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上がり34秒4に、ウオッカの、陣営の、武豊騎手の意地が込められていた
文/編集部

富士山で見た朝日がいちばん感動的だった、とある人は言っていた。別の人は、初めて子どもが生まれた日に見た朝日がいちばん心に残っている、と話していた。彼氏と行ったパリで見た夕日がすごいきれいだった、と話す子もいた。

365日、ほぼ毎日姿を見せる太陽に対して、思うことは人それぞれ。あなたは太陽を見て、感動したことがありますか?

太陽への思い入れがない人でも、あなたにとっての名レースは?と聞かれたら、即座にいくつかのレースが頭に浮かぶことでしょう。

テンポイントトウショウボーイ有馬記念を挙げる人がいれば、グラスワンダースペシャルウィーク有馬記念と言う人もいるだろう。ナリタブライアンマヤノトップガン阪神大賞典トウカイテイオーオグリキャップディープインパクト有馬記念、他にもたくさんあるに違いない。

天皇賞・秋に限っても、2000m戦になった最初のレースをミスターシービーが制した84年スーパークリークオグリキャップが同タイムで走破した89年、4強対決を3歳馬バブルガムフェローが制した96年、翌年にエアグルーヴが優勝したレース、スペシャルウィーク99年、天覧競馬の中、ヘヴンリーロマンスが差し切った05年など、十人十色で心に残るそれぞれの「いちばん」があるはずだ。

感動の深さは、各人のその時の心の情景によって異なるのだろう。それでも、たとえ自分が思う「いちばん」の後年に行われたレースでも、言われてみればうなずける。それだけの深みが競馬にはあると思う。

戦前からウオッカダイワスカーレットディープスカイの三強対決と目されていた今年の天皇賞・秋は、その3頭が同タイムでゴールを駆け抜けた。しかも、1分57秒2のレコード。

こんなシナリオを書こうものなら、陳腐すぎて笑われることだろう。しかし、シナリオも何もない競馬でそれが起こるのは、各馬、各人が負けたくない負けられないとの思いでゴールを目指すからに違いない。

ゲートに入る何週間も前から戦いは始まり、たった2分弱のレースに凝縮され、誰も、どの馬も、最後まであきらめずに走っていた。だからこそ、上位馬には0秒1もの差も付かず、ゴールを駆け抜ける結果になったのだと思う。

細かく分析すれば、ダイワスカーレット驚異的なレースを見せたと言える。前半の1000mを58秒7で通過し、上がりを58秒5でまとめている。

2000mになった秋の天皇賞を、良馬場で逃げ切った馬は過去に例がなく、しかも、ダイワスカーレット7ヶ月ぶりだった。すっかり忘れてしまいそうだが、彼女は牝馬でもある。

そういう規格で話す馬ではないことは分かっているものの、改めて驚異的な能力を見せたと言えるだろう。

ディープスカイは、ダービー神戸新聞杯を制した時と同じ1枠となった。しかし、府中の2000mでの1枠は、差し馬にとっては鬼門500kgを超える大型で、跳びの大きい同馬にとって、決して楽ではない枠順と思われた。

スタート直後に少し前へ行こうとしたようだが、2コーナーでごちゃつき、やや折り合いを欠いていた。普通の3歳馬なら、古馬相手の初G1で気持ちが切れても不思議ないような展開だった。

それが、直線ではウオッカよりも早めに動く形を取り、最後までまったく譲らぬレースを見せた。

前を行くダイワスカーレットと後ろから迫るウオッカの、両方の脚色を天秤に掛けながら追うのだから、こちらも展開的に恵まれたと言いづらい。

最後はわずかに後れたものの、3歳という年齢を加味しなくとも、堂々としたレースだったと言えるだろう。

ウオッカは、今回の上がり3Fが34秒4だった。実はこれは、国内の良馬場の14レースにおいて、デビュー戦(34秒5)に次いで2番目に遅いタイムである。

しかし、今回は切れが鈍ったのではない。前述したようにダイワスカーレットが切れ味を封殺するような流れを作り、ウオッカ7枠14番という枠順でもあり、比較的外を回らされていた。安田記念の時のような瞬間的な爆発力を出しづらい流れになっていた。

それでも直線で外から迫り、ゴール板前でダイワスカーレットディープスカイよりも前に出ていたのは、負けられない気持ちが勝っていたからだろう。今回の上がり34秒4は、数字上はそれほど速くないが、逆にそれだけに、彼女の、陣営の、武豊騎手の意地が込められていたような気がする。

今回のレースは、ミスターシービー84年を、エアグルーヴ97年を、スペシャルウィーク99年を超えただろうか。テンポイントvsトウショウボーイグラスワンダーvsスペシャルウィークオグリキャップトウカイテイオーディープインパクト有馬記念と比べてどうだろうか。

答えが見つからないほどのレースを見せてくれてありがとう、と言うほかにない。

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