「1勝」のきっかけを掴むと、こうも強くなるものだろうか
文/編集部
「きっかけさえあれば」とはよく聞くフレーズだが、きっかけを掴んだ人はこうも強くなるのか、と思わせる快勝劇だった。
その
「きっかけ」を掴んだのは、このレースで5番人気の
コスモセンサーに騎乗した
石橋脩騎手。
「きっかけ」は、騎手デビュー8年目にして待望の重賞初勝利となった今年の
フェアリーS(
コスモネモシンに騎乗)だった。
石橋脩騎手は、06年に初めて重賞で馬券圏内(
アイビスサマーダッシュ、
レイズアンドコールで③着)に入って以降、②着3回、③着5回がありながら、なかなか重賞での勝ち鞍を挙げられずにいた。それが、
113度目の重賞挑戦となった今年の
フェアリーSを11番人気の
コスモネモシンで勝利すると、1ヶ月半後の重賞で2勝目。どうしてこれまで未勝利だったのだろうと不思議になるほど、軽やかに勝利を重ねた。
ほかのスポーツでも
「ようやく今季初ヒットが出た」、
「ようやく今場所初白星」というフレーズをよく聞くが、実際、なかなか結果が出ない時のプレッシャーは相当なものだろう。アメリカの女子ゴルフでは、
宮里藍プロが今年の開幕2連勝を飾った。昨シーズンにアメリカで初勝利を挙げ、
「0勝と1勝とでは気持ちが全然違う」と言われていたが、今年は開幕してすぐさま2連勝をするのだから、やはり
1勝という
「きっかけ」は大きいのだろう。
アーリントンCのレース後、
石橋脩騎手は
「ハナにはこだわっていなかった」と語った。それでも、好スタートを決めた
コスモセンサーはスピードの違いで先頭に立ち、マイペースで行く形になった。
競りかけてくる馬もおらず、800m通過が48秒4のスローペース。出遅れた3番人気
フラガラッハが3コーナーで一気に先頭に並びかけてきたため、それまで12秒台を刻んでいたラップが、残り800mから11秒2、11秒1、11秒4と、一気にペースが上がった。
それでも
コスモセンサーがリズムを崩すことはなく、直線に入ってスッと突き放すと、その後も脚色は衰えず、
ザタイキが2番手まで上がった時には、すでに
コスモセンサーが先頭でゴールしていた。ちなみに最後の1ハロンは12秒7。完全な我慢比べとなったことがこのラップからも分かる。
コスモセンサーは、直線に入ると何度かふらつくように走っていた。3歳という若駒で、3ヶ月ぶりの休み明け、さらには重い阪神の芝の外回りが影響したのだろうと思われるが、
石橋脩騎手はその都度微調整しながら左ムチで叱咤していた。レース後のガッツポーズが好騎乗を物語っていた。
ところで、
コスモセンサー自身に話を移すと、昨秋に京都1400mで行なわれたかえで賞におけるレコード勝ち(1分20秒7)が光る。
調べてみると、このコースを1分20秒台で勝った2歳馬はこれまでに
コスモセンサーを含めて4頭しかおらず、他の3頭はスプリンターズS勝ち馬アストンマーチャン、スプリント重賞3勝馬カノヤザクラ、昨年のりんどう賞を勝ち、阪神JFで4着になったラナンキュラスで、レコード勝ちはアストンマーチャンとカノヤザクラのみ。その点で考えると、
コスモセンサーが重賞を勝つのは必然だった、と言えるのかもしれない。
コスモセンサーの父キングカメハメハにとっても、産駒が3歳以上の重賞を制するのはこれが初めてとなる。牡馬ローズキングダム、牝馬アパパネと、クラシックの有力産駒がこの後に続々と今年の緒戦を迎えることになるが、今回の勝利は彼らにとっても追い風になるだろう。
最後に、
ザタイキは圧倒的な1番人気ながら②着に敗れる結果になったが、能力の高さは示したと言えるだろう。スローペースで序盤は行きたがっていたし、4コーナー5番手以下から差し込んで掲示板に載ったのはこの馬だけ。アーリントンCは先行馬が残りやすいレースで、あのディープスカイでも追い込み届かず③着に敗れているのだから、それほど悲観することではないだろう。
かつてはタイキシャトル、タイキブリザードなどを所有していたオーナーの大樹ファームは、タイキシャトルで制した98年のマイルCS以降G1勝利から遠ざかっている。そんな中でこの馬に名づけられた
「The Taiki」には
「これこそ大樹」という意味が込められている。期待馬がG1の頂に手が届くか、ここで賞金を加算して挑む次のレースが試金石となってきそうだ。