今回は適性面による勝利の印象もあるが、枠順や母の血統面も加味すると将来が楽しみ
文/編集部
芝重賞の勝ち馬こそ、
エイシンドーバー、
サクラオリオンと2頭いたものの、JRAのダート重賞の実績では、①着はおろか②着に来たことのある馬すら不在だった今年の
エルムS(地方のダート交流重賞の勝ち馬も、
アドマイヤスバルがいただけ)。
1~2番人気には、前走に同コースのOP特別の
しらかばSで連対していた
クリールパッション、
エーシンモアオバーが推され、結果的にも、その2頭は①着と③着に好走した。
しらかばS組は、出走13頭の中で半数以上の7頭を占めていたが、ハンデ戦の
しらかばS→別定戦の
エルムSでの斤量比較をすると、
しらかばSで①~②着だった
クリールパッション、
エーシンモアオバーの2頭だけが前走から斤量減となり、③着以下だった他5頭はすべて今回が斤量増。
そのあたりを踏まえると、普通に考えれば
「しらかばS組は、①~②着馬を③着以下の馬たちが逆転するのは難しそう」という印象が強く、それもあって3~4番人気は別路線組だったのだと思われるが、結果的にも、
しらばかSの上位2頭に別路線組が挟まる形の①~③着となった。
別路線組で最先着の②着となったのが、前走が地方の交流重賞(
ブリーダーズゴールドC)で④着だった
オーロマイスター。この馬が先行して直線半ばで一旦は先頭に立った時には、
「いよいよか!」と身を乗り出して胸躍るものがあった。
「いよいよか!」といっても、同馬の初重賞制覇のことではない。いや、そのことも胸が躍らないわけでもないが、そのこと以上にドキドキしたのは
「父サンデー系がいよいよエルムSを初制覇か!」という点についてだった。
エルムSが札幌ダ1700mの重賞として行なわれた97~08年の計12年で(96年は準OP、09年は新潟での開催)、
父サンデー系は[0.1.0.15]。単勝1.2倍という断然の1番人気だった04年の
ウインデュエル(
父サンデーサイレンス)が②着に来ているだけで、2~5番人気の馬でも[0.0.0.8]という不振ぶりだった。
さらに言えば、
サンデー系以外の
父ターントゥ系も[1.3.2.23]で、①着は07年の
メイショウトウコン(
父マヤノトップガン)だけ。ただしこの07年にしても、2~6番人気が同じ
父ターントゥ系で、1番人気も97~08年に[0.2.3.12]となる
父ナスルーラ系の馬だったから、
「押し出されたような形の勝利」という印象もあった。
今年も1番人気と3~4番人気が
父サンデー系で、同父系が上位人気に多いという意味では07年に近い面もあったが、2番人気(
クリールパッション)と6番人気(
ケイアイテンジン)は
父ターントゥ系以外。
「この中で父サンデー系が勝利すれば、血統の傾向的に風穴が開くかも」と、ひそかにワクワクしていたのだが……。
結局、今年も
父サンデー系の勝利はお預け。3頭が出走して②③⑤着なら、先述の過去データを考えれば、例年以上には好走しているのだが、勝利を収めたのは、04~05年の
エルムSを連覇をした
パーソナルラッシュと同じ
ワイルドラッシュ産駒の
クリールパッションとなった。
クリールパッションは、札幌ダ1700mがこれで4戦4勝。
エルムSで実績のある父の産駒で、なおかつ自身のコース適性も相当に高いものがあるのだろう。今回の勝因としてはもちろん、コース適性という面も少なくないように思う。
ただし、それだけで済ませたくないと感じる面が、少なくとも2点ある。ひとつは今回の1枠1番という枠順で、もうひとつは母方も含めた血統。
枠順については、
「メインレースの考え方」でも触れられていたが、今回以前の札幌ダ1700mの重賞(アラブを除く)で、1~3枠の馬は[1.4.5.28]と1勝しかしていなかった。
唯一の勝ち馬は、97年の
エルムSを勝った
バトルライン。同馬は同年の
フェブラリーSで③着に来ていたほどの実力馬だったから、1~3枠での勝利は
「実力の裏づけがないとできない芸当」と見ることもできそうで、その意味で今回の勝利も価値が上がってくる。
それから、
クリールパッションは母の血統を見ると、
トニービン×
ロベルト×
グロースタークとかなり重厚で、
リボーの6×5、
ハイペリオンの5×5というクロスも持っている。一見してどうしても
「底力は十分という感じだが、開化は遅めになりそう」という印象を持ってしまう血統だ。
クリールパッションの初重賞制覇が5歳9月となったのは、そういった母方の血統の影響もあるように思われるが、こういう重厚な血統だからこそ、初の重賞制覇をきっかけとして急激に強くなる可能性も低くないように思われる。
今回に関しては、傾向や戦績を考えても
「父サンデー系の面々より適性面で上だった」という印象はあるが、半年後、1年後にはぜひとも、
「あの馬が相手では、父サンデー系が勝てなかったのも仕方ないな」と納得できるような活躍をしていることを願いたいものだ。