良血覚醒で重賞初勝利! 不安材料も牝系の血で克服できるか?
文/編集部
シリウスSが阪神ダ2000mを舞台に行なわれるようになった07年以降、過去3年の勝ち馬の前走はすべて、阪神ダ1800mの準OPの
オークランドRCT。今年も
オークランドRCT組、しかもその勝ち馬の
キングスエンブレムが1番人気に推され、見事に傾向を4年連続と延ばす結果になった。
シリウスSは、来年以降も
オークランドRCT組に要注目。単純にそう言うのは簡単だが、
キングスエンブレムの走りを、前走という点だけではなく、デビューからの線として見ると、
オークランドRCTでのレースぶりは、分岐点となるようなインパクトの大きい走りだった。
キングスエンブレムは今回、
「サカラート、ヴァーミリアンに続いて、JRA史上初のダート重賞3兄弟制覇」という点が話題になっているが、今年の春にはどうしていたかと言うと、阪神の準OPで2戦連続でふた桁着順の敗戦。その時点では正直、
「上と比べると……」という印象もあったのは否めない。
昨春に京都ダ1800mの準OP(
上賀茂S)で挙げたダートの初勝利も、
ダイシンオレンジ(今春に重賞の
アンタレスSを勝利)などを直線で突き放していて、潜在能力の高さを十分に示す楽勝ではあった。ただ、終始スムーズな競馬であったことも確かだと思う。
そんな
キングスエンブレムが、
オークランドRCTでは10頭立てと少なめの頭数だったとはいえ、2枠から馬群の中で脚を溜めて、直線では前が狭くなる窮屈な競馬。見ていて
「ああ、これは厳しそうだな」と思ったのも束の間、残り200mほどで約1頭分のスペースを割って出ると、驚くほど抜群の加速力であっさりと2馬身差で楽勝していた。
ラップを確認すると、残り3Fから12秒2-
11秒8-12秒5。後ろから2F目が速くなっているが、要するに
キングスエンブレムは、ラップが速くなって窮屈な競馬になっている中を、一瞬の加速力で抜け出したことになる。春までには感じた
「この血統にしては……」という印象を一気に払拭して、
「良血の覚醒」を思わせる走りだった。
そして、ダート重賞で初出走となる今回。前走の走りを考えると、結果的には
「もっと突き放して勝っても不思議なかったのにな」という思いもあったが、地方のダート重賞を4勝している
ラヴェリータらの追撃を封じて、4分の3馬身差ながら重賞初勝利を収めた。
キングスエンブレムは今後、
JCダートなどを目標にしていくとのことだが、
「まだまだこんなもんじゃないはず」という期待感があるからこそ、あえて今後の不安材料も少し挙げておくことにしたい。
まず、
「阪神ダ2000mで行なわれた過去3年のシリウスSの勝ち馬が、その後、現状ではそれほど大きな活躍をしているわけもない」という点。
07年の
ドラゴンファイヤーは、その後に未勝利。08年の
マイネルアワグラスは、次走にOP特別を勝利したが、その後は未勝利。09年の
ワンダーアキュートは、次走の
武蔵野Sで重賞連勝を成し遂げたが、その後は未勝利。要するに過去3年の勝ち馬は、
シリウスSを制した2走後以降の勝利例がまだない。
それから、
キングスエンブレムは父が
ミスプロ系の
ウォーエンブレムだが、
「95年以降のJRAのダート重賞において、前走が条件戦で重賞勝利を収めた父ミスプロ系は先週までに7頭。その7頭の中で、後にダート重賞(地方も含めて)の2勝目を挙げた馬は1頭もいない」という点。
言い方を変えると、
「前走が条件戦ながらダート重賞を制した父ミスプロ系は、これまでいずれも、ダート重賞での勝利がそれ1回きりで終わっている」ということになる。98年にダート変更となった
共同通信杯を制した
エルコンドルパサーが、その後に芝重賞を何勝もしたという例はあるが……。
特に、
父ミスプロ系に関するデータの方は気になる材料ではあるが、
キングスエンブレムは
父ミスプロ系というより、
サカラートや
ヴァーミリアンの半弟、さらには
「ダイワメジャーやダイワスカーレットなどと同じスカーレット一族」という、母方の血の影響が大きい印象もある。
近年、数々のデータを覆してきたこの牝系の馬らしく、
キングスエンブレムも上記のような些細な不安材料など、どんどん打ち破っていくのか。それとも、過去の馬たちと同様、期待ほどの結果は残せない感じとなってしまうのか。
いずれにせよ、ひとつの大きなポイントは、この後の数戦にどういった結果を残せるかだろう。もしかしたら
JCダートなどで、偉大な兄の
ヴァーミリアンとの対決も見られるかもしれないが、一戦一戦、細かな面を含めてしっかりとレースぶりを見守っていきたい。