テイクオーバーターゲット同様の強い逃げ切りだったと言っていい
文/浅田知広
ゴール前はクビの上げ下げの大接戦。去年に続いて僅差の写真判定に持ち込まれた
スプリンターズSは、香港からの遠征馬・
ウルトラファンタジーが勝利を手中にした。
そもそも短距離戦というのは着差がつきづらく……。などと書こうと思ったところで、ふと去年書いた
インプレを見直したら、やっぱり書き出しはハナ差がどうした、という話。しかも、その原稿をあさっている最中に、そのハナ差の勝負を演じた2位入線・
ダッシャーゴーゴー降着のアナウンスが飛び込んできた。
ともあれ、降着とは関係なく、
「すっきり」勝利を手中にしたのは
ウルトラファンタジーだった。
1番人気に推されたのは同じ
香港馬でも、
前哨戦・セントウルSで②着に好走していた
グリーンバーディー。
「日本で好走」、
「包まれる不利」、
「59kgから2kg減」、そして
「休養明け2戦目」。少し考えただけで
買いたくなる材料がいくつも出てくるもので、
1番人気になるのも当然といったところだ。
一方の
ウルトラファンタジーは、
「日本は初めて」、
「休養明け」、
「逃げられないと脆そう」。少し考えただけで
買いたくなくなる材料がいくつも出てくるもので、こちらはこちらで
10番人気という評価も妥当だったのかもしれない。
とはいえ。今年に入って
ウルトラファンタジー対
グリーンバーディーは、3戦すべて
ウルトラファンタジーが先着。
国際G1勝ちという実績では
グリーンバーディーが上位だったが、別に直接対決の成績比較で劣るわけでもなく、いくら
諸々の不安材料があるといっても、
人気面で差がつきすぎていたとも言える。
さらに、このレースは逃げ・先行有利という過去の傾向もあるのだから、
10番人気という低評価なら
「逃げられないと脆そう」ではなく、
「逃げられれば強そう」と考える手も十分にあったはず。現実に、それで馬券を取った方もいるに違いない。
ただ、レースは好ダッシュこそ決めたものの、外から
ローレルゲレイロに競られる厳しい展開。前半3ハロン33秒3は例年より遅いだけでなく、当日の
500万条件(32秒9)より遅いくらいだが、逃げ馬にとって競り込まれる展開は、ラップタイム以上に応えることもあるものだ。
ところが。
ウルトラファンタジーは3コーナーで先頭を奪い返すと、4コーナーでは後続を突き放しにかかるほど。ああ、どこかで見たことのある走りだな、と、後になって過去の
スプリンターズSを見直すと、近年数ある逃げ切りの中でも、4コーナーから直線入り口は06年①着の
テイクオーバーターゲットによく似ている。
最後の着差こそ違ったものの、
テイクオーバーターゲットは夏場も英国に遠征し、前走は
セントウルSという順調な臨戦過程。
ウルトラファンタジーは休養明けで日本初出走ということを考えれば、こちらも
テイクオーバーターゲット同様の強い逃げ切りだったと言っていいだろう。
その
テイクオーバーターゲットに05年①着の
サイレントウィットネス、そして、
香港スプリントでの日本馬の不甲斐ない成績。どうもこの路線、
香港馬にやられっぱなしという印象は否めない。
香港には馬産がなく、その多くは
南半球産馬。今年、繰り上がりで②着になった
キンシャサノキセキもその
南半球産馬だ。
季節が逆になる
南半球産馬は、日本でいう秋生まれになってしまうため、いまの中央競馬のシステム(3歳秋までに1勝しないと出走できるレースが大幅に制限される)では、手を出しづらいのは確か。ただ、これだけ痛い目に遭わされ続けると、そのくらいのリスクを負う価値もありそうに思えてくる。
これを機会にワタクシも
オーストラリアのセリに出かけて……、というお金は残念ながらないのだが、外国産馬をお持ちの馬主の皆さん、選択肢のひとつとして、次は
オーストラリア産、
ニュージーランド産も少し考えてみてはいかがでしょうか。