社台ファーム生産馬は敗戦を糧に強くなる?
文/編集部
昨年(09年)のリーディングブリーダーは、毎年のことながら
社台ファームと
ノーザンファームの争いとなり、2億6000万円ほどの差で
社台ファームが首位となった(本賞+付加賞の総賞金は76億319万円)。社台ファームの首位は3年ぶりのことだった。
ノーザンファームの生産馬は、桜花賞・オークス・皐月賞・ダービーと春の3歳クラシックを総なめにして、秋もカンパニーがG1を連勝、2歳G1を牡牝ともに制するなど、言ってみれば派手な活躍が目立ったのだが、その間も社台ファームの生産馬はコツコツと走り、賞金を積み上げていた。
昨年のJRA重賞の勝利数は、社台ファーム、ノーザンファームともに21勝で同数だったが、その内容はちょっと異なる。
ノーザンファーム生産馬の21勝は、G1・8勝、G2・8勝、G3・5勝なのに対して、社台ファーム生産馬はG1・2勝、G2・4勝、G3・15勝。また、ノーザンファーム生産馬は21勝のうち13勝を2&3歳馬が挙げていて、逆に、社台ファーム生産馬は13勝を5歳以上の馬たちが記録している。
もうひとつ面白いのは、前走の着順別の成績だろう。ノーザンファーム生産馬は21勝のうち12勝を前走①着馬が記録している。つまり、
連勝で重賞12勝をマークしているわけだ。
一方の社台ファーム生産馬は、連勝での重賞制覇が7度で、前走で⑥着以下に負けていながら巻き返して重賞を勝った例が6度もある。このデータを見ると、社台ファーム生産馬には
「負けても強くなる」というか、
経験を糧にする逞しさを感じないだろうか?
今年の
クイーンCには、社台グループの生産馬が7頭出走していた。社台ファーム生産馬は、
アプリコットフィズ、
テイラーバートン、
ブルーミングアレー、
プリンセスメモリーの4頭で、ノーザンファーム生産馬は
ギンザボナンザと
シャルルヴォアの2頭。そして、
カホマックスが社台コーポレーション白老ファームの生産馬だった。
面白いことに、社台ファーム生産の4頭はいずれも前走で負けていて、ノーザンファーム生産の2頭はどちらも前走を勝ち上がっての参戦だった。
1~6番人気を社台グループの生産馬が占め、勝ち馬はこの中から出そうだと思われたが、終わってみれば、
アプリコットフィズが2馬身差を付けて快勝し、②~③着は
プリンセスメモリーと
テイラーバートン。社台ファーム生産馬が馬券圏内を独占する結果になった。
アプリコットフィズと
テイラーバートンは、ともに前走でフェアリーSを走り、②着と③着に敗れていた。両馬とも外枠で厳しいレースを強いられたもので、負けて強しの内容ではあったが、3歳牝馬だけに精神的ダメージが気になった。ところが、そんなことはまったく関係ないかのような走りだった。
テイラーバートンはフェアリーSに続いて③着となり、賞金を加算できなかったことは悔やまれるだろうが、初の中山と東京でも大きく崩れることなく③着に来た。次に関東遠征してきた時には、今回の経験が活かされることだろう。
②着に入った
プリンセスメモリーは、馬体重が400kgにも満たない小柄な牝馬で、18頭立てだった新潟2歳Sでは⑪着に敗れていた。その他の3戦ではすべて③着以内をキープしていたものの、いずれも14頭立て以下のレースで、多頭数の競馬がどうかと思われた。
しかし、後方から内を突くと馬群の間からぐんぐんと追い上げ、②着まで差し込んだ。こちらはすでに課題をひとつクリアしたと言えるのかもしれない。
アプリコットフィズはデビュー戦で圧勝した舞台に戻り、まさに前走の鬱憤を晴らす快勝劇を見せた。
デビュー戦での勝ち時計は1分34秒7で、今回は1分34秒4。
アパパネが赤松賞(東京芝1600m)を制した時が1分34秒5(当時のレコード)だったので、単純な時計の比較でも2歳女王と遜色ない能力を感じさせる。
この後は
桜花賞に直行するようだが、果たして、
蛯名騎手は
アパパネと
アプリコットフィズのどちらに乗ることになるのだろうか?
社台ファーム生産馬は、これで今年の3歳重賞が早くも3勝目となった。
京成杯の
エイシンフラッシュ、
きさらぎ賞の
ネオヴァンドームに続くもので、牡牝ともに3歳クラシックの上位人気に複数の馬を送り込んできそうだ。
昨年の2歳王者は、牡馬が3戦全勝の
ローズキングダムで、牝馬が4戦3勝の
アパパネ。これらの
連勝を続けるノーザンファーム生産馬と、敗戦を経て強くなってきた社台ファーム生産馬の対決が、今年の3歳クラシックのひとつのハイライトになるのかもしれない。