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キンシャサノキセキには、まだまだ伸びシロを期待していい
文/鈴木正(スポーツニッポン)

香港のスプリント王セイクリッドキングダムの回避や、ローレルゲレイロがドバイに向かったことで、今年の高松宮記念はメンバー小粒という記事を読んだが、なんのなんの。素晴らしい戦いを堪能できた。スタートからゴールまで、目の離せない1分8秒6だった。

キンシャサノキセキは素晴らしい根性を見せつけた。ゴール前、内からアルティマトゥーレ、外からビービーガルダンに迫られた時は、一瞬、スピードが鈍ったように見えた。この時、闘志に火がついたのだろう。もうひと伸びして前に出て、ビービーの猛追をハナ差防ぎきった。

ビービーガルダンも限りなく金に近い銀メダル。阪急杯で見せ場もなく敗れた馬を、よくぞここまで立て直したと感服する。パドックでの馬体の輝きぶりは凄かった。これは一変したと思わせた。先行馬にはきつい外枠もこなしたが、あとワンパンチだった。

称賛したいのはアルティマトゥーレ。ゲートで躓き、明らかに出遅れた。1200m戦では致命的なビハインド。それでも、横山典騎手はインから追い上げて懸命にカバーしていった。直線ではキンシャサノキセキの背後に迫った。ただ、奮闘はそこまで。

ゴール前で急に力を失って⑤着。とはいえ、存在感は存分に示した。ここが引退戦なのが本当に惜しい。潜在能力は、やはりG1級だったのだと、あらためて感じさせた。

時間は前後するが、これら上位馬のパドックが、ため息が出るほど素晴らしかった。キンシャサノキセキは丸みを帯びた、これぞ仕上げられたサラブレッドという趣き。トモは力強く張り出し、皮膚もピカピカに輝いていた。冗談抜きに、石膏で型を取って銅像にしてほしいと思えたほどだ。幸いにしてハードディスクレコーダーに録画しておいた。これぞ理想のパドック像として、時折、見返すことになるだろう。

ビービーガルダンのパドックもそれに劣らぬものだった。前述したので重複は避けるが、いつまでも見ていたいような、うっとりするような光沢を放っていた。

アルティマトゥーレも、また同じだ。こちらは馬体も良かったが、気合の乗り具合が絶妙だった。ゆったりと歩きながらも適度な気合を漂わせ、精神的に余裕があった。思い出したのはバンクーバー五輪、女子フィギュアで金メダルに輝いたキム・ヨナ。

最高の練習を繰り返し、これ以上ない自信をつかんで、絶対にいい演技ができると確信したかのような表情をしていた。あの時のキム・ヨナを思わせる雰囲気がアルティマトゥーレにはあった。

あらためてキンシャサノキセキ。7歳馬だが、南半球産の9月生まれ。実質的には6歳馬で、いまが競走生活の最高潮と言い切っていいだろう。重賞4連勝でのG1制覇。どれも中身が濃い勝ちっぷりだった。

スワンSでは予想以上に踏ん張るアーリーロブストを懸命に競り落とした。阪神Cでは出遅れながらも道中、外を追い上げてなで切り。これは特筆すべき強さだった。オーシャンSでは直線インで前が開くのをひたすら待った。根性を示し、能力を示し、我慢を示した。この3勝が高松宮記念で見せた強さに繋がったことは疑いようがない。

キンシャサノキセキと長く付き合ってきた小林厩務員は「この馬、まだ子どもなんだよ」と言う。以前、重馬場で走る気を失い、強風が吹いたら嫌気を出したりと、精神的に幼かった頃のイメージがあるから、いつまでもそう言っているのかと思っていた。

ところが先日、数日続いた暖かな日の後に、寒さがぶり返した、いわゆる寒の戻りがあった。その朝、キンシャサノキセキ「寒いよ~、参ったよ~」と言わんばかりに甘えたという。どうやら、本当に子どもっぽい面をまだ残しているのかもしれない。

ならば、キンシャサノキセキには、まだまだ伸びシロを期待していい。レースにおける肉体面、精神面には問題なし。これで普段の心構えも競技者然としてきたら……。それこそキム・ヨナのような心技体の揃ったアスリートになれば、海外でもビッグタイトルが期待できるのではないか。来年のいま頃はメイダン競馬場を走っている可能性だってある。

実はまだ精神的な幼さが残っていて、「ドバイは暑いよ~」と小林厩務員に甘えたりするのかな? おかしな妄想に、思わず頬が緩んでしまった。