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名馬はいつ誕生するかわからないが、名牝の系譜は人間が作っていくものである
文/村本浩平

「引退するまで騎乗できるジョッキー」。これまで主戦を務めていた本田優現調教師からの乗り替わりに際して、それがオーナーサイドが伝えた騎手の選定に関する指示だったという。こうしてカワカミプリンセスの新パートナーは武幸四郎騎手が務めることとなった

これには2つの意味があると思う。ひとつはカワカミプリンセス牝馬限定のJpn1だけでなく、牡馬のJpn1に挑戦していくという気持ちの表れ。そのためには、牝馬のJpnレースは騎乗できても、牡馬のJpnレースでは有力牡馬に乗り替わられては困る。そして、引退後に繁殖牝馬となってからのことである。

カワカミプリンセスのオーナーは、新ひだか町三石で生産牧場を営む三石川上牧場6月産まれということもあって買い手がつかなかったカワカミプリンセスを、馬主資格を持っていた中央で使ったところ、あれよあれよの5連勝でG1・2勝。ちなみにこれまで中央で走らせた馬は、一頭たりとも勝ち名乗りを挙げたことはなかったという。

牧場がカワカミプリンセスを中央で走らせた理由には、「中央で勝ち名乗りを挙げさせたい」という思いがあった。別に芝向きの馬だと見抜いていたわけではないし、賞金がいいからでもない。預託料を考えたなら、地方で走らせた方がいい場合もある。それでも中央出走にこだわった理由には、中央での1勝馬繁殖としての価値に違いが出てくるからだ。

カワカミプリンセスの血統は、決して目を引くような良血馬ではない。だからこそ、カワカミプリンセス自身が優秀な成績を残さなければ繁殖としての価値は上がらない。正直、牧場にとっては中央で新馬戦を勝ち上がってくれただけでも満足だったことだろう。だからこそ、それからの5連勝でのG1・2勝は「思ってもみなかったこと」だったのだ。

オークスの後、ぶっつけで秋華賞に挑んだ理由にも、「大事に使いたい」との気持ちが表れている気がする。エリザベス女王杯は残念な結果に終わってしまったが、それでも陣営はこのレースが終わったら再度休養に出すことを決めていたという。普通ならレースを使って賞金を少しでも取りに行くに違いない。でも、牧場は賞金や勝ち鞍を積み重ねて繁殖牝馬としての価値を高めることよりも、無事に繁殖牝馬として戻すことを重要視しているのだろう。

騎手の乗り替わりを嫌ったのも、癖を分かっている人に大事に乗ってもらいたいからという意味合いが込められているに違いない。6ヶ月の休み明け、そして新コンビ。馬券では嫌われるパターンながらも、カワカミプリンセスは他の17頭を差し置いて1番人気の支持を集めた。

ゲートが開くと、カワカミプリンセスはやや後方に置かれた。その後もどこかリズムが合わないような走りを続けていく。

前を行くのはアサヒライジング。単騎逃げのような形で4コーナーを回っていく。荒れた内馬場を嫌って内に大きなスペースを作りながらアサヒライジングが突き進んで行く。その無人の荒野に迷いなく進路を向けたのがコイウタだった。

コイウタアサヒライジングを交わしにかかった時、外に進路を向けていたカワカミプリンセス、そして2番人気に支持されたスイープトウショウといった有力馬は、一向に伸びてこない。コイウタがゴール板を過ぎると同時に、鞍上の松岡騎手は大きなガッツポーズを取った。

コイウタの母ヴァイオレットラブは、姉妹に重賞3勝馬のビハインドザマスクの名前があるなど、ブラックタイプにこそ黒い太文字が並ぶが、名牝ひしめく社台ファームにおいては決して目立った繁殖牝馬ではない。しかし、コイウタの活躍で繁殖牝馬としての価値が高まったことは間違いなく、4月5日に誕生した全兄弟(牝、父フジキセキ)への期待も高まる。

カワカミプリンセスもこの敗戦で、競走馬としてだけでなく、繁殖牝馬としての価値が下がったわけではない。人馬ともに、次に巻き返せばいいだけの話なのだから。そして勝ったコイウタは晩成の活躍をした、叔母ビハインドザマスクと重ねていくと、これからの古牝馬戦線の主役となるような活躍が期待できそうである。

名馬はいつ産まれてくるか分からない。でも、名牝の系譜は人間が作っていくものなのだと改めて感じる。

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