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ペース判断と、人馬一体のコミュニケーションの勝利だった
文/編集部

馬場が湿っても乾いても、先行馬が止まりづらいアンタレスSだが、今年は止まってしまった。さすがにペースが速かったか。

例年以上に先行脚質の馬が多かった今年だが、ラッシュストリートが逃げ、2番手にドリームサンデーが収まると、隊列はすんなり決まったように見えた。

ところが、ラップを振り返ってみると、前半の1000m通過が60秒0。3歳牝馬のレースと比べるのは的外れかもしれないが、フローラSのそれは60秒6で、ダートのアンタレスSの方が0秒6も速かった。

過去14回のアンタレスSの歴史上、1000m通過が60秒0より速かったことは3度ある。98年(59秒2)、02年(59秒6)、09年(59秒8)で、第1回の96年も60秒0だった。ただ、この4回は、いずれも稍重~不良馬場だった。

良馬場での60秒0はアンタレスSでは最速で、JRAのダート1800m重賞を振り返っても、過去に一度しか記録されていない。

今年は、前日の土曜日が道悪で、当日の日曜日も稍重スタートだった。午前中には良馬場に変更され、その後も晴れて馬場が乾いていったと想像されるが、その間、良馬場でのダート戦は4R(未勝利、ダート1800m)と7R(500万、ダート1800m)だけ。ジョッキーたちには脚抜き良い馬場の感触が残っていたのかもしれず、天候の変化が感覚を微妙に狂わせた面もあったのだろう。

優勝したダイシンオレンジは、京都ダート1800mが得意なタイプで、これまで7戦してすべて③着以内に入っていた。

しかし、その7戦も含めて過去の③着以内はいずれも4コーナーで4番手以内に付けていたもの。今回は中団での追走になったので、この位置取りで差してこられるのかと思われた。

鞍上の川田騎手は、レース後のインタビューで「この馬のペースで走らせたら、あの位置取りになった」と話していた。

ダイシンオレンジに乗り続け、すべてを知り尽くしていたからこそ、信頼してあの位置取りになっていたのだろう。ペース判断と、人馬一体のコミュニケーションの勝利だったと言えるのかもしれない。

ちなみに、川田騎手は、この日のアンタレスS以前に行われたダート戦(1R、4R、7R)にすべて出場していた。

そのような騎手は、アンタレスSの15人の中で6人。偶然かもしれないが、その6人のうちの3人が①~③着を占める結果となった。ダートのレースにより多く乗っていた騎手が、この日の馬場の変化を感じ取っていた、と見るのは、少々行きすぎだろうか?

ダイシンオレンジはアグネスデジタル産駒で、同産駒としては6頭目のJRA重賞ウイナーとなった。芝でもダートでも重賞勝ち馬を輩出している辺りは、いかにもこの父親らしいところだが、今回は母父のラシアンルーブルの働きも大きかったように思う。

最近の競馬ファンには馴染み薄い名前かもしれないが、ラシアンルーブルと言えば、その産駒には、オークスを逃げ切ったイソノルーブルや、フェブラリーハンデや帝王賞を制したラシアンゴールドがいる。

同父系のマルゼンスキーと血統が似ていて、厳しいレースでも最後にグイッと底力を見せることがある。今回、ダイシンオレンジが最後に伸びてきたのを見て、ラシアンルーブルの底力を感じたのだ。

最後に大外から伸びてきたナニハトモアレは、父ブラックホーク×母父アフリートという配合だが、母の母の父は、往年のダート名種牡馬のアサティス

連対馬の母系をほじっていくと、やはり今年のアンタレスSはペースが厳しかったと感じさせられる。