有馬記念から2ヶ月を経て、ブエナビスタは確実に進化していた
文/編集部
海の向こうアメリカでは4月に、昨年のBCクラシック勝ち馬
ゼニヤッタと、85年ぶりに牝馬でプリークネスSを制した昨年度の米年度代表馬
レイチェルアレクサンドラの、初となる直接対決が実現しそうだ。
我々が期待してやまなかった
ウオッカと
ブエナビスタの直接対決は国内で実現する可能性はなさそうだが、そのかわりといってはなんだが、この京都記念では昨年の有馬記念①&②着馬
ドリームジャーニーと
ブエナビスタの再戦が実現した。
名牝同士の“世紀の一戦”というほどではないが、この厳寒期にバリバリの芝のG1馬同士がぶつかるのは稀なことなので、これはこれで興味深い一戦となった。
また、どちらが先着するかということもあるが、それぞれにとってこのレースでどういった競馬をするかは、今後を占う意味でも重要だし、克服しなければならない課題もあったと思う。
ブエナビスタは昨年5月末のオークス以来勝ち星から遠ざかっており、このレースの前までは古馬相手の勝ち星もなかった。昨秋からの“惜敗”の連鎖を断ち切りたい状況。
ドリームジャーニーにとっては小柄の馬体に59キロという斤量との戦いがある。さらに、どちらも京都の外回りコースでは他のコースほど目立った実績もなかった。お互いに有馬記念の時とは違う立場や状況があった。
その有馬記念では
ドリームジャーニーが勝利したが、レースの内容としては
ブエナビスタの
“負けて強し”の印象も強かった。
ドリームジャーニーがいつもどおりの後方待機からという自分のスタイルを貫いたのに対し、
ブエナビスタは新たなスタイルで臨んだ。
結果的には、横山典騎手が注文をつけるように、いつもよりも前で競馬をした
ブエナビスタは厳しい流れを最後まで踏ん張って②着、流れが向いた
ドリームジャーニーがこれを差し切った。レースの流れが勝敗を左右した結果でもあったと思うが、他方では
自分のスタイルを完成させつつある古馬と、新たなスタイルを模索する成長途上の3歳牝馬との差とも言えた。
それから2ヶ月後のこのレース。
ドリームジャーニーは良くも悪くも変っていなかった。後方待機から3コーナーあたりで徐々に加速していくという、いつもどおりの競馬。結果的には直線での上がり勝負になり、マクリ気味に加速し、長くいい脚を使うのが持ち味のこの馬には、絶好の展開というわけにはいかなかった。
また、
ドリームジャーニーはやはり59キロも響いたのだろう、時計的には
ジャガーメイルと並ぶメンバー中最速の上がり3F33秒3を計時しながら、最後の勢いは上位2頭を上回るものではなかった。
ただ、このレースぶりは時間をかけて完成させつつある自分のスタイルを貫いた結果であり、これにより宝塚記念や有馬記念といったビッグレースを制することができた。今後、
ドリームジャーニーは昨年が①着、③着、①着だった大阪杯、天皇賞・春、宝塚記念というローテーションを歩む模様だが、この先に向けて、まったく悲観するものではないだろう。
一方の
ブエナビスタ。1.5倍という単勝人気が示す通り、大方の予想通りの勝利だったと思われるが、内容的には予想を上回るこの馬の
“進化”が見て取れるものだった。
まずは序盤の位置取り。有馬記念では鞍上が注文をつけた感じの先行策だったが、このレースでは出たなりのように見える3番手。そのまま前で飛ばす2頭を見ながら、掛かるような素振りを見せることなく、安定したレースぶり。
有馬記念で模索した新たなスタイルを自分のものにしていた印象だった。
そして、最後の直線。猛追する
ジャガーメイルの末脚に横山典騎手も
「ヒヤッとした」とコメントしていたが、これを軽くいなすような形で再び突き放した。これまでは類稀なる瞬発力で一気にトップスピードに乗り、そのままの勢いでゴール板を駆け抜けるようなレースぶりが多かったが、今回の
ジャガーメイルに並ばれてからの末脚は、
2段加速と言ってもいい新たな一面だった。
絶望的な位置から差し切ったオークス、メンバー中唯一の上がり3F32秒台の末脚を見せたエリザベス女王杯、そして前述の有馬記念も含め、
“強い!”と思うことは何度もあったが、このレースではまた違ったレースぶりで強さを見せてくれた。またここにきて、
“貫禄”さえも感じさせた。有馬記念から2ヶ月を経て、
ブエナビスタは確実に進化していた。
もちろん、今回はこの馬向きの瞬発力勝負の競馬になったこともあるし、今後、有馬記念以上の激流になった時にどうかということもある。ただ、
ブエナビスタはまだまだ進化してくれそうな余地も感じさせる。さらに厳しい戦いになった時には、また新たな一面を見せてくれるかもしれない。