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この勝利に非科学的な思考など入る余地はない
文/編集部

1番人気(3.7倍)はやや抜けた感じでセイクリッドバレーが推されていたが、6番人気(9.5倍)のムラマサノヨートーまでが10倍以内に収まり、10番人気のメイショウレガーロでも20.8倍と、単勝オッズはかなり割れていた。レース前は一時、7番人気までが10倍以内となる場面もあって、いかに難解な1戦だったかがよくわかる。

レースを振り返ってみても、2番手から押し切った①着ファイアーフロート、ゴール前で急追した②着キョウエイストームの着差は本当にわずかなハナ差。写真判定の結果が出るまでは10分程度かかり、結果を待っている間は「これは同着もあり得るぞ」と思ったほど。手に汗握る大接戦とは、まさにこのこと

大接戦だったのはなにも優勝争いだけではない。①着ファイアーフロートからブービー(⑬着)のピサノパテックまでがわずか0秒6差以内に収まり、その着差を並べると、ハナ、1馬身、ハナ、クビ、1馬身1/4、ハナ、ハナ、アタマ、クビ、クビ、ハナ、クビ(⑭着ファストロックは6馬身差)。

ゴール前で馬群は団子状態。その光景を見ていて、思わず東京マラソンのスタートを思い出してしまった。別に東京マラソンでなくてもいいのですが(笑)。

団子状態の大接戦となったのは、1000m通過が58秒5(過去10年で3番目に遅い)となり、前がかりになりやすい傾向にあるこのレースとしては、ペースが思ったほど上がらなかったことがひとつの要因だろう。

ちなみに、過去10年で1000m通過がもっとも遅かったのは03年の58秒9、次いで04年の58秒8。03年はブレイクタイムが、04年はマイネルモルゲンが勝利していたが、2頭とも4角2番手以内から押し切っていた。

京成杯AHは開幕週で行われることもあり、もともと先行有利の傾向が強いレースだが、ペースが上がらなければ、先行馬が押し切るというのは自然と言える。1000m通過が58秒5だった今年、僅差だったとはいえ、ファイアーフロートが4角2番手から押し切ったことは納得できる。

では、ファイアーフロートは展開や傑出馬不在のメンバー構成に恵まれた結果、勝利を手にしたのだろうか。

よくよく考えると、OPクラスで⑫着(2走前のニューイヤーS)しかない重賞初挑戦の馬が、いきなり55kgの斤量を課されている。これはサンカルロ(57kg)、セイクリッドバレー(56.5kg)、キャプテンベガ(56.5kg)、メイショウレガーロ(56kg)に次いで重い斤量だが、その4頭はいずれも芝重賞で連対実績があった。

同じ55kgだったフライングアップルダイシンプランにしても、前者は芝重賞勝ちの実績があり、後者は前走の小倉日経オープンで②着だった。と見ると、ファイアーフロート55kgはかなり見込まれた斤量と言わざるを得ない。その中で勝利したことは高評価に値するものだろう。

また、今回の勝利には、人馬が難関データを打ち破ったという背景もある。それまで、スペシャルウィーク産駒の牡セン馬は中山芝重賞が[0.4.2.37]であり、津村騎手は牡セン馬に騎乗しての中山芝が[0.6.8.88]だった。ひとつのデータが打ち破られることはそう珍しくないが、ふたつ同時にとなると、なかなか難しい。

ファイアーフロートは見込まれた印象の斤量55kgを克服し、なおかつ、人馬ともに難関データをも跳ね返した。際どい大接戦も写真判定の末に制した。こうして見ると、今回の勝利が何かに導かれていたような気さえしてくる。

ファイアーフロートデビュー戦(東京芝1600m)はナカヤマフェスタの④着。ナカヤマフェスタはその後、東京スポーツ杯2歳Sセントライト記念を制し、今年の宝塚記念でG1制覇を成し遂げ、さらには凱旋門賞に挑もうとしている。

ファイアーフロートデビュー戦④着の後、2回の長期休養を挟み、6回のふた桁の馬体増減を繰り返し、それでも着実に条件戦を勝ち上がってきた。ナカヤマフェスタと比べると、出世には時間を要したが、重賞初挑戦となった今回の京成杯AHまで辿り着いた。

鞍上の津村騎手は今年2月に落馬によって負傷し、4ヶ月半もターフから離れることを余儀なくされていた。

そんな人馬に競馬の神様がご褒美をくれたのか。非科学的な思考だとはわかっているが、ついそんなことを考えてしまった。ただもちろん、重賞を勝つということは、勝てるだけの力がなくては達成できない。

ファイアーフロートは前走の長岡Sを1分20秒4で逃げ切っていたが、新装後(01年以降)の新潟芝1400mを1分20秒4以内で勝利した馬はそれまで7頭しかいなかった。その7頭の中にはG1馬のキンシャサノキセキをはじめ、マグナーテン(芝重賞4勝)、ウインラディウス(芝重賞3勝)、ゴッドオブチャンス(芝重賞1勝)などが含まれている。

ファイアーフロートは前走の長岡S重賞を勝てるだけのポテンシャルを示していた。この勝利は自身の力で掴み取り、それをしっかりと導いたのが津村騎手。自分で言っておきながら何ですが(笑)、非科学的な思考が入る余地はそこにない。人馬とも見事。