(小野)次郎さんに、重賞制覇の裏話を語っていただきました
2010.1.7
読者の皆様、明けましておめでとうございます。今年も、より良い対談をお届けできるように、全力で頑張ってまいりますので、今年もワンクリックをよろしくお願いいたします。
今年の目標としては、まずはより良い調教助手を目指して、頑張っていくことです。そして、もうひとつは、調教師という目標に向かって、そろそろ勉強を始めようかと思っています。
ですので、年末にノビロックフェスティバルで大盛況のうちに終わることができたノビーズの活動については、とりあえずは充電期間を設けるなど、ほどほどにしようと考えております。
ノビロックフェスティバルに来ていただいた方々には、この場を借りてお礼を申し上げさせていただきたいと思います。本当にありがとうございました。盛り上がっていただけたという声をたくさんいただき、嬉しく思うと同時に、ホッとひと安心したというのが正直な気持ちですね。
実は、昨年、西塚厩舎が解散になった時点で、2009年はノビーズの活動を積極的にやろうと心に決めていたんですよ。
新年の挨拶はこのくらいとして、(小野)次郎さんとの対談3回目をお送りしたいと思います。それではどうぞ。
[小野次郎騎手(以下、小)]イメージ通りの展開や競馬になることはないと言えるよね。実際、勝ったからと言って『上手くいったなぁ』とか『上手く乗れたなぁ』というレースが多いわけじゃないから。逆に、負けてしまっても、その馬として『上手くいった』とか、『十二分に力を出し切ることができた』と思っているケースもあるわけですよ。
[西塚信人調教助手(以下、西)]そういうものなんでしょうね。結果に出てこない部分というか、推し量れない部分があるということなのでしょうね。
[小]もっとハッキリ言えば、強い馬に乗っていたら、レースのなかで2、3回ヘグッたとしても勝てるからね。
[西]あっ、そうですか(苦笑)。
[小]勝つよ。力がある馬に乗っている時には、そういうことがあるんですよ。
[西]記憶に残っている中で、もうこれ以上ないくらいヘグッてしまったのに勝ったというレースは何かありますか?
[小]何かひとつというのではなく、いっぱいあるんだよね。
[西]えっ、そんなにですか!?
[小]みんなそうだと思うよ。名前が思い浮んでこないんだけど、中野隆良厩舎の所属で能力のある馬がいてね。東京の1400m戦で、長期休養明けだったんだよ。もともと引っ掛かるところがあったらしいんだけど、休み明けということも重なって、スタートからガンガン引っ掛かってしまったのに、そのまま逃げ切って勝っちゃったことがあった。
[西]東京の1400mを逃げ切っちゃったんですか。
[小]そう。強いよね。東京の1400を引っ掛かりながら逃げ切って勝つという馬はなかなかいない。
[西]凄いですね。
[小]しかも、掛かり気味とかいうレベルじゃなかったからね。もうガンガン突き進んで行ってしまっているという感じだったから。
[西]そうですか(笑)。
[小]でも、本当にそういうことってあるんですよ。そういう時って、本当に何もしていないうちに勝ってしまったような感覚になります。
[西]ちなみに、その馬って人気はあったんですか?
[小]いや、確か、なかったはず。1年とか、そういう長さの休養明けだったから。能力があっても、まず人気にはなりにくいよね。
[西]中野隆良厩舎と言えば、マニックサンデーでオークストライアル(00年4歳牝馬特別)を勝っていますけど、あの時は自信があったんですか?
[小]テン乗りだったし、ダートの未勝利を勝ち上がってきたばかりでの出走だったから、何のイメージもなかったというのが正直なところだった。
[西]あの時こそ人気がなかったですよね(9番人気)。
[小]そうだったね。ゲートを出たから、そのまま馬の気持ちに任せて3番手でレースを進めたら、勝つことができた。そういう意味では、自信があったわけでもないし、一発狙ってやろうとかいう強い気持ちがあったわけではなかったよね。
[西]重賞ということで言えば、クリスタルC(05年)をディープサマーで勝った時はどうだったんですか? あの時もテン乗りでしたよね?
[小]そう。でも、あの時は人気になっていたよね?
[西]2番人気だったみたいですね。
[小]あの時は、どういうレースをしようとかいうことではなく、とにかく『良い馬に乗せてもらった』という思いがあったよね。
[西]人気がなかった重賞ということで言うと、僕自身の中で強烈に印象に残っているのが、ユキノサンロイヤルで勝った05年の日経賞ですね。
[小]ユキノサンロイヤルと言えば、引っ掛かるというイメージですね。
[西]あっ、あの馬は、そんなに掛かったんですか。でも、長いところで勝っていますよね。単純ですけど、引っ掛かる馬は短いところというように考えてしまいますけれど…?
