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ダービーらしからぬ超スローペースに……競馬は難しい
文/安福良直

レース前のワクワク感なら、近年まれに見るほど高かった今年のダービー。皐月賞馬ヴィクトワールピサ、青葉賞馬ペルーサ、NHKマイルC馬ダノンシャンティ(残念ながら出走取消)、プリンシパルS馬ルーラーシップ。どの馬も、例年のダービーなら間違いなく1番人気候補だったと思われる。

これだけのメンバーが対決するのだから、先週のオークスを凌ぐ名勝負になるに違いない、と思った人は多かっただろう。でも、レース前の盛り上がりがすごい時ほど、意外とレースそのものは「あれっ?」といった感じになったりするもので、今回はまさにそんなレースになってしまった。

結果は、ここまで名前が挙がっていなかったエイシンフラッシュローズキングダムのワンツー。「競馬って難しいなあ」と改めて思い知らされたダービーだった。

おそらく、有力馬の騎手たちは、他の有力馬を気にしすぎたのだろう。その結果、ダービーらしからぬ超スローペースになってしまった。

レースの序盤3ハロンは36秒1とまずまず速かったが、そこからのハロンタイムが、12秒7、12秒8、13秒5、13秒1、12秒9とガクッとダウン。スタートで後手を踏んだペルーサにとって、これは最悪の流れ。

一方、序盤で絶好位につけたヴィクトワールピサは、レースの上手さが逆に災いしてしまったと言うべきか、この遅い流れに馴染みすぎて、脚を使う機会を逸してしまった感じ。インを突いて見事に抜け出した皐月賞のイメージが強かったのも、逆に災いしたのかもしれない。

末脚に賭けていたヒルノダムールも動くに動けず、広いところでノビノビ走りたいルーラーシップは馬群に包まれた。

例年のダービーは、確たる逃げ馬がいなくてもそれなりに速い流れになるものだが、今年は違った。結局は最後の直線ヨーイドンの勝負で、末の斬れ味もさることながら、エンジンがどれだけ早くかかるか、という要素もモノを言ったようだ。

真っ先にエンジン全開となったのはローズキングダム。このあたりはさすが2歳王者らしい反応の良さ。ヴィクトワールピサルーラーシップはここで置き去りにされた。ヴィクトワールピサルーラーシップも、その後は伸びているだけに、今回はこの一瞬の鈍さが命取りになったか。ここに来るまでに脚を使わされたペルーサも、すでに余力を失っていた。

ということで、一瞬は「ローズキングダム復活のVか」と思ったが、それを内から差し切ったのがエイシンフラッシュ。エンジンのかかりはローズより遅かったが、離されることなくついていき、ローズキングダムの末脚が鈍った瞬間を見事に捕らえた。

久々に内田博幸騎手らしい追い込みの妙技を見せてもらった、という感じだが、思えば先々週のヴィクトリアマイルで、内田博幸騎手はヒカルアマランサスで同じように内から伸びて②着に入っている。

あの時は勝ったブエナビスタの強さが目立ったが、いま思えば、このヒカルアマランサスの競馬が、今回のエイシンフラッシュに見事に活かされたような気もする。どちらも内枠だったし、追い出しのタイミングもほぼ同じ。それにしても、ダービーのヒントが皐月賞や青葉賞ではなく、ヴィクトリアマイルにあったとは……(それも考えすぎか?)。

ところで、今回はサンデーサイレンスの血を持つ馬がほとんどだったが、勝ったエイシンフラッシュは非サンデー系の持ち込み馬。長年、シブい外国血統の馬を日本に導入し続けた『エイシン』の平井豊光オーナーにとっても、悲願のダービー制覇となった。

エイシンフラッシュは非サンデー系だけに、種牡馬として期待できると思う。この馬はドイツで活躍した血が強く、ビワハイジ一族と交配できたらかなり楽しみ。個人的には、非サンデー系の馬に頑張ってもらいたいと思ってはいたのだが、それで選んだのがルーラーシップ。うーん、目のつけどころまでは良かったのだが……。