母スカーレットブーケの偉業に貢献する勝利
文/関口隆哉
ダイワスカーレットの母、
スカーレットブーケは、筆者にとって印象の深い競走馬の1頭で、なかでも、ラストランとなった4歳暮れのOP特別・
ターコイズSでの走りが感動的だった。
ハンデ頭となる58キロの厳しい斤量を背負いながら、他馬をねじ伏せるような強さを見せて勝利。
現在と違い、古馬が出られる牝馬限定G1戦がなかった時代、OP特別を引退レースに選ばざるを得なかった重賞3勝馬
スカーレットブーケには、哀しみに近い感情を勝手に抱いていたのだが、そんなセンチメンタルな想いを完全に払拭してしまう、素晴らしいパフォーマンスに心打たれたのだ。
現役を引退し、繁殖牝馬となった
スカーレットブーケが16歳の時に産んだ娘が、この
エリザベス女王杯で
単勝1.9倍の圧倒的な1番人気に推されていた
ダイワスカーレット。
本来なら、同世代の最大のライバル、
ウオッカとの2強対決となるはずだったが、当日朝の段階で、
右寛ハ行を発症した
ウオッカが出走を取消し、レースの焦点は、
ダイワスカーレット対古牝馬陣という図式に移行した。
ゲートが開き、デビュー戦からのコンビとなる
安藤勝己に手綱を取られた
ダイワスカーレットが難なくハナに立つ。序盤戦は、やや速いペースだったが、2コーナーを回ったあたりから、レースはスローで流れる。
ダイワスカーレットにとっては
秋華賞の時と同じ、ほぼ理想的な展開となったわけだ。向こう正面で
アサヒライジング、
フサイチパンドラといった実力馬が2、3番手に上がってきたが、
ダイワスカーレットは終始余裕を持ってレースを進めた。
直線に入り、
ダイワスカーレットは、後続との差をさらに拡げる。この勝負どころで発揮される瞬発力は、
桜花賞、
秋華賞でも見せた、この馬最大の武器だ。そしてそれは、多少スケールの違いはあるものの、母
スカーレットブーケがラストラン、
ターコイズSで示したものでもある。
ルメールに乗り替わった
フサイチパンドラ、実績ナンバー1古牝馬である
スイープトウショウが、ゴール前で追い上げてきたものの、
ダイワスカーレットは最後まで危なげのない走りを見せ、先頭でゴール。2着
フサイチパンドラとの差は
4分の3馬身だったが、着差以上に地力の開きを感じさせるレース内容となった。
初の古牝馬との戦いを制した
ダイワスカーレットは、これでG1・3勝目。この一戦が今年最後のレースとなる予定だが、
最優秀3歳牝馬のタイトルは、ほぼ確定させたと言っていいだろうし、
すべて重賞レースで6戦4勝2着2回という安定感抜群の戦績、ダービー馬
ウオッカをG1戦で2度降していることも考慮に入れれば、
年度代表馬に選ばれても、不思議ではないとさえ思っている。
母
スカーレットブーケは、
ダイワメジャーの4勝を加えて、これで
産駒7つ目のG1制覇。
ビワハヤヒデ、
ナリタブライアン兄弟で
中央競馬G1戦を8勝した母
パシフィカスの記録まで、あとひとつに迫った。
日本競馬史に残るスーパー繁殖牝馬。あのラストラン、
ターコイズSから15年、
スカーレットブーケも、とんでもない高みにまで昇り詰めてきたものだ。