四位騎手が直線に入って「わくわくしながら追い出した」気持ちがよく分かる
文/辻三蔵(レーシングライター)
四位騎手が両手でガッツボーズをしようとした瞬間、
ディープスカイが振り落とした。検量室前は一瞬の静寂のあと、笑いに包まれた。
四位騎手も苦笑いしている。G1を戦い抜いた後にも関わらず、
ディープスカイは
走り足らないとばかりに元気いっぱいだ。
今年の
NHKマイルCは
ファリダット、
ゴスホークケンと1番人気が目まぐるしく変わった。最終的に1番人気に推されたのは
ディープスカイだったが、ファンの期待に応える横綱相撲だった。
マイル戦らしく、パドックではテンションが高い馬が多かったが、落ち着き払った姿で堂々と歩いている。馬体のハリも申し分なく、最高の仕上がりだ。
スタートは普通に出ると、「馬の気持ちに任せて」(四位騎手談)自然と後方に下がる。目の前にいた
ファリダットは
武豊騎手が宥めるのに苦労していたが、折り合いがついて、抜群の手応えで追走する。
直線では各馬、外に回る中、
「馬場のいい内目」を狙って、迷わず進路を取る。逃げた
ゴスホークケンの内を突いた
ブラックシェルが一旦、抜け出したが、さらに内から追い込んでくる。
ブラックシェルを一気に交わすと、豪快に突き放した。
勝ち時計の
1分34秒2は同じ
稍重だった前日の
晩春S(古馬1600万下、1着マイネルポライト)より1秒1速い。しかも雨が降り始めだった前日より悪化しているのは間違いない。馬場差を考えれば、破格の好時計だ。
それでいて、
上がり3F33秒9はレースのそれを1秒1上回る最速タイム。
メンバー唯一の33秒台をマークした。
四位騎手が直線に入って
「わくわくしながら追い出した」気持ちがよく分かる。
前走の
毎日杯では先週の
青葉賞を制した
アドマイヤコマンドに2馬身半差の快勝。勝ち時計の
1分46秒0は、前開催の
大阪城S(古馬オープン、1着オースミグラスワン)を上回った。
オースミグラスワンは前日の
新潟大賞典を楽勝している。
毎日杯で見せた実力は本物だった。
毎日杯、
NHKマイルCを連勝して、
日本ダービーを制した馬には2004年・
キングカメハメハがいる。
NHKマイルCをレースレコードで圧勝した
キングカメハメハは別格だが、この馬もかなり強い。
過去10年の
NHKマイルCで1馬身3/4以上の着差で勝った馬は
エルコンドルパサー、
テレグノシス、
キングカメハメハ、
ラインクラフトの4頭だけ。いずれもその後、G1戦線で活躍している名馬ばかりだ。
混戦と言われる今年の
ダービーなら主役を張れる器だ。
2着
ブラックシェルは
皐月賞では折り合いに気を遣っていたが、やはり、
マイルの方がレースはしやすいのだろう。
ファリダットと並んで追走すると、直線では内を突いて進出。
ゴスホークケンを捕らえたまでは良かったが、勝ち馬の目標になってしまった。
ホープフルS(2着)で重馬場をこなしているように荒れた馬場も苦にしなかった。
松田国厩舎なら次走は
ダービーになりそうだが、今回はマイル仕様に気合を乗せた作りだった。中2週で落ち着きを取り戻せるか、不安は残る。折り合い面にも課題はあるだけに
過信は禁物かもしれない。
2番人気・
ファリダット(5着)は
1400mを使った後で行きたがる面を見せた。しかも
外枠で前に壁ができず、終始、外々を回る展開。1、2着馬と同じ位置にいたが、枠順の差が明暗を分けた。
3番人気・
ゴスホークケン(12着)は、気合を付けてハナを切ると、
前半5F59秒2の平均ペース。同じ
稍重だった昨年が
58秒5。
朝日杯FSを逃げ切った時が
58秒3だ。
「気が小さい面がある」(斎藤誠調教師)だけに、
朝日杯のように離して逃げる形がベストだろう。
しかし、前半5Fのラップを見ると、
[12秒2→11秒0→11秒4→12秒1→12秒5]と4F目から急激にペースを落としている。これでは他馬も追走が楽になるし、追いつかれるのも早い。
鞍上が馬との信頼関係を築けなかった結果が、春の不振に繋がっているように思う。