言ってみれば「抽選馬仲間(?)」による2週連続G1制覇
文/浅田知広

今週になって、
阪神JFを制した
ブエナビスタのことを
「抽選馬」と呼んでいるのを何度か耳にした
。「抽選をクリアして出走にこぎつけた馬=抽選馬」。長ったらしい言葉はなんでも省略されるいまのご時世、
「抽選馬」と略されるのも当たり前のことではある。
とはいえ。少しでも競馬を長くやっている方ならご存じの通り、
「抽選馬」といえば
イソノルーブル(91年オークス1着)だったり、
コーセイ(87年桜花賞2着)だったり。もう少し最近なら、
アインブライド(97年阪神3歳牝馬S1着)や
タムロチェリー(01年阪神JF1着)と言えば、さすがに知っている方も多いだろうか。
ともかく、以前は
JRA育成馬を
抽選で販売するシステムが存在し、そんな形で登録された馬こそが元々の意味での
「抽選馬」。言葉は移ろいゆくもの、
「抽選を通過した馬」を
「抽選馬」と呼ぶことにケチをつけるつもりは毛頭ないが、アタマの切り替えに少々時間がかかるのは致し方なく、違和感を覚えっぱなしの一週間だった。
とかなんとか考えていたら、今度は
「JRAブリーズアップセール」出身・
セイウンワンダーによる
朝日杯FS制覇である。JRAの育成による
「抽選馬」制度が、単なる
抽選から
ドラフトの形を経て、現在の
セリ市形式「ブリーズアップセール」になったのは05年。言ってみれば
「抽選馬仲間(?)」による2週連続G1制覇だったのだ。
この
セイウンワンダー、
07年のセレクションセール(1歳)での購買価格は
840万円。それが9ヶ月後の
ブリーズアップセールでは、
1ハロン11秒3という好タイムを叩き出したこともあって、なんと
2730万円に。
最近の株価や為替の乱高下など目ではない一気の
3倍増だ。さらに、それから8ヶ月の間に
新潟2歳Sと
朝日杯FSを制して、あっという間に獲得賞金は
1億円を突破。別にJRAも営利目的で育成を手がけているわけではなかろうが、
売った側も買った側も、嬉しいJpn1制覇だったに違いない。
そんな嬉しい勝利の要因として、まずいちばんに
スタートが挙げられる。
新馬戦は
出遅れ、
2戦目こそ好スタートも、前走の
新潟2歳Sではまた
出遅れ。それでも差し切れたから良かったようなものの、さすがに
2歳王者決定戦ともなれば、
大外一気など滅多には決まらない。
しかも引き当てた枠が
2枠3番。また出遅れようものなら、前が一気に馬だらけになること必至、いくら優れた末脚を持っていようとも、厳しい競馬になるところだった。
しかし、そんな心配はどこへやら、ゲートが開けば見事に
「好スタートグループ」の一角を占めていた。あとは鞍上のペース判断次第。前が速くなったと見れば、少しばかり位置取りを下げて中団へ。同じ差しでも、出遅れから脚を使って中団へ取りつかねばならないのと、下げて中団とでは大違いである。
そして迎えた4コーナー。こちらは
内枠の「利」をフルに活かし、差しとしては距離損を最小限に抑える内から3頭目でスムーズに通過。ここまでくれば前さえ開いてくれれば万事OK、持ち前の末脚を伸ばしてひたすらゴールへ向かって一直線だ。
実際は
「一直線」にはならず、バテた馬を交わして内に切れ込む形にはなったものの、
力を出し切った競馬だったのは間違いないだろう。
キャリアの浅い2歳馬、そして
強敵相手の大レース。
いかにして持てる力を100%発揮するかがカギとなる一戦で、スタートからゴールまでしっかり走り切った馬が勝利を手にしたという結果だった。
セイウンワンダーの血統表を眺めると、母母父
リアルシャダイに母父
サンデーサイレンス。そして父は、今回は見事に父子制覇を達成した
「グランプリ3連覇」の
グラスワンダー。さらに近親
ゴーウィズウィンドとくれば、
距離延長に不安はまったくない。
翌年に向けては
ラジオNIKKEI杯2歳Sばかりが注目される昨今だが、久々に
朝日杯の優勝馬から
クラシックホースが誕生する可能性もありそうだ。