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レコードというだけでなく、前半3Fが33秒1だった点も価値大
文/編集部

夏は牝馬。競馬ファンなら大半が耳にしたことがあるはずの競馬格言だが、函館スプリントSほど明確にそれが結果として出ているレースも珍しいだろう。今年で第17回となる同レースにおいて、牝馬は10勝。特に03年以降のここ8年では、08年のキンシャサノキセキを除いて、すべて牝馬が勝っている。

今年は牝馬の出走が3頭。そのうち、グランプリエンゼルは近5走がすべてふた桁着順、ラブミーチャンは芝では1戦して⑫着だっただけに、普通に考えると厳しそうな雰囲気が漂う。実質的に上位争いが可能そうなのは、前走に芝重賞で③着のワンカラットだけという感じだった。

そのワンカラットは、3.3倍の1番人気だったビービーガルダンに続いて、4.2倍の2番人気。過去の重賞実績を比較すると、ちょっと人気になりすぎかなとも感じたが、結果的にはむしろ「人気がなさすぎ」とも思えてしまうぐらいの楽勝劇だった。②着ビービーガルダンに2馬身の差をつけて1分8秒2のレコード勝ち。

これにはまず、斤量が影響していた面もあるのだろう。ワンカラットは、背負い慣れた54kgだし、この斤量で3歳春には重賞(フィリーズレビュー)を制してもいた。一方で59kgのビービーガルダンは、重賞2勝が56kgでのものだし、57.5kg以上は背負うこと自体が初。

さらには、ワンカラットの1枠1番、ビービーガルダンの7枠13番という枠順もある。「メインレースの考え方」でも指摘していたが、00年以降、勝ち時計が1分9秒0以内だった年はすべて1~3枠の馬、勝ち時計1分9秒1以上だった年はすべて6~8枠の馬が①着となっていた。そして今年も傾向通りに、1分8秒2で1枠の馬が勝利。

そういった面は考慮に入れる必要があり、今回の結果だけで「ワンカラットビービーガルダンは、もはや勝負付けが済んだ」などと言うのは早計だろうが、今回の時計をラップ面も含めて細かく見ていくと、単に勝ち時計が速かっただけではなく、かなりの価値を見出すことができる。

今回の6Fを前後半で分けると、前半3Fが33秒1で、後半3Fが35秒1。函館芝1200mで開催された97~08年の函館スプリントSを振り返ると、今年のように「前半3Fが33秒5以内の流れで勝ったかどうか」というのは、非常に重要な意味を持っているようなのだ。

勝ち馬を並べてみると、前半3Fが33秒5以内だった年の勝ち馬は、97年マサラッキ、99年シンコウフォレスト、01年メジロダーリング、02年サニングデール、03年ビリーヴ、08年キンシャサノキセキ、そして今年のワンカラット。

お気づきだろうか。97年マサラッキ、02年サニングデール、08年キンシャサノキセキは、揃って2年後に高松宮記念を制覇。01年メジロダーリング、03年ビリーヴは、2走後に同年のスプリンターズSで②着。99年シンコウフォレストこそ、その後に未勝利だが、この馬は前年の高松宮記念の勝ち馬だった。

逆に、前半3Fが33秒6以上だった年の勝ち馬は、98年ケイワンバイキング、00年タイキトレジャー、04年シーイズトウショウ、05年シーイズトウショウ、06年ビーナスライン、07年アグネスラズベリ。

タイキトレジャーやシーイズトウショウなど、後にG2やG3を勝った馬はいるが、函館スプリントSを勝った後にG1で勝利はおろか、②着に来た馬も見当たらない。06年ビーナスラインや07年アグネスラズベリは、その後に未勝利のまま引退していた。

このように、前半3Fが33秒5以内か、33秒6以上かというのは、その後を占う上で驚くほど明確な線引きとなっている。そこから考えると、前半3Fが33秒1の中を先行して、しかもレコード時計でまとめたワンカラットは、単に次走で買いかどうかというレベルではなく、長い目で注目度大と言えるだろう。

ワンカラットは芝1200mが今回で4戦目だったが、2歳夏の小倉2歳S(小倉芝1200m)では、前半3Fが33秒2の中を先行して、直線で伸び切れず⑤着に終わっていた。そこから考えると、父ファルブラヴ(※古馬になってから開花して、4~5歳時にジャパンCをはじめとしてG1を8勝した)らしい成長力も感じさせる。今後の伸びシロも、まだ十分に期待できるだろう。

夏は牝馬。牝馬が強い函館スプリントS。確かにそれも強く感じさせる内容ではあったが、ワンカラットについては単にそれだけではなく、「将来がかなり楽しみになる時計内容」だった点も忘れないように、深く頭に刻み込んでおきたいところだ。