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本番に向けての楽しみを増幅させる、そんな前哨戦だった
文/編集部

出走馬の馬体重が発表された瞬間、「何だこれは!?」と思わず声を出してしまった。発した言葉は違えど、その瞬間に驚きや戸惑いといった感情が生じた人は少なくなかったはず。

出走馬の馬体重を見ると、増減が10kg以上あった馬はタガノエリザベート(14kg増)、アパパネ(24kg増)、アグネスワルツ(12kg増)、レディアルバローザ(14kg増)、ワイルドラズベリー(20kg増)、タガノイノセンス(10kg減)、エーシンリターンズ(12kg増)。

出走馬12頭のうち、半数以上の7頭の馬体重が10kg以上も増減していたら、感情が揺り動かされるのも無理はないだろう。なお、その7頭のうち、馬体減だったのはタガノイノセンスだけで、その他の6頭は休み明けで馬体増という状況だった。

「アパパネさんたら、ちょっと見ないうちにずいぶんと大きくなられて。500kgの大台までもう少しだし、体もすっかり横綱って感じ?」「そんな、ラズベリーちゃんだって人のことは言えないじゃない」「エリザベートちゃんやリターンズちゃんはそれでも、デビュー時よりは軽いのね。私もあの頃の体型に戻りたいわ」

オークス以来、4ヶ月ぶりに顔を会わせた馬も多く、微妙なお年頃の女の子同士ということもあって、パドックではそんな会話がなされていた可能性も否定はできない?

そんな妄想話はさておき(笑)、馬体重の大幅な増減が目立った中、勝利を収めたのは出走馬中で唯一、増減なしだったアニメイトバイオ。春の牝馬クラシックでは桜花賞⑧着(20kg減)、オークス④着(14kg増)と、馬体重の大幅な増減があったが、今回は4ヶ月ぶりを感じさせないほどの好仕上がりでレースを迎えた。

レースは1000m通過59秒1。トゥニーポートが淀みないペースで引っ張る流れの中、アニメイトバイオはごった返す先行集団の後方に位置し、アパパネアグネスワルツオウケンサクラといった上位人気馬たちを眼前に見る形。

馬群が固まったまま直線に入り、レディアルバローザニチドウルチルの間を割ろうとしたアニメイトバイオだったが、一旦、そのスペースが狭まり、進路が塞がりかかる。

ところが、アニメイトバイオ&後藤騎手はそこで慌てず怯まず。スペースが開くと一気に加速し、内から抜け出してきたアパパネ、外から伸びたエーシンリターンズの間から突き抜け、大外ワイルドラズベリーの強襲をアタマ差退け、先頭でゴールを駆け抜けた。

今回は本番を見据えた仕様の馬が多い印象だったとはいえ、サンテミリオン(オークス①着)以外の桜花賞オークスの③着以内馬が顔を揃えていたから、この勝利にはメンバーの質的にも価値が見出せる

アニメイトバイオは昨年暮れの阪神JFで①着アパパネと0秒1差の②着。すでに潜在能力の高さは証明していたが、馬群を割る根性には精神的なタフさを感じさせ、計時した上がり33秒8は自己ベストだったことからも、夏を越してレベルアップしたということだろう。

一方、春に牝馬二冠を達成したアパパネオークスは10kg減で470kgだったから、24kg増で494kgという馬体には回復分も含まれていたのだろうが、いくらか余裕もあったはず。

レースは直線で内に閉じ込められて窮屈になるシーンもあったし、4角7番手以下の差し馬が③着以内を占めた中、4角4番手から渋太く差し込んで0秒2差だったから、まったく悲観することはない。

86年以降のローズSを振り返ると、馬体重が20kg以上増だった馬は[0.1.0.17]という成績だった。馬券圏内に入ったのは95年②着のプライムステージ(20kg増)だけで、そのデータを見ると、ワイルドラズベリー(20kg増)の②着というのも高評価できるだろう。

さらに言えば、その[0.1.0.17]という成績の中には、03年に1番人気で⑤着に敗れたスティルインラブ(22kg増)も含まれている。スティルインラブローズSで初めて馬券圏外に敗れたが、次走の秋華賞を制し、メジロラモーヌ以来、史上2頭目となる牝馬三冠を達成した。

20kg以上の馬体増で臨んだローズSで初めて馬券圏外。桜花賞の前哨戦・チューリップ賞が②着だった点でも、アパパネスティルインラブは共通している。G1で3戦3勝という戦績が示す通り、アパパネ本番に強いタイプという気もする。

アパパネ史上3頭目となる牝馬三冠を達成するのか。それとも、ライバルたちがそれを阻止するのか。前哨戦のローズSでも激しい戦いが繰り広げられたが、秋華賞(10月17日)も激戦必至だろう。今年のローズS本番に向けての楽しみを増幅させる、そんな要素が多分に盛り込まれた前哨戦だった。