[小]ユキノサンロイヤルについて言えば、スタートしてそこからいわゆる二の脚のところでスピードに乗っていけなかったんだよ。オープンでも、1800mとか2000mあたりでは、スタートから離れて行ってしまって、とても勝負にならない。じゃあ、出して行こうと思って手綱をしごいていくんだけど、それでも加速していくことができないんだよ。馬込みの後ろに取り付いて行くくらいで、しかも、2コーナーとか余計なところでガッと噛んで、思い切り掛かっていく。
[西]落ち着いたあたりで、掛かるイメージですね。
[小]とにかく遅いんだよね。そんな感じだから、長いところだとフワッとした感じでスタートしても、上手く後ろから行くことができて、半分くらいまでは折り合いが付く。そして、そこから少しずつハミを少し噛むような感じがちょうど良い感じだった。
[西]なるほどねぇ。
[小]2000mでも短かった。まったく付いていけなかったからね。
[西]でも、それでいながら、掛かったんですよね。
[小]そう。一度噛んだらハミは抜けなかったよ。ゲートを出して行ったら、やはり噛んでいたし、そんな感じだから2000m以下は難しかったよね。追い切りとかはあまり乗っていないから分からないけど、たぶんそういう部分が長い距離への適性につながったんだと思う。
[西]珍しいタイプですよね。
[小]最初に乗った時に「前で競馬をしてほしい」と言われてさ。返し馬が終わったところで、ノリちゃん(横山典騎手)とかに『出して行くように言われた』という話をしたら、乗ったことがある人たちみんなに『大変なことになるよ』と言われてね。
[西]それでどうしたんですか?
[小]もちろん言われた通りに出して行きましたよ。
[西]そうしたら?(笑)
[小]ガッチリ掛かりましたよ(笑)。いやぁ、引っ掛かって、引っ掛かって、すごく大変なことになっちゃった。確か、中山2200mだった。
[西]AJCC(04年)ですね。勝ったのはダンツジャッジで、2着がウインジェネラーレで、ユキノサンロイヤルは3着でした。
[小]そうだ。内枠でポケットに入ってしまって、もう必死に抑え込んでいたんだよね。あれ、外枠だったら、放しちゃっていたよ。
[西]でもインでしたからね(笑)。
[小]そうですよ。放してしまったら、落ちちゃうというか、大事故になっちゃうから。もう声にならないくらい、苦しかったぁ。でも、そうしていたら、3着に来た。そこから乗せてもらえるようになったんだけど、増沢先生にも、さすがに『出して行くのは無理です』って言った。
[西]小野さんを持ってしても無理だったわけですね。
[小]いやぁ、出して行ったら無理だって(苦笑)。それで、それ以降は後ろから行く競馬をするようになっていったんだよ。ただ、掛かるというより、よくハミにぶら下がる馬っているよね。
[西]はい、いますね。
[小]しかも、ぶら下げてあげないと走れない馬っていて、ぶら下げてあげて、支えてあげる馬というのが、なかにはいるわけですよ。
[西]そのあたりは、我々でもよく分かっていない部分もあるくらいですから、読者の方々には分かりづらいかもしれませんね。
[小]あっ、そうか、ごめんなさい(苦笑)。引っ掛かっているのか、それともぶら下がっているのかというのは、見ているだけでは分からないか。でも、言葉で説明するのも難しいよ。
[西]そうですね。今回は読者の方には申し訳ないですが、同じように引っ掛かっているように見えても、そういう違いがあることを知っていただくところまでとさせていただきましょう。
[小]ぶら下がる馬というのは、上で手綱を引っ張ってあげることで、ハミを頼ることで走ることができるわけだよね。それが、手綱を放して、フワッとさせるとまったくと言っていいほど走れなくなってしまうんだよ。
[西]そうなんですよね。ハミを頼るというか、ハミを頼らなければ走れない馬がいるんですよね。読者の方にも、何となくは分かってもらえると思います。
[小]ユキノサンロイヤルで言えば、途中からずっと抑えているから、掛かっているように見えていたと思う。でも、あそこで行かせるより、そこは我慢した方が最後にしっかりと脚を使えるイメージが、その前からずっとあった。そうやって、俺が感じるままに増沢先生にも乗せてもらえて、結果的には重賞も勝たせていただけたことは素直に嬉しかったですよ。
[西]結果として形となったわけですから、それは嬉しいですよね。
今週はここまでとさせていただきます。
騎手の方々と話をして、あるいは競馬の時にパトロールを観たりして感じていたことなのですが、競馬に乗るということは観ているのとは全然違う感覚なのだと、改めて思わせられました。
同じ引っ掛かってしまうということであっても、実は何種類もあるわけで、外から観ていて、その違いを判断することは極めて難しい。
また、次郎さんも何とか説明しようとしてはくれたのですが、言葉にするのがとても難しいんですよね。
読者のみなさんには、何とかイメージ、あるいは想像をしていただければと思います。
なお、次回の対談は、獣医さんを予定しております。質問がある方はぜひメールをお送り下さい。お待ちしております。
ということで、最後は今年もいつも通り、『あなたのワンクリックがこのコーナーの存続を決めるのです。どうかよろしくお願いいたします』。