今週は、関東と関西のレースの違いや駆け引きについて話してもらいました
2009.12.24
現在、対談相手として出ていただいている(小野)次郎さんは、先週、話したように(落馬による)ケガを押しながら対談していただき、攻め馬こそ頭数をセーブしていましたが、競馬では騎乗されていました。
あぁ、良かったとひと安心するとともに、改めて騎手の方々のケガに対する強靭さというか、タフさを思い知らされます。
今週も、「歩くのは多少痛みがあるけど、馬に乗るのはまったく問題ないから』と言いながら追い切りに乗っていましたけど、乗っているときには普段通り。でも、次郎さん自身の歩様はあまり良くないんですよね。
ということで、そんな不死身の次郎さんとの対談を今週もお送りします。どうぞ。
[西塚信人調教助手(以下、西)]同じ小回りということで言えば、中京以外にも福島や小倉、あるいは函館と札幌という北海道のふたつの競馬場もありますけど、それらとは違う感じなんですか?
[小野次郎騎手(以下、小)]違うんだよね。極端な言い方をすれば、スタートから常に手綱を動かして競馬をしているような印象なんだよ。
[西]確かに見ていてもそういうイメージはあります。他の騎手の人たちからも『中京のダート1000は忙し過ぎる』とか言われるんですよね(笑)。それでも、行った馬がそのままというシーンも多いように思えますけど?
[小]そこはやはり、基本的に小回りということだからね。
[西]「関西圏の小回り」という部分もあったりするんですかね。でも、小倉とは違った印象も受けるんですよね。
[小]何となく、関西は流れるイメージがあるよね。平地だけでなく、障害でも淀みのないペースというか、流れる傾向にある印象が強い。そういう部分で西と東の違いというのもあるかもしれないね。
[西]阪神の500万円下なども、前が速いですからね。使いに行って、本当に驚きました。前が速く、しかもそこでバテずに、もうひと伸びしてくる馬が少なくないという気がするんですよ。
[小]言いたいことは分かるよ。関西の方がレースが流れるという部分はあると思う。
[西]次郎さんは、短距離と長距離と言われたら、どちらが好きなんですか?
[小]長距離だね。短距離は考える間もなくというか、アッという間に終わってしまう感覚が強い。でも、長いところは、いろいろできるから。
[西]よく道中で駆け引きがあるとか言われますよね。でも、昔から競馬を観ていても、それがどういうことなのか、正直、よく分からないんですよね。みんな、本当に分かっているのかなぁとも思っているんですけどね。
[小]コンマ何秒という中で判断していることも多いから、言葉で説明するのが難しかったりするんだよね。
[西]先日も、ブレーヴハートとのコンビで中山の3600mで行われたステイヤーズSに出走されていましたが、極端な言い方をすると、スタートして隊列が決まると、ほぼそのままで、2周目の向正面で一気に速くなるというようにしか見えないのです。道中、こちらが見えないところで駆け引きが行われていたりするものなんですか?
[小]どんなレースでもそうだと言えるけど、あのスピードで走っているわけで、駆け引きと言ってもすべてがアッと言う間の出来事なわけですよ。
[西]ひとつ、ひとつがそうだということですよね?
[小]そうなんだけど………ごめんなさい、なかなか言葉で具体的に表現できないなぁ。騎手だけが味わえる感覚ということで(苦笑)。
[西]なるほど(笑)。特に長距離レースは騎手の駆け引きがポイントとか言われますが、そこは見ているだけじゃなかなか分からないということなのでしょうね。
[小]そこは見えないと思うよね。仕掛けるのが早いとか遅いとか言われますけど、その時々の状況の中で、それこそ一瞬一瞬で判断しながら、それぞれの騎手たちが動いていることなんですよ。後から振り返ってみれば、遅い、早いということになるわけですが、その時に『ここで動かなければ勝てない』とか、『ここで動いたら負ける』といった感覚があって動いていることですからね。でも、それだから競馬が面白いんじゃないかな。すべてのレースが力通りに決まっていたら、賭け事にならないよね。
[西]確かにそうですよね(笑)。
[小]たとえどんなに強い馬でも、言葉をしゃべることはできないわけですよ。人気になって負けてしまった時、『見えない疲れが残っていたのかも』というようなコメントがあったりするけど、やっぱりレース前には判断するのは難しいんだよ。毎日の様子、飼い葉の食べ具合、そして追い切りの動きといった過程で変化を感じ取ることができないことって、決して珍しくない。
[西]それはそうですよね。そういう時って、変わらないと思っていることがほとんどですし、また自信があったりするんですよね(苦笑)。
[小]こういう言い方をしたら怒られてしまうかもしれないけど、極論から言えば、現場で毎日接している我々も馬のすべてを把握できていないということですよ。新馬戦などもそうだよね。
[西]はい、はい。
[小]人間で言えば、幼稚園の運動会とか言われますが、スタートも分からなければ、ゴール板も知らないわけですよ。
[西]そもそも何をするかも分かっていなかったりするわけですからね(笑)。
[小]そういうことですよ。ある意味、何が来てもおかしくない確率がいちばん高いとも言えるかもしれない。
[西]実際に、調教で乗っていても分からないということってありますか?
