金メダルの獲り方を知っている厩舎、勝利への強い意志を見せた騎手
文/田端到

スタート直後、手綱を動かしているジョッキーはひとりしかいなかった。3枠の赤い帽子、
川田将雅の
キャプテントゥーレが果敢に手綱を押して先頭に立った時、
「予感」のひとつが形となって目の前に現れた。
勝負服は黄色に黒の縦縞。大舞台で飽きるほど見てきたデザインだ。
一方、1番人気の
マイネルチャールズは、隣のゲートから出た2番人気の
ブラックシェルに馬体をかぶされるような形になり、窮屈な序盤を強いられていた。
G1の勝ち方を熟知する
武豊が、
松岡正海に試練を与えているように見えた。これもまた戦前に喧伝された
「予感」の一部だろう。
「マイネルの馬が本当にクラシックを勝てるのか?」「松岡騎手が強気の時は危ないぞ」「中山のG1だから、また逃げ馬が残るんじゃないの?」「結局はサンデー、社台、関西馬っていうオチになるかもよ」皐月賞前にささやかれたこれらの言説を振り返れば、
キャプテントゥーレの鮮やかな逃げ切りという結果は、あっと驚く波乱劇ではない。馬券を外した人たちもおそらくは、
ああ、やっぱりと、どこかで納得する予感の範囲の結末ではなかったか。
ただ今回はその
「やっぱり」の選択肢がいくつもありすぎて、ひとつに絞ることが難しかった。そんな
皐月賞だったように思う。
キャプテントゥーレの勝因はまず何よりも
積極性にある。中山のG1は、昨年も
皐月賞を
ヴィクトリーが逃げ切り、
スプリンターズSの
アストンマーチャンや、
朝日杯FSの
ゴスホークケンも逃げ切りだった。
特に
馬場が渋った時の逃げ馬有利は明らかで、どの馬がハナを切るのかの争いは、高価な宝石を先着1名のバーゲンセールで入手できるくらいの価値を持つはずだが、その争いに自分から手を伸ばしたのは
川田&
キャプテントゥーレだけだった。
なかには
マイナス18kgの馬体重を知って、
キャプテントゥーレの馬券に二の足を踏んだ人がいるかもしれない。しかし、じつはこれ、
森秀行厩舎の好走パターンである。
G1でマイナス10キロ以上の変動があり、連対した森厩舎の馬は過去にもたくさんいる。
05年ジャパンCダート2着の
シーキングザダイヤ(11人気)、
マイナス11kg。
05年阪神JF2着の
シークレットコード(9人気)、
マイナス18kg。
98年スプリンターズS2着の
シーキングザパール(2人気)、
マイナス14kg。
前哨戦は完調手前の余裕を持ったデキでのぞみ、本番で100パーセントに仕上げて力を引き出す。これがG1を勝てる厩舎、ジョッキー、生産者の共通点であり、だからこそ
森厩舎の馬も、
社台ファームの馬も大舞台に強い。
2着の
タケミカヅチも
キャプテントゥーレと同じ
社台RHの所属馬であり、馬主としては
桜花賞の
レジネッタに続く
2週連続のクラシック優勝となった。
混戦模様のG1ほど、
金メダルの獲り方を知っている者たちのプラスアルファの力と、
自ら栄冠に向かって手を伸ばす勝利への強い意志が、大きな意味を持つ。それを痛感させられた
皐月賞だった。