騎手の技もさることながら、ウオッカの素晴らしさに素直に感動
文/安福良直
これぞウオッカの競馬だ!今日のジャパンCをひと言で表せば、そういうことになるだろうか。素晴らしいレース運び、そして勝ったか負けたかのハラハラドキドキ感。スタートからゴールまでのすべての瞬間に、3年間の
ウオッカの競走生活が凝縮されていた、という感じのレースだったと思う。
ところで、以前から思っていたことだが、ジャパンCは馬の力もさることながら、騎手の腕も大いに試されるレースなのではないだろうか。枠順や展開による有利不利がほとんどない東京芝2400mという舞台、そしてジャパンCは斜行による不利がほとんどない。
日本が世界に誇るべき(大げさではない)、クリーンなレースだ。だから、ジャパンCでは馬の全能力が引き出されるし、同時に騎手がいかに能力を引き出すか、ということも問われるはずだ。
その観点から考えると、今回、
ウオッカの鞍上が
武豊騎手から
ルメール騎手に替わったのは、大きな賭けだったと思う。乗り替わりは馬の新しい能力を引き出すこともあれば、まったく能力を出せないまま終わることもある。
ウオッカの場合は、道中でやや掛かり気味になることが多いので、スローペースの競馬に慣れているヨーロッパの騎手は合いそうだなと思ってはいたが、それにしても、ジャパンC直前でのスイッチはいかがなものか、という気もしたのだ。
しかし、結果的には成功。好スタートから先行集団につけ、1~2コーナーでは前に馬を置けずにやや掛かり気味。実際、ここで舌を出していたくらいだったが、この場面でジッと抑えることができたのはルメール騎手の技量。ただ、
リーチザクラウンが淀みのないハイペースで引っ張ってくれたことにも助けられたのかもしれない。
そして、4コーナーまでは順位が下がってもジッと我慢。直線でゴーサインを出すと、
ウオッカならではの、馬群からスパッと抜け出す脚を披露。ゴール前で
ルメール騎手はムチを左に持ち替え、追い込んできた
オウケンブルースリに馬体を併せてに行って最後の闘志を引き出した。それがハナ差の勝利につながったのだろう。
前走と前々走の
ウオッカは、ゴール前での粘りがイマイチだったが、その部分でも頑張らせた
ルメール騎手。
今回はウオッカの能力をすべて引き出したと言っていい。
それにしても、騎手の技もさることながら、やはり今日は
ウオッカの素晴らしさに素直に感動。レース前は、
「本質はマイラー」だの
「もう衰えた」だのいろいろ言われていたが、
レース史上3番目に速い2分22秒4というタイムとこのレース内容は、本物の底力がないとできないことだ。
そんな
ウオッカを最後まで追い詰めたのが、
オウケンブルースリ。こちらは
内田博騎手の、
「どういう流れになろうとも、オウケンの末脚を最大限に引き出すんだ」という腹の据わった騎乗ぶりが目立った。
じっくり溜めて、気がつけば4コーナーでは最後方。しかし、そこからの末脚は迫力満点。もう少しで父ジャングルポケットとの親子制覇、というところまでいったのだが惜しかった。
思えば、ジャングルポケットが勝った時も、大外からテイエムオペラオーに襲いかかっての勝利。あの時と比べてオウケンの末脚が劣っていたとは思えないが、今回は相手が悪かったか。
一方、久々の海外からの大物として人気になっていた
コンデュイットだが、勝てそうなシーンはないまま④着に敗退。スタートで出遅れ、それを挽回するべく3コーナーで仕掛けていったが、裏目に出てしまった。
先ほど、
ジャパンCでは騎手の腕も重要、ということを書いたが、近年で外国馬が勝った時の鞍上は、
デットーリ騎手や
キネーン騎手など、日本でおなじみの騎手ばかり。
日本の競馬で勝つためには、日本の競馬をよく知る騎手が必要なのではないか。改めてそう思った次第である。