[小]あり過ぎというくらいあるでしょ(笑)。コメントを見ていても、『一度競馬を経験してから』みたいなことが言われている馬が勝つことだって珍しくないよね。でも、それは決して嘘をついているということじゃなくて、実際、走る前の時点ではそういう感覚を持っているんですよ。
[西]そうなんですよ。決して嘘をついているわけじゃないですよね。
[小]そう、そう。言葉をしゃべることができない馬たちを調教していく中で、調教師の管理下で、担当の厩務員さんが飼い葉を付け、世話をする。そして、調教では調教助手が乗り、競馬では騎手が乗るというように、いろいろな人たちの関わり合いの中で競馬は行われているもの。だから、人によって感じ方も違えば、なかなか上手くいかないこともあるわけですよね。だからこそ悪戦苦闘もするんだけれど、思いがけない良いことも起こる。そもそも生き物なのだから、調子が良いこともあれば悪いこともあるわけで、さらには言葉が話せないのだから、一筋縄じゃいかないというか、すべて人間が思い描いた通りにはなかなかいくものじゃないよ。
[西]そういう意味では、3戦目で今度こそと確信していたエフテーグンダイの敗戦を思い出します。逆に、新馬戦の時に『どう思います?』と聞かれて、『新馬だから分かんない』というのも本当なんですよね。
[小]そういうことだよ。正直、新馬戦であれだけの走りをしてくれるという手応えがあったかと言われれば、なかったよ。逆に、人気で撃沈してしまった3戦目(1番人気で11着)の前には、大きな不安は感じなかったからね。
[西]いやぁ、本当に難しいですよ。こういうことを言うと、プロのくせにと必ず言われますが、本当に難しいと痛感します。
[小]難しいよ。だから面白いと思うんだよね。
[西]騎手の人たちは、レース前にいろいろイメージをすると言いますが、その通りの展開となったり、あるいはその通りに乗れたりすることって多いんですか?
[小]まず、イメージ通りの展開や競馬になることはないと言えるだろうね。実際、勝ったからといって『上手くいったなぁ』とか『上手く乗れたなぁ』というレースが多いわけじゃないから。逆に、負けてしまっても、その馬として『上手くいった』とか、『十二分に力を出し切ることができた』と思っているケースもあるわけですよ。
[西]そういうものなんでしょうね。結果に出てこない部分というか、推し量れない部分があるということなんだと思います。
今週はここまでとさせていただきましょう。
次郎さんに続いて、先週は上の方(松岡騎手)が落馬、負傷してしまいました。でも、なんと昨日の名古屋グランプリで騎乗していましたからね。
いやぁ、本当に騎手の人たちは凄い。みなさん、もし骨折したら動けますか? 僕は動けませんよ。
しかも、上の方は、今週いよいよ迎えるノビロックフェスティバルにも、予定通り参加することになっております。ぜひ、お時間のある方は足を運んでいただき、一緒に盛り上がることができればと思っております。どうかよろしくお願いいたします。
あっ、実は今回、村田(一誠)さんがムラーモズという形で出演予定だったのですが、なんと新型インフルエンザにかかってしまったことで、キャンセルとなってしまいました。村田さんファンの方々、申し訳ございません。
でも、代わりと言ってはなんですが、スペシャルゲストを用意させていただきましたので、ぜひ楽しみにしていただければと思います。
今年の更新は、今回がラストになります。今年一年、ご愛読いただき、ありがとうございました。来年はよりパワーアップする形でお送りしたいと思っておりますので、さらなる愛読をよろしくお願いしたいと思います。(新年は1月7日の更新予定です)
ということで、最後はいつも通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。
それでは良いお年をお迎えください。