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「餅屋」が期待通り、期待以上の結果を出してくれた
文/浅田知広

「餅は餅屋」。フェブラリーSが終わって思わずその由来を調べてしまったが、どうやら江戸時代にまでさかのぼるものらしい。もちろん意味は「なにごとも専門家に任せるのがいちばん」である。

昨年のJRAダートG1優勝馬・エスポワールシチーサクセスブロッケンに続く候補として、初ダート組が注目を集めた今年のフェブラリーS。芝ではNHKマイルC②着のあるレッドスパーダ、そしてダービー②着馬で、距離短縮も魅力のリーチザクラウンが単勝10倍を切る人気に推されていたが、結果はそれぞれ⑫着、⑩着に大敗してしまった。

この組で最先着を果たしたのは、同世代同士のG1・②着馬ではなく、古馬G1・2勝のローレルゲレイロ。一応は実績通りの結果、とはいえ、それでも前とは大きく離れた⑦着まで。トゥザヴィクトリー(01年が初ダートで③着、次走にドバイWCで②着)級など、そうそう簡単には出現してくれないようだ。

対する「餅屋」の中でいちばん売り上げが多かったのは、昨年のJCダート優勝馬・エスポワールシチー。さすがに売れるだけあっておいしかった……、のかどうか。馬券としてはなんとも微妙な単勝170円だが、買った人が安心して見ていられるレースだったのは間違いない。

過去の傾向からは不利とされた内枠を好ダッシュで難なく克服。逃げたローレルゲレイロからやや離れた2番手にすんなり収まり、「楽な競馬だなあ」と思った人は全国に山ほどいたことだろう。

もっとも、逃げたローレルゲレイロとてスプリントG1馬。前半600m通過34秒8は、昨年より0秒3速いもの。昨年、前半600mを35秒1で通過したのはハナを切ったエスポワールシチーだったが、今年もおそらく同じようなラップでの2番手追走だった。昨年は稍重、今年は良馬場。馬場差を考えれば「昨年のエスポワールシチー」なら坂上どころか坂の途中で失速していたかもしれず、見た目ほど楽ではなかったのだ。

しかし、そんな流れを「楽な競馬」に見せてしまうのが、いまのエスポワールシチーの強さなのか。2年連続出走馬は3頭いたが、連覇を狙ったサクセスブロッケンは昨年より1秒3遅い時計で①着から③着に、トーセンブライトは1秒1秒遅く⑨着から⑧着に。

単純計算で1秒ほど遅い中で、エスポワールシチーは昨年とほぼ同タイム、わずか0秒1遅い1分34秒9。比較対象の昨年とて見せ場十分だったのだから、この1年で5~6馬身分も強くなったとあれば、見る者の目を騙すほどの圧勝劇も当然の結果だ。

今年は昨年の覇者・サクセスブロッケンこそ出走していたものの、昨年②着&③着だったカジノドライヴカネヒキリがおらず、古豪ヴァーミリアンも不在。単に勝つだけではなく、完勝するくらいでなければ「餅屋が少ないG1だから」と言われても仕方のないメンバー構成だった。

もちろん人気に応えて勝つのも決して楽な話ではないが、期待通り、期待以上の結果を出してくれたと言えるだろう。果たしてエスポワールシチーはどこまで強くなったのか、いよいよ世界を舞台にした走りが待ち遠しくなってきた。

一方、惜しい競馬になってしまったのは②着のテスタマッタだった。3コーナー過ぎから直線まで前が詰まり、こちらは内枠がアダになった格好。もう少し早く前が開いて追走できれば「圧勝劇」ではなく、「一騎打ち」のフェブラリーSになっていた可能性もあっただろう。

テスタマッタは強いと言われる4歳世代の1頭。来年、時計を実質「1秒短縮」するのはこの馬になるのか、こちらも今後の成長が楽しみだ。