シルクメビウスへの高い信頼が感じられる騎乗だった
文/編集部
ゲート入りが始まって、競馬新聞と馬券を握りしめたところでゲート入りを嫌う馬が出てくると、イライラしたり気持ちが萎えたりするものだ。だが、それはなにも馬券を買ってるファンだけじゃない。ゲートの中で待たされてる馬も、そのような気分になりやすいらしい。
今年の東海Sは、
フサイチセブンがゲート入りを嫌って、なかなかスタートの態勢が調わなかった。
フサイチセブンは馬番10番で、最後から2番目にゲートに入ろうとした。ところが鼻面がゲートに差し掛かった辺りで嫌がり、最後のゲート入りを待っていた
アルトップラン以外の13頭がゲート内で待たされる形になった。
VTRでその時間を測ってみたら、
フサイチセブンがゲートに入ろうとしてから実際にゲートインするまで、
1分53秒を要していた。レースの決着タイムは
1分55秒4。ほとんどそれと同じくらいの時間をゲート内で待っていたことになる。
同日の新潟メイン・駿風Sでもアルシラートがゲート入りを嫌い、多くの馬たちがゲート内で待たされていた。
あのような馬たちはどうして先にゲート入りをさせないんだ、と思うかもしれないが、アルシラートも
フサイチセブンも、言葉はちょっと良くないけど
「前科」がなかったのだろう。
アルシラートも
フサイチセブンも偶数馬番だったので、ゲートの後入れは予定通りだったはず。偶数馬番の馬でも、過去にゲート入りをゴネた
「前科」がある場合は、奇数馬番の馬よりも先にゲートに入る。今回はそのような措置がとられていなかったのだから、
主催者のJRAとしては想定外の出来事だったと想像される。
ゲートに向かう際、係員が長いムチを使って
フサイチセブンの後肢を叩き、それに反応して尻っぱねをしたりして、余計にゲート入りを嫌がったように見えたかもしれないが、その点については、以前にJRAのスターターに取材をしたことがある。
馬はムチによって人間から指示を受けるもので、それを嫌がる時点で
「反抗」と見なされる。ムチの
「合図」に対して馬がきちんと従わず、
調教不十分ということらしい。
まあ、外野から見ていると、もっと他にやりようがあるだろうと感じるところだが、その方法できちんとゲート入りをしている馬もいるわけで、やっぱり入らない馬がいけないということなんでしょうね。
フサイチセブンは道悪ダートでの実績もあった馬だが、調べてみると、馬場は湿っていても雨が降っている中でレースをした経験はなかった。中には、雨粒が体に当たると嫌気を差す馬もいるらしいので、もしかしたら
フサイチセブンも雨でイライラしていたのかもしれない。
フサイチセブンと
アルトップラン以外の馬たちは、いつも以上に長い時間をゲート内で過ごしたわけだが、大きく出遅れる馬はいなかった。この辺りはさすがに歴戦の古馬たちということか。③着以下を引き離して接戦を演じた2頭(
シルクメビウスと
トランセンド)も、好スタートを決めていた。
アンタレスSにおいて1番人気で⑧着に敗れた
トランセンドは、前回の敗戦を払拭するかのように積極的な競馬を見せた。一方、アンタレスSが3番人気で⑤着だった
シルクメビウスは、好発をしながらスッと下げた。どちらも自らの強味を活かそうという騎乗に見えた。
トランセンドは新潟ダート1800mと京都ダート1900mのレコードホルダーで、速い時計の決着に強い。今回は不良馬場で時計が速くなることも想定され、その騎乗は
「スピード決着に付いてこられるものなら来てみろ」という感じだった。
実際に、レコードを樹立した今年2月のアルデバランSの時と同じタイムで走破しているのだから、②着に敗れたとはいえ強い内容だった。
そのようなレコードホルダーがいて、先行馬が止まりづらい不良馬場でありながら、
シルクメビウスの田中博騎手は
よくぞ勇気を持って末脚勝負に徹したと感心した。
道中で後方に位置し、序盤に最後方待機だった
アルトップランが外からマクッて行った時にも動かず、直線に向くまで末脚を温存していた。最後の最後まで伝家の宝刀を抜かず、いよいよという局面になって抜き、他馬を切って捨てたのだから、
シルクメビウスに対する信頼度の高さが感じられる騎乗だった。
接戦となったレースのすべてが良いレースとは限らないが、今回の東海Sは、不測の事態が発生しながらもそれに動じず、自らの持ち味を発揮した2頭がレコードタイムでゴールして、非常に内容が濃かったと思う。
ゲートの中で長時間待たされても集中力を切らさなかった馬。その能力のすべてと持ち味を発揮させた鞍上。馬券を握りしめてイライラしている自分は、ただただ反省するばかりです(苦笑)。
単勝オッズが10倍を切っていたのは3頭だけで(
トランセンド3.3倍、
フサイチセブン3.7倍、
シルクメビウス3.9倍)、その中では
フサイチセブンが脱落する形になってしまった今回のレースだが、今度はぜひ晴れの日の良馬場で、再度この3頭の戦いを見てみたいものだ。