圧倒的なスピードでレースを支配するスプリンターがようやく現れた
文/安福良直
雨であいにくの
不良馬場となった今年の
スプリンターズSだったが、3歳牝馬の
アストンマーチャンがそんなどんより感を吹き飛ばすスピードで逃げ切った。
最後は馬場に脚をとられた感じで詰め寄られたが、
完勝と言っていいだろう。
良馬場だったらもっと突き放していた可能性の方が高い。
ここ数年、主役不在の混迷状態が続いていた短距離界に、ようやく核となる馬が現れた。
何しろ近年、短距離界には
「逃げ馬」がいなかった。スタートからビュンビュン飛ばし、厳しいペースを自ら作り出す、まさにスプリンターと言うべき存在。3年前にこのレースを勝った
カルストンライトオを最後に、
「短の逃げ馬」がオープンからいなくなってしまった。
おかげで短距離重賞のペースは緩み、レースのレベルは下がって、今のような混迷状態を招いた。
スプリンターズSは
外国馬に勝たれ続け、
高松宮記念を
マイル路線の馬にさらわれ続けていたのは、
前半のペースが緩くなっていたから、と言わざるを得ないのではないか。
だから、
圧倒的なスピードでレースを支配するスプリンターの登場を待ち望んでいたわけだが、今日の
アストンマーチャンの走りは、まさに
救世主誕生と言うにふさわしいものだったと思う。
スタートは
ローエングリンの方が速かったが、
ローエンに行く気がないのを見るや、すかさずハナに立ち、最初の1ハロンの地点で後続に3馬身近い差をつけた。
もうこの時点で、
「私はこういう馬を待っていたんだ!」という気分。もっとも、
短距離G1でスタート直後に3馬身もの差をつけられてしまう後続馬たち、というのもちょっと情けないけどね。逃げ馬が何頭もいた時代なら考えられないことではある。
この時点で、もう
「勝負あった」なのかもしれない。前半3ハロンの
33秒1というラップは、
良馬場だった昨年より
0.3秒、一昨年より
0.2秒遅いだけ。近年の
スプリンターズSでは、もっとも厳しいペースと言っていいだろう。
3コーナーでは後続馬たちの手応えの方が悪かったくらいで、
アストンマーチャンが作る流れに誰も乗れなかった。
勝ちタイムは
1分9秒4だったが、
良馬場なら
7秒台前半で押し切っていただろう。思えば3年前の
カルストンライトオ以降、短距離重賞で逃げ切りをほとんど見ていないが、やはりこういう逃げ馬が現れないと、短距離戦は締まらないものだ。
それにしても、今年の
3歳牝馬は強い。牡馬相手にG1を勝った馬が、
ピンクカメオ、
ウオッカに続いて早くも3頭目だ。
今日の
アストンマーチャンは体が10kg増えて、体だけで他馬を圧倒するような威圧感があった。
ダービーのときの
ウオッカもそんな感じだったし、
この世代はたくましい牝馬が多い、ということだろう。
2着の
サンアディユは、前走のような強さは発揮できなかったが、連対を死守したあたりはさすがと言っていい。前半はそれほど無理せずに好位につけていたので、潜在的なスピードはこちらも相当なものがある。
今後は
アストンマーチャンにどんどんプレッシャーをかけていくような競馬をしていけば、きっと名スプリンターに成長すると思うぞ。
そうやって厳しい短距離戦線を繰り広げていけば、来年は強力外国馬をはね返して日本馬が勝つシーンを見ることができるはずだ。