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今回の勝利が忘れられる時が「本当の復活」なのだろう
文/編集部

出走馬18頭の中で重賞勝ち実績があったのは、ゴールデンダリアサンライズマックスセイウンワンダータケミカヅチの4頭。セイウンワンダー以外の3頭はG3の勝者なので、G1ウイナーのセイウンワンダーが実績面では抜けた存在だったと言えた。

セイウンワンダーが1番人気に推されたのも、そんな実績面が評価されてのことだろうが、その単勝オッズは3~4倍台をうろうろしていた。これは信用しきれないファン心理の表れでもあったろう。

実績面では抜けていても、1年以上勝ち鞍を挙げられていない。そのことがセイウンワンダーの単勝オッズに影響を及ぼしていたのだろうが、今回見せた最後の末脚は、やはり重賞ウイナーのそれ、いや、G1馬のそれでしたね。

ハナを切ることが予想されたシルポートは、前走のメイSに続いての東京芝1800mで、予想通りに逃げの手に出た。しかし、そのペースは前走よりも遅かった。

メイSは34秒6-46秒3-58秒3で通過していったのに対して、今回は35秒1-47秒1-58秒9。OP特別から重賞に変わったものの、道中のラップは0秒5以上も遅い。

こうなれば、先行馬や内枠の馬に有利に働くのは当然で、①~④着は4枠以内の馬が占める形となったわけだが、そんな流れをセイウンワンダーは外から差し切った。力でねじ伏せたと言ってもいいような勝ち方で、着差はわずかではあったが、やはり地力の高さを証明した印象だった。

1年半ぶりのセイウンワンダーの勝利は、このところの2歳牡馬王者の傾向でもある。

ウオッカ、トールポピー、ブエナビスタ、アパパネと、近4年の2歳女王は、いずれも3歳G1も制しているが、牡馬ではそういったタイプが少ない。

2歳王者に輝いた牡馬で、3歳時にG1を制した馬はアドマイヤドン(02年JBCクラシック①着)まで遡り、芝G1ということなら、グラスワンダー(98年有馬記念①着)まで戻ってしまう。

グラスワンダー以前には、バブルガムフェロー(96年天皇賞・秋①着)やナリタブライアン(94年三冠)、ミホノブルボン(92年二冠)などがいるわけだから、これは近年の傾向と言えるだろう。

近年の2歳牡馬王者が3歳時に勝てないことが多いのは、朝日杯FSがマイル戦なのに対して3歳クラシックが2000m以上で行われる面や、2歳の早い時期に厳しいレースを重ねることでの反動もあるのだろう。成長力のある他馬が出現するケースもある。

03年以降の朝日杯FSの勝者で、3歳時に勝ち鞍を挙げられたのはドリームジャーニー(07年神戸新聞杯①着)だけ。3歳時に2勝以上ということなら、エイシンプレストン(00年アーリントンC①着、00年ニュージーランドT4歳S①着)まで遡る。

3歳時に苦杯を嘗めることが多くなる近年の2歳王者。それでも、もう一度花を咲かせようとして、実際に大輪を咲かせるケースがあるのも、また、一度頂点を極めた馬の凄さだろう。

06年に2歳王者となったドリームジャーニーが、5歳時の昨年に宝塚記念と有馬記念を制覇したのは記憶に新しいところ。エイシンプレストンは4歳以降に香港での国際G1を3勝し、アドマイヤコジーンは6歳時に再びG1タイトル(安田記念)を手に入れた。

3歳の年末に阪神Cを快勝したフサイチリシャールや、4歳秋にスワンSを制したコスモサンビームの例もある。近年は、2歳王者が1年以上の時を経て、再び輝きを取り戻すケースが多いのだ。

馬も負けが続くと精神面のダメージを負うというから、「復活」という言葉の裏には、簡単ではない陣営の努力や苦労があるのだろう。それを思えば、今回のセイウンワンダーの勝利には、陣営に対して賞賛の言葉を贈って然るべきなのだろうが、陣営には「まだまだ」という思いもあるのではないだろうか。

レース後の福永騎手も、「秋の大レースに向けて、今回の勝利が良い弾みになれば」と話していた。2歳王者なのだから、もちろん狙っているのはG1タイトルなのだろう。

セイウンワンダーにとっての「エプソムC①着」という実績は、後から見れば、埋もれてしまうべきなのかもしれない。「ああ、そういえば、エプソムCも勝ってたね」と言われる時が、セイウンワンダーにとっての「本当の復活」なのだと思う。