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ウオッカの64年ぶりの快挙は、新時代突入の象徴的な出来事でもある
文/田端到

名馬には歴史が通用しない。前例に学び、常識という知恵で武装した者を、あざ笑うかのように、新しい物語を作り出す。

ヴィクトリーの出負けが波乱の始まりだった。あれは出遅れだったのか、それともゲートをそっと出したいという鞍上の心理が、馬に伝わったのか。デリケートな皐月賞馬の危惧された部分がいきなり顔を出し、後方2番手という思わぬ位置取りになる。

先手を取ったのはアサクサキングス。1コーナーを回り、隊列が落ち着きかけたところで、ヴィクトリーが馬群の外をぐんぐん上がっていく。

これに乱されたのが1番人気のフサイチホウオーだった。中団で折り合いかけたところに、外からこすられる格好となり、馬のテンションに火がつく。かわしていくヴィクトリーを追いかけ、鞍上の言うことを聞かなくなる。

懸命に手綱を引っ張り、折り合いを取り戻そうとするフサイチホウオー安藤勝己騎手。しかし、パドックから入れ込んでいたこの日の大本命馬は、なかなか落ち着きを取り戻せない。

そんな中、馬群の内でじっと折り合い、自慢の刃を研いでいたのがウオッカだった。牡馬に囲まれた、ただ1頭の牝馬という状況がどんな心理状態を馬にもたらすかは想像できないが、グラマラスな漆黒の馬体は何ひとつ動じていなかった。

直線、アサクサキングスサンツェッペリンが内で粘る中、ウオッカが馬場の真ん中を堂々と突き抜けてゆく。勝たなくてはいけなかった桜花賞で2着に泣いた悔しさを振り払うかのように、四位洋文騎手がパートナーの切れ味を存分に引き出す。

ゴールへ飛び込んだときには、2着アサクサキングスに3馬身差をつける圧勝、完勝。四位騎手が右手を挙げ、指を1本突き出す。上がり3F33秒064年ぶりに牝馬のダービー馬が誕生した瞬間だった。

常識にとらわれすぎてはいけない。競馬とは過去の歴史に学びつつ、歴史をくつがえす馬を探すゲームなのだ―このことをこれほど実感したダービーはない。

フサイチホウオーに大枚を注ぎ込んだ者たちは「9年連続で1番人気が連対中」「父ジャングルポケットも皐月賞3着からダービー1着」「皐月賞で脚を余して追い込んだ馬は府中で巻き返す」というダービーの歴史に頼りすぎた。

ヴィクトリーに賭けた者たちは「皐月賞を逃げ切った馬はほとんどダービーも勝つ」「同じブライアンズタイム産駒の二冠馬サニーブライアンと枠順までそっくり」という前例を教訓にしすぎた。

そしてウオッカを買えなかった者たちは「いくら強くても牝馬がダービーなんて」と、常識という名の呪縛から逃れられなかった。近年の牝馬によるダービー挑戦、ある人はビワハイジを、ある人はシャダイソフィアの完敗を思い浮かべ、ウオッカのずば抜けた能力を正当に評価し損なった。

冷静に振り返れば、初めから今年のダービーは「過去の歴史」とは違っていたのだ。

皇太子殿下の初観戦となるダービー。あの武豊騎手が直前にお手馬を乗り替えられたダービー。長年天下を制圧してきたサンデーサイレンス産駒が12年ぶりにいないダービー。皐月賞で敗れた馬が単勝1倍台に押し上げられたダービー。

ウオッカの64年ぶりの快挙は、日本競馬がまたひとつ新しい時代に入ったことの象徴的な出来事でもある。

歴史を参考にすることは大切だ。しかし過去にとらわれすぎては、新しい未来へ踏み出せない。私たちは日々そのことを、競馬で、そして馬券の難しさで学んでいる。

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