春騎手は92年の安田記念以来、これが15年ぶりの中央G1レース制覇。不名誉な記録とされてきたG1連敗記録も139で終止符を打った。

この勝利を、林厩舎長はフェリー乗り場のラジオで確認していた。すぐにおめでとうの電話をかけたという。横手厩舎長は「それでも勝ったのはノーザンファームの馬だから良かったですよ」と、応援に行くことがほぼ決まっているというダービーへと気持ちを切り替えていた。

先日、取材先で会った藤田調教主任も、ダービーは応援に行きますと力強く話してくれていた。唯一、中山競馬場に出かけていた佐藤厩舎長は、明日から気持ちを切り替えて、再びフライングアップルのような馬を送り出そうと誓ったのではないだろうか。

レース後、しばらくして携帯が鳴った。加藤氏からだった。「惜しかったですね」と僕が話し出すよりも先に、加藤氏は快活な声でこう話し出してきた。

「今日のレースを見てもらいましたか? 以前に話していたようにサンツェッペリンは折り合いもついて、自分の力を120%出すレースをしてくれました。1コーナーでヴィクトリーが外から上がって行った時も引っかかることなく、最後にもうひと伸びしてくれました。最後のハナ差は首の上げ下げの中で起こったことですから、仕方ありません」

競馬界のエリートしか参戦できなくなっている近年のクラシックレース。その中で100万円サンツェッペリンは、1分59秒9の時間の中で実に強いレースを見せてくれた。この日、皐月賞を見た誰もがサンツェッペリンの存在の向こうに、加藤氏というホースマンの姿が垣間見えたに違いない。

世代の頂点を決めるダービーは、今から一ヶ月半後。その時、最高の笑顔を見せているホースマンは、この中の一体誰となるのだろうか。

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