今年は長距離戦のオモシロさがいっぱいに詰まっていた
文/関口隆哉
レース当日の段階になっても、
「今年の天皇賞・春はこの馬から勝負!」という存在が見い出せないでいた。よく言えば
大混戦、悪く言えば
出走全馬が、どこか物足りない。そこで頭に浮かんだのが、
「こういう時こそデータを頼りにしてみるのだ」ということだった。
まず注目したのが、1番人気馬
アイポッパーの前日発売における単勝オッズ
4.2倍という数字。87~06年の過去20年で、単勝オッズが4倍台の1番人気馬は、87年
タマモクロスのみ。やや信頼性の薄い本命馬だった
タマモクロスだが、天皇賞・春では3馬身差で勝利し、
歴史的な名馬となる第一歩を踏み出している。
一方、単勝3倍台の1番人気馬は過去20年で、89年
スルーオダイナ(オッズ3.0倍)、95年
エアダブリン(3.5倍)の2頭がいて、こちらは
3、5着といずれも連に絡むことができずに敗退していた。
レース当日の午後3時を回った時点で、
アイポッパーの単勝オッズは
4.0倍。データからすると、
勝利と
敗北の境界線上に位置しているのであった。結局、3時25分の段階で、単勝オッズは
4.0倍のまま。
「これなら大丈夫だろう」と考えた筆者は、
アイポッパーの
単勝と、それを軸とした
馬単、
3連単を、ガッチリ買い込んだのである。
ところが、3時27分になって単勝オッズが
3.9倍に上がる。さらに、3時30分を過ぎて、その数字は
3.8倍と、ここに来て
アイホッパーの単勝を買い求める競馬ファンが、確実に増えてきたのである。
「コイツはマズイ! プランBを発動せねば」“プランB”とは、単勝オッズ3倍台の1番人気馬が敗退した89年(
イナリワン)、95年(
ライスシャワー)でともに勝利した4番人気馬
トウカイトリックを軸とした馬券作戦。ドタバタと追加の馬券を買い終えた頃には、すでにゲート後方で、出走各馬の輪乗りが始まっていた。
ゲートで
トウカイトリックが鞍上の
池添騎手を振り落とすアクシデントがあったが、無事にゲート再入し、無難なスタートが切られる。10番人気
ユメノシルシが淀みのない流れでレースを引っ張り、3番人気
デルタブルースは好位から、
トウカイトリック、2番人気
メイショウサムソンは中団に位置した。
アイポッパーは後方2、3番手の外からレースを進める。前に行った馬が圧倒的に有利な現在の京都芝コースの傾向を考えると、この1番人気馬の位置取りは、少々不安なものにも思えた。
2周目3角の坂で馬群がグッと縮まってくる。
メイショウサムソンの手応えが素晴らしく、直線入り口で早くも先頭に立つ。直線半ばで後続との差を拡げた
メイショウサムソンの外から、11番人気の伏兵
エリモエクスパイアが一気に脚を伸ばしてくる。
トウカイトリックが内を突き、大外から
アイホッパーもやって来たが、首位争いは上位2頭に絞られた。ゴール前で脚色が良かったのは
エリモエクスパイアの方だが、
メイショウサムソンが持ち前の尋常ではない粘り腰を発揮する。
ギリギリ追撃を凌ぎ切り、ハナ差で前年の
皐月賞、
ダービーに続く3つ目のG1タイトル獲得を成し遂げた。
勝ちタイム
3分14秒1は、前年
ディープインパクトが樹立した
3分13秒4のスーパーレコードには及ばなかったものの、
天皇賞・春史上2番目の好タイム。
時計が出やすい京都芝コースの馬場状態もあったが、
ユメノシルシ、
マイソールサウンド、
マツリダゴッホといった先行勢の前半の頑張りが、レース全体の中身を濃くしたことは間違いない。
その中で勝利を得た
メイショウサムソンは、
他馬との地力の違い、そして
4歳馬の持つ勢いを見せつける形となった。距離的にはベストとなる次走の
宝塚記念で、G1連覇を飾る可能性も高そうだ。
馬券的には、まさしく1レースで二度負けたボロボロの筆者ではあったが、
スタミナとスピードの限界を競う長距離戦のオモシロさがいっぱいに詰まった、この
天皇賞・春のレース内容には、十分に満足したのだった。